目次Contents
この記事のサマリー
・「よろしかったでしょうか」はバイト敬語の代表例。
・接客現場では柔らかく聞こえるため、あえて使われる場合もあります。
・ビジネスメールや社外文書では、「よろしいでしょうか」や「いかがでしょうか」が適切です。
ビジネスメールや電話応対の場面で、つい口にしてしまう「よろしかったでしょうか」。丁寧な敬語に聞こえますが、一方で違和感を覚えた経験がある人も多いのでは?
本記事では、「よろしかったでしょうか」がなぜ誤用とされるのか、そしてどんな場面なら使えるのかを、辞書の定義などをもとに紹介します。
「よろしかったでしょうか」は正しい? 間違い?
まずは、「よろしかったでしょうか」の違和感の正体を見ていきながら、避けたほうがいい場面と、使える場面を整理します。
なぜ「よろしかったでしょうか」は不自然なのか?
「よろしかったでしょうか」は、「よろしい」+「かった」+「でしょう」+「か」から成る言葉です。
まず、「よろしい」は「よい」の丁寧な言い方で、「許可」や「支障がないこと」を表します。
よろし・い【▽宜しい】
[形][文]よろ・し[シク]《動詞「寄る」の形容詞化、または「よらし」の音変化》
1 《「よい」の丁寧な言い方》
(カ)好ましい。望ましい。「看板は目立つほうが―・い」「おとなしいお子さんで―・いですね」
2 《「よい」の丁寧な、また尊大ぶった言い方》許容範囲内であるさま。
(ア)許可できる。「お引き取りいただいても―・いですよ」
(イ)さしつかえない。支障ない。「いつでも―・いから、一度相談に来なさい」
引用(一部抜粋):『デジタル大辞泉』(小学館)
「よろしいでしょうか」は、現在の確認やお願いの場面で使う丁寧な表現です。
一方で「よろしかったでしょうか」は、過去形の「よろしかった」に推量を表す「でしょう」と疑問の「か」がついた形で、「以前の判断や確認」を尋ねる言い方になります。
そのため、現在の確認場面で使うと時制が合わず、不自然に響くのです。
例えば、レジで会計前に「こちらでよろしかったでしょうか」と言われると、まだ買っていないのに「もう終わった話?」と感じる人もいるでしょう。
これは、過去形の「よろしかった」と現在の確認が噛み合っていないために生じる違和感です。
例外的に正しい場面もある
ただし、「よろしかったでしょうか」が必ずしも誤りとは限りません。すでにやり取りが終わった内容を再確認する場合には、過去形でも問題ありません。
例えば、「先日のご注文内容でよろしかったでしょうか」は、以前の話題に対する確認なので、適切な使い方です。
つまり、「現在の確認」には「よろしいでしょうか」、「過去の確認」には「よろしかったでしょうか」と使い分けることが、違和感を避けるポイントです。
参考:『デジタル大辞泉』小学館

「よろしかったでしょうか」が「バイト敬語」といわれる理由
接客のアルバイトをしたことがある人なら、「よろしかったでしょうか」という言葉を一度は使ったことがあるかもしれません。
飲食店や販売、コールセンターなどでは、「よろしかったでしょうか」が広く使われ、いわゆる「バイト敬語(マニュアル敬語)」の代表例とされています。
本来は「より丁寧な言葉を使いたい」という気持ちから生まれた言い回しですが、文法としては誤用です。
つまり、「よろしかったでしょうか」は過度な丁寧さがかえって違和感を生む例といえるでしょう。
接客で使うのは失礼?
それでもこの表現が定着しているのは、「圧を与えない」「柔らかく聞こえる」という接客現場の事情があるためです。
お客様に選択を促す場面では、
「お会計はご一緒でよろしかったでしょうか?」
「お届け先はこちらでよろしかったでしょうか?」
といった言い方のほうが穏やかで、気持ちのいい印象を与える場合もあります。
実際、コールセンターや販売店では研修マニュアルに取り入れている企業もあり、接客の現場で定着している側面があります。
ビジネスでの使い分けと敬語の距離感
「よろしかったでしょうか」は相手に寄り添いたい気持ちから生まれた表現ですが、目上の人や取引先とのやり取りでは、「よろしいでしょうか」や「いかがでしょうか」と言い換えるのが的確です。
特に、社外メールや商談、契約などの正式なやり取りなど、文書に残る場面では、文法の正確さがそのまま信頼性に結びつくため、誤用は避けたほうが安心です。

「よろしかったでしょうか」の印象のいい言い換え表現
「よろしかったでしょうか」は丁寧に聞こえる反面、時制のずれや、過剰な丁寧さから違和感を生むことがあります。
ここでは、ビジネスや日常のやり取りで使える、言い換え表現を紹介します。
「よろしいでしょうか」
『デジタル大辞泉』(小学館)によると、「よろしい」は「よい」の丁寧な言い方であり、「許可」や「支障のないこと」を示します。
「よろしいでしょうか?」は確認や許可を求めるときに、もっとも基本的で、目上の人にも安心して使える表現です。
例:
「明日の10時にお電話してもよろしいでしょうか?」
「こちらのお席でお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「いかがでしょうか」
「いかが」は、「どのように」「どう」といった意味を表す言葉です。状態や意見を尋ねるときに使い、「ご機嫌いかが」「この件はいかがいたしましょうか」といった形で用います。
「いかがでしょうか?」は、相手の考えや判断を丁寧に尋ねる形です。
例:
「こちらの案で進める形はいかがでしょうか?」
「お食事のタイミングはこのあとでいかがでしょうか?」
「差し支えなければ」
「差し支え」は「都合の悪い事情」「支障」を表す言葉です。
そのため、「差し支えなければ」は「問題がなければ」という意味で、相手に配慮しながら確認したいときに便利です。「構いませんか?」よりも控えめで、上品な印象を与えます。
例:
「差し支えなければ、お名前をお伺いできますか?」
「差し支えなければ、資料を拝見してもよろしいでしょうか?」
参考:『デジタル大辞泉』(小学館)
返信・返答のしかたもチェック
「よろしいでしょうか」と尋ねられたとき、返答の仕方は印象を大きく変えます。やり取りをスムーズに進めるためにも、肯定・否定それぞれの丁寧な応答を押さえておきましょう。
肯定する場合
承諾や同意を伝えるときは、短くても明確に答えるのが基本です。もっとも一般的なのは「はい、問題ございません」「はい、承知しました」などです。
例:
「はい、こちらで問題ございません」
「はい、承知しました。よろしくお願いいたします」
文末に「ありがとうございます」や「よろしくお願いいたします」を添えると、柔らかい印象になりますよ。
否定する場合
否定の返答では、いきなり「いいえ」から入ると冷たく聞こえることがあります。まずは「申し訳ありませんが」「あいにく」「恐れ入りますが」などの表現を添えることで、印象が和らぎます。
例:
「申し訳ありませんが、明日のご訪問は別の予定があり難しい状況です」
「あいにく本日は対応が難しいのですが、明日でしたらいかがでしょうか?」
相手の立場を尊重しつつ、代案を添えることで、誠実さと気配りが伝わります。
会話でもメールでも、返答の基本は「相手の意図をくみ取って答えること」が大切です。返答に迷ったときは「相手が何を確かめたいのか」を意識してみましょう。

英語で「よろしかったでしょうか」を表現
「よろしかったでしょうか」に近い意味として、「〜してもよろしいでしょうか?」の英語表現 “May I~?” を紹介します。相手への配慮を込めつつ、丁寧な聞き方として使える英語表現です。
例:“May I ask your name?”
(お名前を伺ってもよろしいでしょうか?)
カジュアルな場面では “Is it all right if~?” も使えます。
例:“Is it all right if I call you tomorrow?”
(明日お電話してもよろしいでしょうか?)
参考:『ランダムハウス英和大辞典』、『プログレッシブ和英中辞典』(ともに小学館)
「よろしかったでしょうか」に関するFAQ
ここでは、「よろしかったでしょうか」に関するよくある疑問と回答をまとめました。参考にしてください。
Q1. 「よろしかったでしょうか」はなぜ違和感を覚えるのですか?
A. 現在のことを過去形で尋ねているからです。
「まだ終わっていないのに過去形?」と感じる人が多く、結果的に不自然な印象を与えてしまいます。
Q2. 接客では使ってもいいですか?
A. はい。
お客様に圧迫感を与えない柔らかさを重視する現場では許容されています。ただし、社外メールや正式な文書では避け、「よろしいでしょうか」と言い換えることをお勧めします。
Q3. NGな使い方を教えてください。
A. 現在の確認に使うのはNGです。
例:「こちらの商品でよろしかったでしょうか?」は誤用。「こちらでよろしいでしょうか?」と、時制を現在にそろえるのが正解です。
最後に
「よろしかったでしょうか」は、一見丁寧に聞こえる表現ですが、時制を誤ると違和感を与えてしまいます。現在の確認には「よろしいでしょうか」、過去の確認には「よろしかったでしょうか」。この区別を意識しましょう。
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