仕事を前に進めるために必要なコミュニケーション術 その5
仕事の依頼を受ける時、営業する時、何かを交渉する時、いろいろな立場のチームメンバーで協働する時など、相手の要望や期待を受け取り、それをもとにコミュニケーションを重ねて行く場面は、仕事をする上で欠かせません。どうすれば相手の要望や期待を明確に引き出して、関係者の合意をスムーズにとり、話や物事を前に進めることができるのでしょうか?
営業のハイパフォーマーが使っている法則をヒントに、仕事をサクサク進めるためのコミュニケーション術をご紹介していきます。
前回の記事では、相手の要望・期待を整理した後、話を前に進めるための「解決策のデザイン」をお伝えしました。
解決策をお伝えした後に、相手から疑問や反論が出てきた場合、どう対応するといいのでしょうか? 今回は「疑問・不安の解消」方法をご紹介します。
ステップ1:キャッチ・オープン
相手から疑問・反論が出てきた場合、すぐに答えようとせず、まずは相手の思いや感情をしっかりと受け止めることが大切です。
この連載でお伝えしているコミュニケーション術の大前提として、大切なのは「相手本位」で、その近道は言葉のキャッチ・オープンだとお伝えしました。
▶︎仕事が驚くほど円滑に! 意識するだけで変わる、言葉のキャッチ・オープンとは?
今回もポイントは一緒です。これまで前例がないこと、誰も想像ができないこと、チャレンジングなことなど、人は慣れないことをやる時、多かれ少なかれ緊張と不安がつきまといます。
そんな時「実は今回の件は〇〇について不安でして…」と、相手から不安の中身を自ら言ってもらえるとフォローすべきポイントが分かるのですが、必ず相手がそれを示してくれるとは限りません。そのため、相手がどんなことに関心・意識がありそうか、発する言葉や態度にアンテナを立てておくことが必要です。
例えば「よく金額に関する話題が出るな」「否定的な言葉はないけれど表情がかたい気がする」など、アンテナを張っていると相手が出す疑問・不安のサインにいち早く気づくことができます。
サインをキャッチしたら、今度は相手から出てきた言葉の指している対象や意味を開き(オープン)、相手と視界を揃えます。開きながら、相手が言っているのは「疑問」なのか「反論・指摘」なのかを見極められるといいでしょう。後述しますが、どちらを意味しているのかによって取るべき対応が違うからです。
「疑問」なのか「反論・指摘」なのかを見極めるのに有効なのは、相手の発言のオウム返しや、具体化するための質問、要約して確認を取ることです。例えば「『気になる』とはつまりどういうことでしょうか?」と具体化したり、「『〇〇』と仰っているのは△△に対して□□という別の方法があるのではというご意見でしょうか?」と要約・確認したりすることで、相手が気になっているポイントが何で、それは疑問なのか反論・指摘なのかがクリアになります。
もう解決策や方向性がほとんど決まりそうなこのフェーズで、相手から疑問・反論が出ると、つい「もうあとは最終的な意思決定をして前に進むだけなのに今更そんな…」と思ってしまいそうですが焦りは禁物です。ここで相手が気になっていることについて中身を改めて確認しておけると、決まりかけていた解決策の軌道修正ができたり、この後仕事を進める時に意識すべきことが明らかになったりするので、この段階で相手が気になる事を確認できてラッキー! と捉えたいものです。
「言葉の解釈は人それぞれ。同じ言語を使っているといえ、解釈やイメージが完全に一致することはない」ことを念頭に、自分の感覚・基準は蚊帳の外に置き、相手が気になっていることにぜひ耳を傾けてみてください。相手の言葉を丁寧に紐解き理解を示すことで、自分への信頼や安心感も一気に高まるでしょう。
ステップ2:「証明」と「検証」
発言・言葉をキャッチ・オープンした後にすること…、それはその発言・言葉が何を訴えているかによってポイントが変わります。相手が疑問を投げかけている場合、必要なのは「証明」するスキルで、反論・指摘を言われている場合に求められるのは「検証」するスキルです。
その1:証明するスキル
解決策に対して相手の疑問が出てきた時に大切なのは証明する力です。証明とは、相手が疑問・不安消化のために必要な情報を最大限提供して、相手にとってのメリットを伝えることです。しかし、自分はデータベースではないので、過去・未来の情報や相手が気になっていることに的確な情報を知り得ていて、その場で明確に即答できる訳ではありません。
一般的な疑問だったら、手元の資料やすぐに検索できる情報、自分の経験値によってカバーできることもあるかもしれませんが、細かいデータやスペック、同じ立場の人間でも見解が分かれそうなことは、一旦持ち帰って社内や部署で調べたりすることはよくありますよね。その場での回答に自信がない時は、すぐに答えずにしっかりと確認をした上で再度答えた方が誠実です。
ただ、もしその時間をいただけない場合は、すぐに出せる情報・メリットだけで相手に意思決定をしていただかなくてはならないのが、この証明のスキルを発揮する時の悩ましいポイントです。そんな時は「必要でしたら後ほど早急にお調べしますが、それでもよろしいですか?」と確認をして、どの程度のスピード感で答えるべきか、またその疑問が相手にとって本当に重要なポイントなのかを見極めるといいでしょう。
この、相手の疑問の重要度については「その3」でお伝えした、問題解決フレームの「4:優先順位・影響」にも関係します。今回の疑問はその中でどこに位置するのか、改めて整理できるといいでしょう。
繰り返しになりますが、このフレームで改めて整理することで、解決策の軌道修正ができ、以後仕事を進める時に意識すべきことを明らかにすることができます。
その2:検証するスキル
解決策に対して相手の反論・指摘が出てきた時は、まず期待・要望を再確認し、メリットとデメリットを比較したうえで相手と共に結論を見出す、つまり検証することがポイントです。
改めて要望・期待の全体像を捉えることで、相手が反論・指摘で取り上げた内容に対して必要以上にこだわりすぎて「木を見て、森を見ず」になることを防ぎます。ここでも証明のスキルと同様「その3」でお伝えした問題解決フレームの「4:優先順位・影響」に関する情報が活きてきます。
このフレームを意識して再整理すると「実は優先順位が高めだった/低めだった」と順位が入れ替わることもあるので、「5:疑問・不安の解消」と「3:要望・期待をクリアに」は行ったり来たりするものなのです。
そして、メリット・デメリットに触れる際にもやはり大切なのは「相手本位」です。フラットに話題になっている点について、ともに検証する姿勢で相手とやり取りができるか否かで、こちら側の話を「押し売り」と感じられるのか、協働者・伴走者として一緒に進めたい心理になるのかが分かれます。協働者・伴走者と感じてもらえ、かつ、その解決策が相手にとって最適であるという確信が生まれると、意思決定や合意が一気に進むでしょう。
協働・伴走のイメージを持つことがポイント
ここまで、相手の疑問・不安の解消に対応するポイントとして、キャッチ・オープン、証明と検証のスキルをご紹介しました。しかし実際には、相手“本人”の疑問・不安ではなく「私はいいと思うんだけど上司/関係者に確認しないと…」という反応をされることも多いですよね。そして関係者が想定より多く、最終合意までかなり時間がかることが分かってがっかり… ということもあります。
その場合、確認・解決できる時期、方法や関係者の気になりどころなどを確認して、相手と一緒に上司/関係者を説得するくらいの関係性になることも効果的です。骨は折れますが、ここで相手とベクトルを揃え、Win-Winの関係で共に進めていけると、その後の仕事もやりやすくなります。
ともすれば、社内のプロジェクトなどで想像する「相手」は利害関係としては一見対照的であるかもしれませんが、相手を「お客様」「購買相手」「〇〇部署の人」という風に捉えるのではなく、協働・伴走のイメージを持ち、同じ視界・視点で共に「ありたい姿」を目指す関係になれるかどうか…。ここが俗にいう「仕事は一人ではできない」という表現にあらわれているように、私たちが人との関わり合いの中で仕事をしていくうえで忘れたくない、大事なキーワードなのかもしれません。
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リクルートマネジメントソリューションズ 小松苑子
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRDサービス開発部研究員。2008年に人材派遣会社に新卒入社して営業を経験後、新規営業モデルや若手の教育体系を構築。2017年に同社に入り、主に営業力強化や、新入~中堅社員の領域の企業研修など人材育成サービスの企画に従事。