蛇足とは? 意味と使い方を例文でチェック
蛇足(だそく)とは、付け加える必要がないもののことです。余計なもの、本来はなくてもよいものといった意味で使われます。
《昔、中国の楚 (そ) の国で、蛇の絵をはやく描く競争をした時、最初に描き上げた者がつい足まで描いてしまったために負けたという「戦国策」斉策上の故事から》付け加える必要のないもの。無用の長物。
出典:小学館 デジタル大辞泉
蛇足は、中国の書物「戦国策」に記載された故事を由来とする言葉です。昔、中国の楚(そ)の国で、そばで仕える人々に大きな杯に入れたお酒をふるまった人がいました。
人々は「分けて飲んだらもの足りないけれども、一人で飲むには多すぎる。蛇の絵を描いて、一番はやく描きあげた人だけお酒を飲むのはどうだろうか」といい、蛇を描く競争を始めました。
一人が素早く蛇の絵を描きあげ、お酒を手元に引き寄せて飲もうとしながら、「私は足まで描く余裕があるぞ」と蛇の足を描き加えます。しかし、その足を描き終える前に、別の人が「蛇には元々足がないのに、なぜ足を描くのだ?」といい、お酒を奪って飲んでしまいました。
蛇足のたとえ話は、斉(せい)の使者が、楚の宰相(さいしょう)に告げたとされています。
楚は魏(ぎ)を討ってから斉を攻撃しようとしていましたが、斉の使者が「すでにあなたは魏を破って十分に名誉をあげられました。斉を破っても、これ以上得られる官位はないはずです。それどころか戦いで亡くなってしまえば、官位を取られてしまいます。斉を攻撃することは、蛇の足を描いた人と同じではないでしょうか」と説いたことに納得し、斉の攻撃を止めて群を引き上げたとされています。
例文1.蛇足だ
余計なものを見つけたときには、「蛇足だ」と判断したり指摘したりすることがあります。
・十分に華やかな髪型に仕上がっているのに、かんざしを3本も指すのは明らかに蛇足だ
・この小説はエピローグが蛇足だ。文章が説明的で、一気に凡作になっている
例文2.蛇足ながら
蛇足に「ながら」をつなげて、「蛇足にもかかわらず」「蛇足ではあるが」の意味で使うこともあります。
・蛇足ながら、ご忠告いたします
・蛇足ながら、ビジネスの場でスタンプはいかがなものかと思いました
内容の矛盾する二つの事柄をつなぐ「ながら」は、日常会話でもよく使われる表現です。
・知っていながら答えない
・狭いながらも、楽しく暮らしている
例文3.蛇足ですが
蛇足に「ですが」をつなげて、「蛇足だが」や「蛇足ですけれど」の意味でも使われます。
・蛇足ですが、陰口と思われる発言は慎むほうがいいですよ
・一度、文章に間違いがないか見直してみてはいかがですか。蛇足ですが…
蛇足と類似する意味の言葉
蛇足のように、余計なものや不必要なものといった意味で使われる言葉としては、次のものが挙げられます。
・その他
・無用の長物
・役立たず
・夏炉冬扇
それぞれの意味やニュアンス、使い方について例文を通して紹介します。
その他
その他とは、前に述べたもののほかのもののことです。余計なものや不必要なものとは限りませんが、代表的ではないものをまとめて表現したり、例外的な事柄や要素の抜け漏れをなくすために付け加えたりするときに使われます。
・よくある質問について説明いたしましたが、その他の疑問については個別にお尋ねください
・リンゴやバナナ、オレンジ、その他の材料をすべてミキサーに入れましょう
無用の長物
無用の長物(むようのちょうぶつ)とは、あっても役に立つどころか、かえって邪魔になるもののこと。不必要なものという点では蛇足と似ていますが、邪魔になるというニュアンスが含まれている点に注意しましょう。
・かつての最新工場も、今では無用の長物となった
・このワンピースの袖口のボタンは無用の長物だ。引っかかりやすいだけでなく、見た目もよくない
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役立たず
役立たずとは、役に立たないことです。また、役に立たない人や物を指すこともあります。蛇足のように余計なもの・ことというよりは、不足するもの・ことといった意味合いで使われます。
・晴雨兼用傘と書いてあるが、どこからか水が漏れる。雨の日には役立たずといえるな
・言われたことしかしないなんて、役立たずと受け取られてしまいかねないよ
夏炉冬扇
夏炉冬扇(かろとうせん)とは、夏に炉(火を燃やして暖を取る場所・設備)を使ったり、冬に扇で仰いだりすることから、時季外れで役に立たないことを意味します。
・暖かそうな靴下だね。今もらっても夏炉冬扇だけど
・ようやく冬用の制服が届いたが、すでに季節は春になっている。まさに夏炉冬扇だ
類似する意味の言葉としては、「寒(かん)に帷子(かたびら)、土用に布子(ぬのこ)」が挙げられます。帷子は夏に着る単衣の着物、布子は綿入れのことから、季節外れで役に立たないことを表現します。
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蛇足と反対の意味のある言葉
蛇足と反対の意味を持つ言葉としては、次のものが挙げられます。
・画竜点睛
・総仕上げ
それぞれの意味やニュアンスを紹介します。
画竜点睛
画竜点睛(がりょうてんせい)とは、物事を成し遂げるために重要な最後の仕上げという意味の故事成語です。ほんの少し手を加えることで全体が引き立つことも意味します。
「画竜点睛を欠く」という表現で使うことが一般的です。なお、画竜点睛を欠くとは、最後の仕上げが不十分なため、不完全な状態であることです。
・素晴らしい絵だが、何かが足りない気がする。画竜点睛を欠くといった感じだろうか
・画竜点睛を欠くことがないよう、最後まで力を抜かず、試験問題に取り組みます
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総仕上げ
総仕上げとは、物事を進めた最後の仕上げのことです。
・いよいよ総仕上げの段階だ
・総仕上げが疎かになると、作品そのものの価値が下がってしまう
蛇足を日常会話でも使いこなそう
蛇足は、日常会話でも使われることがある言葉です。ぜひ使いこなしてみてください。
ただし、余計なものというニュアンスがあるため、他人の発言や作品に「蛇足」というのはあまり好ましくありません。場所や相手を考えてから使うことをおすすめします。