仕事を前に進めるために必要なコミュニケーション術 その6
仕事の依頼を受ける時、営業する時、何かを交渉する時、いろいろな立場のチームメンバーで協働する時など、相手の要望や期待を受け取り、それをもとにコミュニケーションを重ねて行く場面は、仕事をする上で欠かせません。どうすれば相手の要望や期待を明確に引き出して、関係者の合意をスムーズにとり、話や物事を前に進めることができるのでしょうか?
営業のハイパフォーマーが使っている法則をヒントに、仕事をサクサク進めるためのコミュニケーション術をご紹介していきます。
前回の記事では、解決策をお伝えした後に相手から疑問や反論が出てきた場合の「疑問・不安の解消」の方法をお伝えしました。
いよいよ最終フェーズ。今回は、疑問・不安が解消された後の「実行を決める」ポイントをご紹介します。
ポイント:「IF(もし~なら~)」で考える
前回のフェーズで相手の疑問・不安が解消されたのであれば、本来はもう実行に移すだけですが、何らかの理由で最後の意思決定ができていない場合、最後に行うのは「相手の背中を押して実行に移すモードをつくる」ことです。
まず、なぜ意思決定できないのかの事情について確認します。例えばそれが「他部署との調整」や「社内決裁などの書類の手続き」など、実行に際して必然的に起こる手続きなどの事情であれば、それがいつ頃解決できそうかについて確認します。
一方、相手の迷いやためらいなど、心情的なもので最後の「ゴーサイン」が出ていなそうな場合、その中身は一体何なのか、ここでもまた「言葉のキャッチ・オープン」を意識して、傾聴します。
その後、もし決定を先延ばしにした場合の影響や、もし今決定した場合のメリットについて会話します。
その際、前のプロセスの「要望や期待をクリアに」の5つのステップで確認した「5:意思」の情報を引用したり、要望や期待の全体像にも影響が及びそうかを想像しながら相手と確認できるといいでしょう。
この「IFで考える」こと、これも毎度お伝えしている、今回のコミュニケーション術の土台である「相手本位になること」そのものです。
相手にとって、今先延ばしにするとどうなるのか、今やり始めるとどうなるのかの具体的なイメージを共に描きながら会話すると、こちらの都合の押し付け感がなく好印象です。
相手と普段から「もちつもたれつ」の関係で、「お願いしますよ〜」と押し切ることも、実際の仕事場面ではあるかもしれません。
しかし後々、なぜこの時にこの内容で決定したのかについて、当事者や関係者が語れるようにするためにも、手間はかかりますが、その都度相手の言わんとしている内容や意思、それによるメリットやデメリット、影響などを対話しておけると安心です。
ここで無事に意思決定が行われたら、あとはもうそれぞれのメンバーが動き出すのみ。最後に次のステップに向けて各自がやるべきことを共通認識化できたら、いいスタートが切れるでしょう。
コミュニケーションって難しいし面白い
これまで計7回に渡って、相手の要望や期待を明確に引き出し、話や物事を前に進めるコミュニケーション術をお伝えしてきました。
「相手本位になる」「言葉のキャッチ・オープン」が全ての土台であり、これは相手の要望や期待を確認する場面だけでなく、さまざまな場面で常に使えるスキルです。
が、かくいう私も「フラットに聞くべき場面なのに、つい自分の感覚・感情が強くなって聞けなかった…」「あの時〇〇さんが言っていた△△という言葉は、もしかしたらこういう意味も含んでいたのかも…」と、この土台ができていないなと感じることが多いです。
それに、「あの時になんで〇〇さんから△△についての詳細のイメージを引き出さなかったのかな…」と、ご紹介したポイントやステップを踏めていないなと気づくことも多く、後悔と反省を繰り返しています。
いつも同じメンバーで仕事をするとは限りませんし、毎度同じテーマを同じ順序・表現で話すことなんてあり得ません。スピードも求められますし、対面、オンライン会議、電話、メール、チャットなど、現代はコミュニケーション手段も多種多様です。
まさに、VUCA(*1)と言われる時代。さまざまな情報が常に不確実で、曖昧で、複雑で、変動する中で私たちは生活しています。人の数、テーマの数、シーンの数だけいろいろなコミュニケーションがあって、正解はないから難しいし、悩ましい。でも、うまくいったり発見があると楽しい。
このコミュニケーション術を使って、ぼんやりしている情報をクリアにして、お互いの誤解や思い込みなどに味付けされず、みんなが効率的に生産性高く仕事を前に進められたらいいな、と思っています。
*1:Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の4つの単語の頭文字をとった言葉
毎回のやりとり全てを、ご紹介したステップやポイントに沿って丁寧に進めることはなかなか難しいと思いますが、所々で「あの人と話すといつも後々言葉の意味を再確認することが多い気がするから、今度ここを意識してみようかな」と、頭のほんの片隅に少しでも気になった言葉やポイントを置いていただけたら、とても嬉しいです。難しくて答えのない、人と人とのコミュニケーション、これからも楽しんでいきましょう!
〈今回お伝えしたこと〉
〈これまでのまとめ〉
その1|相手本位になる
言葉のキャッチ・オープン
▶︎仕事が驚くほど円滑に! 意識するだけで変わる、言葉のキャッチ・オープンとは?
その2|話してもらう環境づくり
ラポール:関心を示す・ほめる、共通の話題を出す
動機付け:ニーズに触れる、メリットを伝える
▶︎初対面から打ち解けて話せる人のヒミツは… 「ラポール」と「動機づけ」!
その3|相手の要望・期待をクリアに
問題解決のフレーム:1. ありたい姿 2. 現状 3. 問題・要望 4. 優先順位・影響 5. 意思
未来の姿を具体化すること
「優先順位・影響」は定期的にチェック
▶︎仕事を進める上でのあいまいな要望や期待、全体像を把握するには5つのステップが重要
その4|解決策のデザイン
ステップ1:要望・期待の確認
ステップ2:複数の解決策を示す
ステップ3:メリット・デメリットを伝える
ステップ4:選択を支持する
▶︎仕事話を前に進めるための「解決策」について、すぐに使える4ステップ
その5|疑問・不安の解消
ステップ1:キャッチ・オープン
ステップ2:「証明」と「検証」
協働・伴走のイメージをもつこと
▶︎「仕事は一人ではできない」の根底にあるものは? コミュニケーション術を改めてチェック!
その6|実行を決める
「IF(もし~~なら~~)」で考える
TOP画像/(c)Adobe Stock
リクルートマネジメントソリューションズ 小松苑子
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRDサービス開発部研究員。2008年に人材派遣会社に新卒入社して営業を経験後、新規営業モデルや若手の教育体系を構築。2017年に同社に入り、主に営業力強化や、新入~中堅社員の領域の企業研修など人材育成サービスの企画に従事。