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なぜ今、「聞き上手な人」が求められているのか
インターネットやSNSの普及によって、世界にはさまざまな価値観の人が存在することが可視化されるようになりました。
発信することばかりに一生懸命な人が増えている今、それぞれの主張を聞き、違いを認め合う必要性が出てきています。その結果重要になったのが、相手を知るためのコミュニケーションスキルである“聞く力”。
聞く力を身につけ、聞き上手な人になることが、せわしない現代社会で働く私たちに求められているのです。
“聞く力”をテーマにしたビジネス本『LISTEN』が8万部超のベストセラーに
『LISTEN 知性豊かで創造力がある人になれる』
著/ケイト・マーフィ 監訳/篠田真貴子 翻訳/松丸さとみ 日経BP刊
これまで関心が寄せられがちだった“話すこと”ではなく、“聞くこと”の重要性を説いた一冊。“聞く力”が人間関係を円滑にするための“新しいスキル”として急速に認知されるように。電子版を含め、8万部超のベストセラーに。
「聞き上手な人」の特徴とはどのようなもの?
聞くことのプロであるエグゼクティブコーチの國武大紀さんとフリーアナウンサーの魚住りえさんに、聞く力のメリットや、聞き上手な人の特徴について伺いました。
▲エグゼクティブコーチ 國武大紀さん
くにたけ・だいき/大学卒業後、JICA、外交官などを経て現職。現在は40か国以上での組織開発の実績をもとに、コーチングやプロコーチ育成を行う。近著に『その「ひと言」でチームが変わる最高のフィードバック』(大和書房)。
▲フリーアナウンサー 魚住りえさん
うおずみ・りえ/1995年、日本テレビにアナウンサーとして入社。’04年の独立後はフリーとして活躍するほか、話し方スクールを開校。著書に『たった1分で会話が弾み、印象まで良くなる聞く力の教科書』(東洋経済新報社)など。
聞く力とは人を理解する力。聞き上手はビジネス面でもメリットが大きい
「聞く力とは、“人を理解する力”ともいえます。話の内容だけでなく、相手の気持ちや感情も含めて、相手を丸ごと感じることです。
しかし、世の中の人は自分が話すばかりで、ちゃんと聞けていない人が多いのが現状。『まずは聞いてみよう』という姿勢を持つことが大切」(國武さん)
「昨今ビジネスシーンにおいては、上下関係すらも平等に、互いを尊重する関係を目指す企業が増えています。
ひとりひとりの考えを聞き、ビジョンや方向性を全員で決めていく働き方が主流になる中で、聞き上手であることは自分にとっても、会社にとってもメリット絶大です」(魚住さん)
聞き上手な人ってどんな人? お手本にすべき著名人
謙虚に聞き、驚き、共感するリアクションの達人
▲コラムニスト マツコ・デラックスさん(51歳)
バラエティ番組を中心に活躍。番組に出演する専門家や一般人の本音と魅力を引き出すMC力は、業界からの信頼も厚い。
「バラエティ番組を中心に活躍するマツコ・デラックスさんは、謙虚に聞き、驚き、共感するリアクションの達人!
番組でゲストの話を聞くシーンでは、最初は半信半疑で話を聞きつつも『やだ、おいしいじゃない』と素直に認めたり、『知らなかったー!』と驚いたり。どんな相手でも謙虚に聞く態度は、聞き上手のお手本そのもの」(魚住さん)
ゲストの話を聞いて、促す名司会ぶりが見事!
▲TBSアナウンサー 安住紳一郎さん(50歳)
あずみ・しんいちろう/『アナウンサーは話すより聞き上手であることが大事』と発言。落ち着いた雰囲気も“つい話したくなる”一因?
「安住さんは、情報番組ではどんな相手の話でもほとんど遮らないし、否定しないんですよね。相手の考えとして受け入れてコメントを返す。さらにその場にいる全員に目を配って発言を促す様子はさすがです」(國武さん)
相手の話を聞き逃さない“聞く姿勢”が明確
▲タレント 松岡修造さん(56歳)
まつおか・しゅうぞう/’95年ウィンブルドン選手権ベスト8進出など、テニス選手として世界的に活躍。現在は指導者やキャスターを務める。
「松岡修造さんは、インタビューでは必ず相手をじっと見据え、前のめりの体勢で聞いています。アツい人だからだけではなく(笑)、『あなたの話を真剣に聞いてますよ』という姿勢が明確なんです」(魚住さん)
聞き役に徹しつつ、ときに鋭い“質問力”が光る
▲エッセイスト 阿川佐和子さん(70歳)
あがわ・さわこ/長年にわたりTV番組の進行役や週刊誌の対談企画でインタビュアーを担当。’12年には著書『聞く力』(文藝春秋)が大ヒット。
「阿川さんは、討論番組で侃々諤々とトークが進む中、常に静かに控えている印象。
でも合間に『で、あなたはどっちの意見?』など、的確な指摘や質問を織り交ぜて本音や情報を聞き出しています。質問力の高さはピカイチです」(魚住さん)
ライバルに“聞く耳”を持つ素直さがSHINJOの強み
▲北海道日本ハムファイターズ監督 新庄剛志さん(52歳)
しんじょう・つよし/阪神タイガース、MLB挑戦ののち、’04年に北海道日本ハムファイターズに入団。2022年シーズン、日ハムの監督に電撃就任。
「彼は発信上手なイメージですが、研究熱心で見聞きして〝良い〟と思ったことは柔軟に練習に取り入れ、選手にも提案しますよね。
また、他球団のコーチに『どうやって練習してるの?』と聞いてしまう素直さも。既成概念にとらわれないオープンさが、彼にとっての聞く力なのだと思います」(魚住さん)
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プロフェッショナルたちに学ぶ「聞き上手」の極意
日ごろから人の話を“聞く”ことを仕事にしているプロフェッショナルたちに、具体的なテクニックや心構えなど、「聞く力の極意」を教えてもらいます。
“聞く力”は、相手との信頼関係を築くことができるもの
▲インタビュアー/ライター 宮本恵理子さん
みやもと・えりこ/1978年生まれ。日経ホーム出版(現・日経BP)を経てフリーランスに。インタビュー歴20年以上。著書『行列のできるインタビュアーの聞く技術』(ダイヤモンド社)には具体的なノウハウが満載。
〈宮本恵理子さんの“聞き上手”の極意〉
1. 相手が言ったことを自分なりの言葉に置き換えて問い返す
2. 沈黙を恐れない
3.「ここまでは知っていますよ」と示す
「聞き手の役割は、相手を安心させ、その人が自力では出せない言葉に導くこと。『こういう意味ですか?』と自分の解釈を加えながら問い返すのは、『あなたのことを理解したい』という姿勢を示しながら、話を深めるきっかけにもなるから」(宮本さん)
じっくりと待つことで、安心して気持ちを伝えてもらう
▲元養護教諭/NLP教育コンサルタント 桑原朱美さん
くわはら・あけみ/NLP(神経言語プログラミング)教育コンサルタント。養護教諭として25年勤務。独立後、現場体験をもとに子供たちの本音を引き出す「保健室コーチング」を確立。著書に『保健室から見える親が知らない子どもたち』(青春出版社)など
〈桑原朱美さんの“聞き上手”の極意〉
1. 相手が話し始めるまで待つ
2. 相手の状況を決めつけずニュートラルな気持ちで聞く
「子供は言葉にして説明することが苦手。急かしてしまったり、先回りして動いたりすると、自分の言葉で表現することをあきらめてしまいます。じっくり待つことで、安心して自分の気持ちを伝えてくれます」(桑原さん)
“聴く力”と“聞く力”、そして“聞かない力”が必要
▲公認心理師/元銀座No.1ホステス 塚越友子/水希さん
つかこし・ともこ(みずき)/公認心理師、臨床心理士。大学院修了後就職するも、過労でうつを発症。治療しながらホステスとして働き、カウンセリングを学んだところホステスの才能が開花。現在は東京中央カウンセリング代表を務める。
〈塚越友子/水希さんの“聞き上手”の極意〉
1. 相手の抽象的な表現は具体的に探っていく
2. 会話のリズムや間合いに注目する
「カウンセリングでは、相談者の過去の体験や感情など、言葉にできない情報を“聴く”。ホステスの“聞く”は、お客様のニーズを察知するためのもの。武勇伝を聞く、逆に機密情報などはあえて“聞かない”力も求められます」(塚越さん)
親近感を持ってもらうことが、よりよい商品の提案につながる
▲ルイ・ヴィトン ジャパン 元トップ販売員 土井美和さん
どい・みわ/’01年、ルイ・ヴィトンジャパンに入社。’12年に全国の販売員中、顧客数1位となる。’20年の独立後は顧客づくりのメソッドを確立、サービス業向けの研修や講演を行う。著書に『トップ販売員の接客術』(大和出版)など。
〈土井美和さんの“聞き上手”の極意〉
1. 自分との共通点を探して、価値観を共有する
2. 「さしすせそ」の相槌を活用する
「販売員時代、コミュニケーションにおいて大事にしていたのは“共感して聞く”こと。自分との共通点を探し、価値観を共有する。相手に親近感を持ってもらえるし、よりよい商品の提案にもつながります」(土井さん)
仏教は、カウンセリングの一面を併せ持っている
▲浄土真宗本願寺派 僧侶 山口依乗さん
やまぐち・えじょう/浄土真宗本願寺派の僧侶。心理カウンセラーとしても30年にわたり臨床の現場で学び、現在は仏法・心理学の両面から心身のケアに携わる。現在は週に2日程度、東京の「寺カフェ 代官山」に勤務。
〈山口依乗さんの“聞き上手”の極意〉
1. まずは自分が笑顔になる
2. 相手の心の働きを五感で感じ取る
「仏教は、もともとカウンセリングの一面を併せ持っています。相手に不安なく、安心して話をしてもらう際の教えとして、【和顔愛語にして先意承問す(わげんあいごにして せんいじょうもんす)】(和やかな笑顔と思いやりのある言葉で人をいたわり、先に相手の気持ちを察して何ができるか自分に問う)という言葉があります。相手を安心させ、笑ってほしいなら、まずはこちらが笑顔になることを心がけて」(山口さん)
必要な情報を“聞き出す”努力
▲福井県立図書館司書 宮川陽子さん
みやがわ・ようこ/福井県立図書館勤務。本や資料を探すレファレンス・サービスにおける過去の「覚え違い」事例をWebで公開したところ話題に。2021年には『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』(福井県立図書館編著・講談社)も発売。
〈宮川陽子さんの“聞き上手”の極意〉
1. 相手の主張を、まずは丸ごと信じてみる
2. 相手が持っている情報を“なんでもいいから”引き出す
「利用者が探している資料や本の題名は、うろ覚えや覚え違いをしていることも多く、必要な情報を“聞き出す”努力が不可欠です。“子供のころ好きだった本”など、曖昧な記憶から探す場合は『絵本ですか?』『分厚さは?』など、質問を重ねます。さまざまな角度からアプローチすることで、利用者自身が思い出してくれることも多いんですよ」(宮川さん)
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聞き上手になるための心得5
さまざまなプロフェッショナルたちの「聞く力」から見えてきた、聞くことの本質やメリットとは? 基本となる考え方と聞き上手になるための心得をまとめました。
〈POINT〉
・“聞く”という行為は、相手に向き合って理解しようとする“姿勢”
・「聞きたい」という気持ちを見える形で示して相手に届ける表現方法が“聞くテクニック”
・聞く力の最大のメリットは信頼関係が生まれること
“聞く”には種類があることを知る
相手の話や感情に積極的に耳を傾ける、相手の真意や情報を引き出すために質問する、相手の要求やニーズを尋ねるなど、目的によって“聞き方”の方法や意味合いも変化する。
まずはその違いを知り、今はどの種類の“聞く”が必要か、相手の望む“聞く”ができているか意識することから始めるべし。
「相手を理解したいと思う姿勢」を示す
相手の情報は、表情・声のトーンやしぐさなど、言語以外にも宿るもの。
こちら側が体全体で聞いている姿勢・態度を示し「あなたを理解したい」という気持ちが相手に伝わったとき、初めて心を開いてくれるように。まず相手に向き合うことが何よりも大切。
相手の話を決して“否定”しない
人には「自分を受け入れてほしい」という承認欲求がある。それを満たすには、“否定しない”ことが大切。
自分の意見を曲げる、ということではなく「自分の価値観とは違うけど、あなたはそういう考え方なのね」と共感し、尊重する。そうすることで相手は「話を聞いてくれた、受け入れられた」と感じ、信頼を寄せてくれるようになるはず。
真摯に“聞く”ことで結果的に信頼関係が生まれる
相手の話を真剣に聞くことで、相手は「安心する」「理解された」と感じ、親近感を持つように。それが絶対的な安全基地となり、お互いのパートナーシップを強固なものにしてくれる。
自分の意見や価値観はしっかり持っておく
聞くうえでの注意点は、相手ばかり優先し、自分をないがしろにしてしまうケースがあること。それを防ぐには、自分が大事にしたいことは何か、相手とどんな関係性を築きたいのか、価値観やスタンスを明確にしておくことが大事。
「自己理解」を軸として「相手理解」を深めることで、初めて「相互理解」となることを忘れずに。
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人生を変えるかもしれない『聞く力』
SNS全盛時代の今、働く30歳からの私たちに求められるのは、相手を知るためのコミュニケーションスキル「聞く力」。聞き上手になることで信頼関係の構築ができ、ビジネスの場面でも大きなメリットを生みます。
著名人やプロフェッショナルたちをお手本に、「聞き上手な人」を目指してみてくださいね。