序破急という言葉を聞いたことはありますか? あまり馴染みがないと思いますが、アニメ『エヴァンゲリオン』の映画が「序」「破」「Q」という三部作だったため、聞いたことがある人もいるかもしれません。「序破Q」は「序破急」をもじったものですが、一体どんな意味を持つ言葉なのでしょうか?
「序破急」とは?
「序破急」という文字を見て、自信を持って読めた方がどのくらいいるでしょうか? まずは「序破急」の読み方や意味、由来など、基本知識を確認していきましょう。
読み方
序破急は「じょはきゅう」と全て音読みで読みます。
意味と由来
曲や劇など、さまざまな芸能における「三部構成」の理念を意味します。
もともとは能や雅楽で使われていた言葉で、「序」は第一楽章、導入部分であり、拍子に合わないゆったりとしたリズムが特徴。「破」は第二楽章、展開部分であり、拍子に合ったテンポで、豊かな内容を表現するのが特徴。「急」は最終楽章、終結部分であり、早いテンポでクライマックスを迎えるのが特徴です。
そこから派生し、今は能や雅楽以外でも、広く日本の芸能において様々な場面で使われるようになりました。
類語や言い換え表現は?
序破急を言い換えたいときは、その意味を示す「三部構成」や「三部作」という言葉で置き換えることが可能。また、序破急が3段階に分かれることに対して、4段階に分かれるなど数は違いますが、構成を意味する点から「起承転結」も類語と言えます。
起承転結とは?
もともとは漢詩の構成方法だった「起承転結」。漢詩は、第一句を「起句」、第二句を「承句」、第三句を「転句」、第四句を「結句」と呼びます。それぞれ頭の漢字を取ると、「起承転結」となりますね。
具体的には、「起句」でその漢詩の意味を言い起こし、「承句」は起句の内容を承け継ぎ、「転句」では転じて発展させ、「結句」で全体を結ぶ、という構成です。
英語表現は?
「序破急」がもともと日本の伝統芸能である能から生まれた言葉であるためか、直接的に全く同じことを意味する英語はありません。しかし、序破急を「三部構成」と捉えれば、英語で言い換えることが可能です。
序は導入部分を表すため、introduction、破は展開部分を表すためdevelopment、急は終結部分を表すため、climaxを使うと分かりやすいでしょう。
後で詳しくお伝えしますが、芸能だけでなく、ビジネスや学問においても「序破急」という構成を用いることも。その場合、急は、全体の要約を意味するsummaryや結論を意味するconclusionを使った方が、より自然です。
序破急と起承転結を比較
さきほど、序破急の類語として紹介した「起承転結」について、その違いや使い分けを、より詳しく紹介します。
「序」と「起」
「序」と「起」は同じ役割を果たしています。全体の導入部分であり、全体像を知るための状況や背景、前提などを説明。今後の展開に引き込むための、インパクトや工夫も重要になってくる部分です。
「破」と「承転」
「破」は、起承転結の「承転」。全体の内容を豊かに膨らませ、展開していく部分ですが、四部構成であれば2つの場面に分けるところを、三部構成では1つの場面にまとめているため、破の方がよりスピード感が生まれることが特徴です。
「急」と「結」
「急」は「結」と同じ役割を果たします。全体の締めの部分であり、相手に与える最終的な印象や余韻が決まる重要な部分です。
使い方の違いは?
起承転結は、小説などに用いられる傾向が強い構成。過去に、小学校の国語の授業で作文をする際、起承転結を意識して書くようにと指導された経験がある方も、いるのではないでしょうか。新聞の四コマ漫画の存在などもあるのか、序破急よりも起承転結の方が身近な構成であり、見聞きする機会も多いですよね。
序破急の構成が使われる傾向が強いのは、ハリウッド映画やアニメ、マンガやCMなど。先ほど述べたように、起承転結の「承転」が一つの場面にまとまった「破」は、スピード感があり、相手に与えるインパクトもより強いものになります。
ビジネスでも使える?
ここまで序破急という言葉について解説してきましたが、序破急という三部構成は、芸能だけでなく、ビジネスの場面でも活用することができるようです。なぜそのように言われているのか、深掘りしてみましょう。
「序破急」とビジネスの関係は?
始まりは奈良時代まで遡ることもできる、歴史ある能。その能を大成した世阿弥という人物は、室町時代に活躍した能楽師です。能の多くの作品を演じるとともに、作能論、演技論、演出論など、能を理論的に裏付けすることにも注力していたそう。
さらに、父から継いだ「座」を守るため、経営論についても著書を残していました。それを『風姿花伝』といいます。この『風姿花伝』は、江戸時代、徳川家康も心酔していたと言われ、現代においても「最強のビジネス書」「日本最古のビジネス書」と評価されています。
ビジネスと深く結びついている能。その構成である「序破急」は、ビジネスにおいて何かヒントを与えてくれるのでしょうか?
プレゼンは序破急で
プレゼンの構成は、起承転結よりも「序破急」の方が向いていると言われています。テンポよく、インパクトを持たせた構成にすることが可能だからです。起承転結よりも、間延びした印象を持たせず、限られた時間の中で簡潔に説明し、スピード感を持って魅力を伝えることができるはず。
最後に
起承転結よりも馴染みはないけれど、ビジネスにおいてはぜひ知っておきたい言葉、「序破急」。世阿弥が著した『風姿花伝』に興味が湧いた方は、マイナビ新書から出版されている『ビジネス版「風姿花伝」の教え』も手に取ってみてはいかがでしょうか。
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