目次Contents
この記事のサマリー
・「利他の心」とは、他人の幸福を願い、利益を優先して行動する精神のこと。
・類語には「無私」「他愛」「無我」などがあります。
・利他は自己犠牲ではなく、信頼や安心感を育み、結果的に自分自身の成長や幸福にもつながります。
「利他の心」という言葉を、あなたはどんな場面で耳にしたでしょうか? ビジネスの現場や、自己啓発の書籍、あるいは信頼される人の行動の中で、ふと登場するこの言葉。
改めてその意味や背景を尋ねられると、意外と曖昧なままにしていませんか?
この記事では、「利他の心」の意味や使い方、実践例やビジネスとの関係までを丁寧に解説します。
「利他の心」とは? 意味と背景を深く知る
まずは、意味から確認していきましょう。
「利他の心」の意味
「利他の心」とは、他者の利益や幸福を自分のことのように願い、行動する精神を指します。
仏教の根本思想のひとつであり、特に大乗仏教において「自利利他(じりりた)」という言葉で、自らの修行とともに他者を救済する姿勢が説かれています。
辞書では「利他」について、次のように説明されています。
り‐た【利他】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
1 他人に利益となるように図ること。自分のことよりも他人の幸福を願うこと。
2 仏語。人々に功徳・利益(りやく)を施して救済すること。特に、阿弥陀仏の救いの働きをいう。
現代では「利他精神」「思いやり」「無私の行動」といった形で現れ、自己犠牲ではなく、自分と他人の幸福を両立させる姿勢として理解されることが多くなっています。
この言葉が今も多くの人に語られるのは、目まぐるしく変化する社会の中で「人と人とのつながり」の大切さが見直されているからかもしれません。

稲盛和夫氏や経営者が語る「利他」
「利他の心」は単なる思想にとどまらず、実業界においても強く支持されています。特に有名なのが、京セラ創業者・稲盛和夫(いなもり・かずお)氏の哲学です。
稲盛氏は自身の経営哲学において「よりよい仕事をしていくためには、思いやりに満ちた『利他の心』に立って判断すべき」だと述べています。
「利他」はビジネスにおける要だともいえるでしょう。
「利他の心」はどんな場面で使える? 言葉と行動の事例集
実際にどういう場面でこの言葉を使うのか、どういう行動が利他なのか? 具体的なシーンとセットで理解しましょう。
ビジネスにおける「利他」の具体例
職場では「利他の心」を持った行動が、信頼や評価につながることがよくあります。
例えば、忙しそうな同僚に「何か手伝えることある?」と声をかける、会議で発言しづらそうな新人の場を作る、タスクを独占せず共有するなどがその例です。
筆者の経験ですが、以前プロジェクトの進行が遅れていたとき、隣の部署の先輩が自発的に作業を手伝ってくれた経験があります。「それ、僕が担当しようか?」という一言が、どれだけ心強く、ありがたかったことか…。
このように利他的なふるまいは「特別なこと」ではなく、ちょっとした配慮や声かけから生まれるものです。そして、それが結果的にチーム全体の生産性を高め、職場の信頼関係を育むきっかけになったりします。
日常会話で使える「利他」のフレーズ例文集
「利他的な姿勢」を言葉で表現したいとき、どんな言い回しがふさわしいのでしょうか? 以下は、ビジネスメールや日常会話、SNS投稿にも生かせる例です。
〈ビジネスシーン〉
「チームのために何ができるかを常に考える『利他の視点』を大切にしています」
〈SNSやカジュアルな会話〉
「〇〇さんの優しさ、まさに『利他の心』の表れだと思う」

「利他の心」をどう育む? 実践・習慣化のヒント
「利他の心」は、特別な人だけが持つ資質ではありません。日々の小さな行動や意識の積み重ねによって、誰でも育てていけるものです。ここでは、実践的なヒントや習慣化のポイントを具体的に紹介します。
まずは小さな行動から始めよう
「利他」と聞くと、何か大きな奉仕活動をイメージする人も多いかもしれません。
しかし、「ゴミを拾う」「先んじて挨拶をする」といった「目の前の小さな気づき」を行動に移すことが、最初のステップです。
このような行動は、相手のために見えて、実は自分の感受性や人間関係構築力を高めるきっかけにもなります。
例えば、朝のエレベーターで「開」ボタンを押して後から来た人を待つ。昼休みにオフィスの冷蔵庫を整理する。
ほんの数秒のアクションですが、こうした他者を意識した所作の反復が、自然と利他的な思考を育てていくのではないでしょうか。
「利他の心」を育てる3つの視点
利他的な行動を続けていくには、日々の意識の持ち方が大切です。以下の3つの視点は、心理学やコーチングの分野でも「他者志向性」を高めるポイントとされています。
共感力:その人の立場に立ってみる
例えば「もし自分がその状況だったらどう感じるか?」を一度イメージするだけで、対応は変わります。
共感は、「想像力の筋トレ」のようなもので、繰り返すほど強くなるものです。
承認欲求ではなく、承認行動を意識する
「自分が褒められたい」ではなく、「誰かの頑張りに気づいて伝える」。他者を認める視点は、自分の心にも余裕をもたらします。
想像力と時間軸の意識
目の前の人に何かしたことが、1か月後や1年後にどう影響するか? 利他の心とは「今」だけではなく、「その人の未来にも関わる姿勢」でもあります。
これらは特別なスキルではありません。むしろ、社会人としての「品格」や「知性」としての基礎感覚ともいえるもの。意識を持ち続けることこそ、利他の心を育てる第一歩です。
「利他の心」を判断基準にするには?
「何かを判断するときに利他の心で考える」という姿勢は、実は一流の経営者やリーダーたちが重視している思考法です。
筆者自身も、仕事で迷ったときに「これは誰かの役に立つだろうか?」「相手にとって誠実だろうか?」という視点を挟むことで、判断にブレがなくなると感じています。
企業の経営理念やブランドのフィロソフィーでも、「利他」を判断軸にするところが増えてきました。それは、短期的な利益よりも信頼や人間関係の継続性が価値になる時代だからです。
私たち個人においても同様で、「これは利他的か?」という問いは、
・キャリア選択
・チームとの関係
・自分らしさの形成
において強力なフィルターになります。

「利他の心」の類語や言い換え表現を紹介
「利他の心」を表す言葉は、いくつか存在します。ニュアンスの違いを理解しておくと、場面や文脈に応じて言葉を選びやすくなります。ここでは代表的な3つの言い換え表現を紹介していきましょう。
無私(むし)
「無私」とは、私利私欲にとらわれず、利害の計算をしないことを意味します。
例えば、組織の意思決定において「無私の立場で判断する」と言えば、個人の損得ではなく全体の利益を優先する姿勢を示せます。ビジネスや政治など、公正さが求められる場面で使いやすい言葉です。
他愛(たあい)
「他愛」は、「自分よりも他人を優先する心」を指します。「他愛主義」という考え方もあり、「自分を犠牲にしてでも他者の幸福を願う姿勢」を表します。文章で用いられることが多いでしょう。
無我(むが)
「無我」とは、自分という存在への執着をなくし、私心を離れた状態を指します。仏教用語でもあり、人間の苦しみは「我」に執着することから生まれると説かれています。
現代では「無我の境地」「無我夢中」といった形で、「雑念を捨てて物事に集中する様子」を表すときによく使われます。利他の心との共通点は「自分本位を離れている」点にあり、精神的な深さを感じさせる表現です。
「利他の心」に関するFAQ
ここでは、「利他の心」に関するよくある疑問と回答をまとめました。参考にしてください。
Q1:利他の心と「思いやり」は同じ意味ですか?
A:似ていますが微妙な違いがあります。
「思いやり」は相手の感情に寄り添うニュアンスが強いのに対し、「利他の心」は相手の幸福や利益のために行動する姿勢まで含みます。哲学的・倫理的な含意がある点が特徴です。
Q2:利他の心を持つと、自分が損をしてしまうのでは?
A:一時的に自己犠牲のように見えることもありますが、長期的には信頼関係や安心感を生み、結果的に自分にもプラスが返ってくるケースが多いでしょう。
Q3:利他の心を育てるために、日常でできることはありますか?
A:小さな「ありがとう」を伝える、誰かのために時間を少し割く、困っている人に声をかけるなどが効果的です。
最後に
「利他の心」は、ただの美しい言葉ではなく、私たちの日常や仕事を豊かにする行動の指針です。意味を理解し、実際の行動や言葉に落とし込むことで、信頼やつながりを育む力になります。今日からできる小さな一歩を大切にしながら、自分らしい形で「利他」を実践してみてください。
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