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有能なチームほどミスが多い!? 心理的安全性への注目のきっかけは意外な事実
心理的安全性とは、チームの中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のことです。
現代のチームにおける心理的安全性の重要性を指摘したアメリカの研究者、エイミー・エドモンドソンは、医療ミスについて調査している時にある意外な事実に気づきました。それは、「有能な医療チームほどミスが多い」という調査結果です。これはどういうことでしょうか?
エドモンドソンの考えた仮説はこうでした。
「優秀なチームは、ミスの数が多いのではなく、報告する数が多いのだ」※
仕事上のミスについてチームのメンバーが互いにオープンに、率直に話すことができるかどうかが、ミスの可能性に気づいた際の迅速な対応や、再発防止に向けた話し合いにつながります。
つまり、ネガティブな情報を隠さずに何でも話し合えるかどうかが、チーム成果と深く関係しているということです。
※『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』(エイミー・C・エドモンドソン/英治出版/2021年)より
Googleでも実証された、心理的安全性の重要性
エドモンドソンはその後、さまざまな調査を通してこのことを検証しました。その結果、ミスや失敗の話題だけでなく、皆と異なる意見や新しい提案など、総じて「どんな話をしてもこのチームでは受け入れてもらえる」とメンバーが思えているかどうかが、チームの成果を左右することがわかりました。
Googleが2012年から2016年にかけて社内の180のチームを対象として行った調査でも、生産性の高いチームに共通する重要な要素の1つが心理的安全性であることがわかりました。この調査によって、心理的安全性は世界的に注目されるキーワードになったのです。
あなたのチームの心理的安全性をチェック!
あなたのチームに心理的安全性はありますか? 前出の書籍では下記の7つの質問が、チームの心理的安全性を測定する項目として紹介されています。
1. このチームでミスをしたら、きまって咎められる。(R)
2. このチームでは、メンバーが困難や難題を提起することができる。
3. このチームの人々は、他と違っていることを認めない。(R)
4. このチームでは、安心してリスクを取ることができる。
5. このチームのメンバーには支援を求めにくい。(R)
6. このチームのメンバーには、私の努力を踏みにじるような行動を故意にする人は誰もいない。
7. このチームのメンバーと仕事をするときには、私ならではのスキルと能力が高く評価され、活用されている。
いかがでしょうか? No.1・3・5(“R”の印があるもの)については、Noの場合、それ以外の項目についてはYesの場合に、心理的安全性のあるチームといえます。
私がさまざまな企業にお話をうかがっていると、意外に難しいのはNo.2や4のようです。誰もが難しいと感じていることにあえて挑戦しようという提案や、失敗するかもしれないことを思い切ってやってみるようなことは、なかなかできないという声を多くお聞きします。皆さんのチームはどうでしょうか?
ただの「仲良しチーム」とは違う! 心理的安全性の3つのポイント
心理的安全性を理解するうえで重要なポイントは以下の3つです。
[ポイント1]心理的安全性は会社単位ではなくチーム単位で決まる
[ポイント2]心理的安全性は、会社の文化・風土に関わらずリーダーの言動で決まる
[ポイント3]単なる仲良しチームではなく、時に厳しいことも言い合えることが重要
前述の7つの項目でチェックしてみると、そもそもうちの会社では全体的に、自由な発言がしづらい雰囲気があるな、と感じられた方もいるかもしれません。
でも、実は心理的安全性の面白いところは、会社や組織全体の風土に関係がなくチームが独自に持っている特徴だというところです(ポイント1)。例えば同じ強い企業文化を持つ会社にも、心理的安全性があるチームと、ないチームがあるということがわかっています。
心理的安全性を決めるのは企業文化や風土ではなく、チームのリーダーの言動なのです(ポイント2)。リーダーが自分の間違いを積極的に話したり、自分が完璧でないことをオープンに語ったりすることが、チームメンバーを安心させ、何でも話せる雰囲気を創り出す効果があることがわかっています。
ここで注意したいのは、誰にでも優しく叱らないというような人当たりの良さは、心理的安全性とは関係がないということです(ポイント3)。むしろ、メンバーに対して言うべきことは言う、一方でメンバーからも、厳しいことを言ってもらい受けとめる、というフェアなコミュニケーションが重要です。
明日からの一歩
最後に、明日からすぐに実践できるアクションを紹介します。
【1】7つの項目で自分のチームをチェックしてみる。また同じ質問をチームの他のメンバーにしてみる。お互いの認識には違いがあったら、それはなぜかを考えてみる
【2】(特にあなたがチームやプロジェクトのリーダーであれば)自分のミスや自分にはわからないことをメンバーに話す、困ったときはあえてメンバーに助けを求めることを意識してやってみる
ぜひ、試してみてください。
TOP画像/(c)Shutterstock.com
リクルートマネジメントソリューションズ 児玉 結
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ HRDサービス開発部主任研究員。広告業界などを経て2008年に同社に入り、以来一貫して企業向け研修など人材育成サービスの企画に従事。新入社員~管理職まで、幅広い領域の企業研修の企画を担当。マネジメントやリーダーシップ、学習や成長といったテーマでの調査・研究も行っている。