仕事を前に進めるために必要なコミュニケーション術 その3
仕事の依頼を受ける時、営業する時、何かを交渉する時、いろいろな立場のチームメンバーで協働する時など、相手の要望や期待を受け取り、それをもとにコミュニケーションを重ねて行く場面は、仕事をする上で欠かせません。どうすれば相手の要望や期待を明確に引き出して、関係者の合意をスムーズにとり、話や物事を前に進めることができるのでしょうか?
営業のハイパフォーマーが使っている法則をヒントに、仕事をサクサク進めるためのコミュニケーション術をご紹介していきます。
前回の記事では、まずやるべきこととして「話してもらう環境づくり」で大事なふたつをご紹介しました。
・ラポール(うちとけた関係)
・動機づけ
今回は、話してもらう環境が整った次のステップ「相手の要望・期待をクリアに」をするため効果的な、問題解決フレームをご紹介します。
相手のあいまいな要望や期待の全体像を把握するため、上のフレームのように、1~5の順番で言葉にしていくと明確になります。
まず、1:未来の状態である「ありたい姿」と、2:現状を言葉にしてみることで、その間に存在する3:問題(ギャップ)が見出せます。
その次に、それらの問題(3)が問題・要望の優先順位や影響する事柄(4)を、最後に、実行するにあたっての意思や意思決定の時期(5)を明らかにしていきます。
このフレームで具体的にどういう風に考えていくといいのか、例えば「今度休日にキャンプをしようよ」と友人から言われたシーンに当てはめてみましょう。
1:ありたい姿(状態)
休日に友人と自然の中でキャンプをしてゆっくり過ごす→具体化すると「テントを張って屋外で調理するなど、ベーシックな“キャンプ”をして休日を自然の中でゆっくり過ごす」
2:現状
休日にキャンプをしたことがない、キャンプ地を知らない、キャンプに必要な道具を持っていない、キャンプの知識がない
3:問題・要望
初心者でも簡単なテントを張りたい(1)、手軽だけどおいしいキャンプ料理をしたい(2)、家から2時間以内で行きたい(3)、途中でスーパーに立ち寄りたい(4)
4:優先順位・影響
3の要素について、優先順位をつける(1>4>3>2など)。影響は「自然・地理に詳しくなれる、休日を充実させられる」など
5:意思
キャンプをするのにちょうどいい季節になってきたので、すぐにでも実現したい
このフレームで考えること自体は、私たちが日ごろ何かを購入したり意思決定したりするときなどに、無意識に考えていることでもありますよね。
今現在と未来のありたい姿のギャップが要望・期待であり、そこから何に取り組むべきか課題化して取り組むことはごく自然な考え方なので、仕事でも暗黙的に自然とそのような会話をしていたり、組織でも共通のフレームが活用されていたりするかもしれません。
取り組むべき課題やそこから派生する影響は一つとは限らないので、優先順位や影響する事柄、意思・時期などについてもセットで見出して全体像を明らかにしておくと、何をいつまでに、どんな優先順位、緊急度(速度)で進めていけばいいのかを言葉でおくことができます。
仕事とは、常に不確実なものに向き合うことです。私たちは、お客様のニーズ、社内のプロジェクト、事業計画、製品・サービスの開発計画など、情報の複雑性、不確実性と常に付き合っています。
このフレームで「何をどこまで、いつまでに、どんな優先順位・速度で進めていく」のかが言葉になっていると、そこからさらに役割分担や細分化されたタスク・納期なども決まっていき、その課題は一歩確実なものになります。
要望・期待を明らかにするポイントは未来の「ありたい姿」の置き方
ポイントは「ありたい姿」を具体的に設定することです。「ありたい姿」が具体的に置けておらず、フワフワしたものであると、例えばこんな弊害が出てきてしまいます。
・関係者が何を目指しているのかわからなくなり、各々が違うものを目指して動く
・取り組まなければいけないことの認識がずれて、余計なことまでやってしまう
営業場面でいうと、そのお客様に提案・提供すべき内容が変わる事態になってしまいそうですし、社内でも共通のビジョンがないと、そこに紐づくタスクや役割が整理されていないと、「あなたはそういうつもり(期待)だったの?」「私はこういうつもりでやっていたのに…」と、チームワークが乱れてしまいそうです。
「仕事を前に進めるために必要なコミュニケーション術 その1」でも触れたように、人によって経験、価値観、比較対象としているものがさまざまなため、同じ言葉でもってしても完全にイメージを他人と一致させることはできません。そのため、未来の姿については極力具体的であればあるほどいいのです。
先の例でいうと「友人とのキャンプ」といっても、
「テントを張ったり屋外で調理したりして過ごすベーシックな“キャンプ”をして休日を自然の中でゆっくり過ごす」という「ありたい姿」を置くのか、
「友人と一緒に向かうが、現地ではソロキャンプでそれぞれが自由にのんびり過ごす」のか、
「友人とグランピングのような身一つで参加できる設備の整った手軽なキャンプを体験してみる」のか、
どんな「ありたい姿」を置くのかによってやるべきことは全く異なってきそうです。
1対1の営業場面や少人数の活動だと、比較的「ありたい姿」の姿を相手と共有しやすそうですが、携わる人数が多ければ多いほど、言葉にして共通認識化しておく必要があります。
影響や優先順位、意思は定期的に点検する
このフレームで関係者が各々取り組むべき課題が言葉にされた後、進捗や状況を確認する際、都度最初に洗い出した「優先順位や影響(4)」や「意思(5)」は変わっていないかを点検する必要があります。
完了するまでが長いスパンの提案やサービスやプロジェクトであればあるほど、途中でメンバーが入れ替わったり、状況・条件が変わったりすると、当初置いていた優先順位や重要度ではなくなることがあるからです。
相手の考えや関連する案件、関係者、緊急度や優先度の位置づけなど、時間経過と共に変わる可能性があることは何か? も念頭に置きながら、定期的に要望・期待の全体像をチェックしておくと、自分の計画の軌道修正もしやすくなるでしょう。
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リクルートマネジメントソリューションズ 小松苑子
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRDサービス開発部研究員。2008年に人材派遣会社に新卒入社して営業を経験後、新規営業モデルや若手の教育体系を構築。2017年に同社に入り、主に営業力強化や、新入~中堅社員の領域の企業研修など人材育成サービスの企画に従事。