「一視同仁」の意味
座右の銘としても注目されている「一視同仁」ですが、実際には、普段なかなか見聞することのない言葉ではないでしょうか?
一視は同じように見ること、同仁は同じように愛すること。この言葉が重なる「一視同仁」の意味は、「どんな人に対しても偏見を持たず、分け隔てをしないこと」「すべての人を差別なく平等に愛すること」です。現実にはなかなか難しいからこそ、自分自身への戒めや目標として、座右の銘とする人も多いのではないでしょうか。
由来となっているのは、中国唐代の詩人・韓愈(かんゆ)の著した『原人』の中の一節、「聖人は一視にして、同仁。近きに篤くして遠きを挙(あ)ぐ」。「聖人は人や動物などを等しく見て、等しく愛する。近くのものに手厚くして遠くのものへと及ぼしていく」ということです。
もともと「一視同仁」は、人だけではなく動物なども含めての言葉なのです。まさに博愛(はくあい)ですね。
使い方を例文でチェック!
「一視同仁」の意味を理解すると、座右の銘としている人が多いのも納得。では、この言葉を日常ではどのように用いればいいのでしょうか。特徴は、身近なところからグローバル的にも使えることです。例文で解説しましょう。
1:「先生は、どの生徒にも一視同仁の態度で接してくれます」
先生も人ゆえ、つい特定の生徒をひいき目に見てしまうことや、特別扱いしてしまうこともあるでしょう。だからこそ、偏見なくみんなを同じように見て、平等に接する先生は尊敬され、信頼される存在であることは間違いないでしょう。
2:「人を評価するときこそ、一視同仁に見ることが大切です」
勤務実績や成績、論文や研究成果などさまざまな場面で人を評価しなくてはならないとき、大切なのは、公平・公正であることはいうまでもありません。
3:「マナーをわきまえつつ、彼女は誰に対しても態度が変わらない。一視同仁をモットーにしているそうだ」
人種、性差、出自、肩書などに関係なく、人として誰にでも平等に接することのできる彼女は素敵ですね。
4:「リーダーとして重要なのは、一視同仁の考え方だ」
「誰に対しても分け隔てなく接し、平等な視点で判断することのできる人」こそ、リーダーにふさわしいといえるでしょう。
5:「私の夢は、一視同仁の心で世界中の人と仲良くすることです」
近くの人は、もちろん国を超えて多くの人と仲良くしたいという気持ちは、「一視同仁」の由来そのものの志といえそうですね。
類語や言い換え表現は?
ちょっと難解な言葉から普段よく見聞きする言葉まで、すべての人を平等に愛する、等しく接する、という意味の言い換え表現は思いのほか多くあります。その代表的なものをいくつか紹介しましょう。
1:怨親平等(おんしんびょうどう)
仏教の言葉で、「自分に害をなす者と自分を愛する者とを差別しない」という意味。敵味方あるいは動物を供養するときなどに使われます。生きているときはもちろん死しても、「誰に対しても平等に接する」、ということですね。
2:兼愛無私(けんあいむし)
中国戦国時代の墨子(ぼくし)の思想で、「自他の区別なく、広く人を愛する」という意味です。兼愛は区別なく愛すること、無私は私心(ししん)がなく平等であることを表します。
3:博愛主義(はくあいしゅぎ)
「人種、国家、階級などの違いを越えて、広く等しく人類は愛し合うべきであるという主義」のことで、「誰に対しても、善意と愛情を持って接しようとする態度」のことをいいます。行動というよりは、人としての考え方、目指すべき姿のこと表すといっていいでしょう。
4:公平(こうへい)
意味は、「判断や行動、処理などが偏っていないこと」「えこひいきせず、すべての人に平等であること」。
「公平無私(こうへいむし)」という四字熟語もあり、これは、「公平で個人的な利益や感情を絡ませないこと」を意味します。
5:中正(ちゅうせい)
「どちらかに偏らない正しい行ない」という意味です。何人かの異なる意見が出たときなどは、差別やえこひいきのない中正の立場を貫き、判断したいものですね。
対義語は?
最もぴったりくるのは、本記事中にもたびたび登場している「依怙贔屓(えこひいき)」でしょう。日常でもよく使われますよね。意味は、「自分のお気に入りの者や関係者だけの肩を持つこと」。
よく「贔屓」だけでも使われますが、これは「気に入った者を特に引き立てること」で、悪い意味ばかりではありません。
たとえば、「先生はあの生徒ばかり贔屓にする」は、「あの生徒ばかりを引き立てようとするので、公平ではない」というよくない意味になり、「私はあの店を贔屓にしている」なら、「私はあの店がとても気に入ってよく行っている」という応援の意味になります。
「依怙」が付くことで、いい印象はなくなり、「一視同仁」とは正反対の言葉になるわけです。そこを理解して使い分けるようにしましょう。
英語表現は?
では、「一視同仁」は英語でどのような表現をすればいいのでしょうか。
近い表現としては、「universal brotherhood」「人類みな兄弟」があります。「universal」は万国、「brotherhood」は同胞や兄弟の縁のことです。
(例文)
He is an advocate of universal brotherhood.(彼は人類みな兄弟であると説いている=彼は一視同仁主義だ)
また、「impartiality」は「偏らないこと、公平であること」を表す単語です。
(例文)
He showed impartiality.(彼は公平だった/彼は公平性を示した)
最後に
多様性の時代といわれ、日本も多国籍化が進んでいます。文化や価値観の違いはあれど、「一視同仁」の気持ちで、互いの理解を深めたいものですね。
もちろん、そのような大げさなことでなくても、家族や友人、同僚など身近な人を等しく大切にしたり、偏見を持たずつきあうことができれば、人間関係も人生ももっと豊かになりそう。難しく考えず、普段の心がけとして大切にしたい言葉です。
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