働いていると、「新しい仕事にチャレンジする自信がない」とか「転職をするかどうかで迷っている」など、心の中がモヤモヤすることはありませんか? 2つの選択肢を前に悩んだ時、正しい道を示してくれる指針となる言葉や考え方が欲しいと思うこともあるのではないでしょうか。そんな悩みを持つ人に、シンプルかつ具体的な答えを与えてくれるのが「アドラー心理学」です。
アドラーの思想は、今の自分を変えて、幸せになるための勇気を与えてくれるはずですよ。早速見ていきましょう。
「アドラー心理学」とは
「アドラー心理学」とは、オーストリアの精神分析学者である、アルフレッド・アドラー(1870-1937)が提唱した心理学のことです。別名「個人心理学」とも呼ばれます。
アドラーは、フロイトによる「トラウマ」を否定し、幸せに生きるためには過去に起きた原因を究明するのではなく、未来に向かって何をするのかという目的論の重要性を説きました。
日本では、2013年に岸見一郎氏と古賀史健氏の共著によって出版された書籍『嫌われる勇気』が大ヒットし、「アドラー心理学」が広く認知されるようになりました。
幸せに生きるヒントをくれる「アドラー心理学」の基本的な考え
「アドラー心理学」は、「人は、どうしたら幸せになれるのか?」という問いにシンプルで具体的な答えを示してくれます。ややこしい理論ではなく、忙しく働く人が実践しやすい方法であることが支持されている理由の一つ。今の自分を変えて幸せになりたい! と思った時の力になってくれるはずですよ。
1:前を向いて生きる! 「目的論」
「どうしてあの時、嫌だと言えなかったんだろう…」などと、過去のことを思い出して後悔することってありますよね。人は、嫌なことがあると何がいけなかったのか、原因ばかりを考えてしまいがちです。しかし、「アドラー心理学」では過去の原因(トラウマ)を考えても、状況は変わらないと説きます。
たとえ過去にどんな出来事があったとしても、そこにどんな意味づけをほどこすかによって、現在の在り方を変えられるというのです。過去に「何があったか」ではなく、過去を「どう解釈するか」に焦点を当てることで、前向きに生きることができそうですよね。
2:ものの見方を変える! 「認知論」
「認知論」とは、「人間は人それぞれ、自分独自のものの見方、考え方で物事を捉え解釈している」という理論です。例えば、友達から悪口を言われた時に、「ありえない!」と怒る人もいれば、「嫌われてしまって悲しい」と落ち込む人もいますよね。このように同じことを体験したとしても、その人の解釈の仕方によって、抱く感情が変わります。
認知の仕方は人それぞれですが、見方が歪んでしまっていると、過度に自信をなくしたり、「私はすべての人から嫌われている」などと極端な考え方に陥ってしまいがちです。ひどく落ち込んだ際には、自分の認知が現実とあまりにもかけ離れていないかどうか、友人や専門家から意見を聞き、客観的な視点と照らし合わせてみてください。
的確に認知ができるようになることで、自分を肯定的に捉えることができるはずですよ。
3:すべての悩みは人間関係? 「対人関係論」
「アドラー心理学」では、「すべての悩みは、対人関係による悩みである」と考えます。一般的には、孤独を感じたり、コンプレックスに悩んだりすることは、対人関係による悩みではなく、ごく個人的な悩みだと捉える人も多いでしょう。しかし、「アドラー心理学」では、これらの心の内側に抱えた悩みも、必ず他者の影響を受けていると考えます。
例えば、優柔不断でなかなか決断できない性格がコンプレックスだという場合。思い切った決断ができないのは、自分の気が小さいことが原因だと思ってしまいがちです。しかし、実は無意識に他人と自分を比較して、「(あの人と違って)私は新しい仕事にチャレンジしようか迷っているから、優柔不断だ」などと考えていませんか?
このように、自分の悩みが実は他人との比較によって生まれていることが多いのです。
働く人の悩みに答えをくれる! アドラーの思想
社会に出て働いていると、日々たくさんの人と接します。口調がきつい先輩ややる気のない後輩を見て、「どうしてあの人はああなんだろう…」などと思ってしまうこともあるはず。ただ、周りの人を変えることは、なかなかできないことですよね。「アドラー心理学」は、他人を変えるのではなく、自分が変わるための心理学ともいわれています。
ここでは、職場であるあるのお悩みと、それを解決するためのアドラーの思想をみていきましょう。
1:つい人と自分を比べてしまう→「劣等感」
劣等感とは、自分が他人よりも劣っていると感じること。職場で、ついつい同期と自分を比べて落ち込んでしまう… という人もいるのではないでしょうか? アドラーは、自身の経験から、人には短所を克服しようとする力が備わっていると考えました。
「アドラー心理学」では、劣等感を持つことは悪いことではなく、理想の自分になるために劣等感をうまく利用することが大切だと述べています。
例えば、「資料を作成するのが下手でいつも上司に怒られている」といった場面で、「自分は仕事ができないダメ人間だ…」と落ち込むのではなく、劣等感を利用して「いい資料を作るためにスキルアップしよう」というように考え方を変えることが挙げられます。
2:仕事ができない後輩にイライラしてしまう!→「課題の分離」
課題の分離とは、相手の課題と自分の課題を分離して考えるということです。「アドラー心理学」には、「人間は誰しも、自分の課題を解決するという目的を持って生きている」「他人の課題に介入しない」という考えがあります。
例えば、新人の指導をしていて、「私がいくら仕事の手順を説明しても、部下がやる気を持って取り組んでくれない!」という悩みを抱えているとします。この場合、“私”にできるのは「丁寧に仕事を教える」ことだけで、部下がやる気を持って仕事に取り組むか、そうでないかは部下自身の課題となります。
アドラーは、自分でコントロールできる課題と、自分ではコントロールできない課題の2種類があると考えました。自分がコントロールできる部分を頑張ればいいと考えることで、他人の言動に振り回されず、やるべきことに集中して取り組むことができるでしょう。
3:周りに誰も味方がいない→「共同体感覚」
家族や友人、職場の人のことを、仲間と捉えるか敵と捉えるかで社会との関わり方が変わっていくと思いませんか? 「アドラー心理学」における「共同体感覚」とは、他者を仲間だとみなし、そこに自分の居場所があると感じられることを指します。家庭や職場、学校の中で、自分もその一員であるという感覚を持っている状態といえますね。
自分への執着を手放し、他人に関心を向けて「仲間のために自分は何ができるだろうか?」と考えて行動してみてください。社会に貢献できていると実感することで、孤独感が解消されていくかもしれませんよ。
勇気が出る! アドラーの名言
自分らしく生きたいけれど、周りの目が気になったり、批判されるんじゃないかと怖くなることってありますよね。勇気を持って一歩踏み出そうか迷っている時に、背中を押してくれるアドラーの名言を紹介します。
1:「たとえ失敗したとしても、勇気がある人は傷つかない。いつか必ず克服できる。そう知っているからだ」
失敗して恥ずかしい思いをしたり、挫けそうになった時に思い出したくなる言葉ですね。失敗するかどうかではなく、失敗した後にどうするかが大事なのかもしれません。私なら大丈夫! と自分を信じて乗り越えたいですね。
2:「勇気がある人は、社会と調和している。自分らしく、好きなことをしながら、ごく自然に社会の役に立っている」
自分の不得意なことをしても、なかなか思うように結果が出なかったり、他人と比べて落ち込んでしまうことも多いでしょう。自分が好きなこと、得意なことで人の役に立つ。そんな道が見つけられるといいですね。
最後に
長く生きていると、過去の失敗にとらわれたり、「あの時親に反対されなかったら…」などと人のせいにしてしまい、なかなか前向きに生きられないこともあるでしょう。そんな人に「アドラー心理学」は、周りの人に振り回されず、自分の意思で幸せになることができるのだということを教えてくれます。勇気をもって生き方を変えるきっかけになるといいですね。
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