目次Contents
この記事のサマリー
・正しい読みは「さんじゅうろっけいにげるにしかず」です。
・意味は、不利なら退いて体勢を立て直すのが上策という教えで、無責任ではなく合理的判断を示す言い回しです。
・類語は「逃ぐるが一の手」「君子危うきに近寄らず」「負けるが勝ち」で、場面に応じて使い分けます。
プレゼンや商談で窮地に陥ったとき、「このまま粘るべき? それともいったん退くべき?」と迷うことは誰しもあるはずです。 困難な状況から逃げるのは、ときに「諦め」や「弱さ」と捉えられがち。
しかし、実はその「撤退」こそが、最善の策であると教えてくれる言葉が「三十六計逃げるに如かず」です。この言葉は、単に「逃げなさい」と言っているわけではありません。正しい意味を知ることで、仕事や人間関係におけるピンチを乗り切るための、したたかな戦略が見えてきます。
「三十六計逃げるに如かず」の読み方と意味|現代の働き方に生かすには?
まずは読み方と辞書の定義を確認し、誤解されやすいポイントを整理しましょう。
読み方は? 辞書で見る「三十六計逃げるに如かず」の真意
「三十六計逃げるに如かず」は、「さんじゅうろっけいにげるにしかず」と読みます。中国の古代兵法に由来する言葉です。
辞書では、次のように説明されています。
三十六計(さんじゅうろっけい)逃(に)げるに如(し)かず
形勢が不利になったときは、あれこれ思案するよりも、逃げてしまうのがいちばんよい。転じて、めんどうなことが起こったときには、逃げるのが得策であるということ。
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
「三十六計逃げるに如かず」の意味は、困ったときは、あれこれ考え迷うよりは、機を見て逃げ出し、身を安全に保つことが最上ということです。
決して「何も考えずに逃げなさい」と言っているわけではありません。例えば、どんなに優れた兵法でも、負けが明らかな戦いで無駄な犠牲を払うよりは、一度退き、再起を図る方が賢明だ、という合理的な判断が根底にあります。
現代に生かせる「三十六計逃げるに如かず」
「三十六計逃げるに如かず」が持つ最大のポイントは、「臆病さ」ではなく、「合理性」を重んじる点にあります。
困難な状況に直面したとき、多くの人は「ここで諦めたら負けだ」「逃げたらダメだ」と、我慢してしまいがちですよね。しかし、無理に踏みとどまることで、心身を壊したり、プロジェクトがさらに悪い方向へ進んだりすることもあります。
そうなる前に、一度撤退して態勢を立て直す、あるいは別の道を探すことが、結果的に自分やチームを守る最も賢い選択になるのです。
具体的な例を見てみましょう。
<例1>取引先との交渉が平行線
いくら話し合ってもお互いの妥協点が見つからない場合、一度交渉から離れて時間をおく。
<例2>不毛な人間関係に悩む
相手を変えようと努力し続けるのではなく、物理的・精神的な距離をおく。
こうした決断は、一見「逃げ」に見えるかもしれません。しかしそれは、「無益な戦いを避ける」という、したたかな戦略ともいえるのです。

「三十六計逃げるに如かず」の由来は?
ここでは、「三十六計逃げるに如かず」の由来を見ていきましょう。
そもそも「三十六計」とは?
「三十六計」は、中国古代の兵法にある36種類の計略のことです。兵法上のはかりごとや駆け引きがまとめられています。「三十六計逃げるに如かず」を略して、「三十六計」と言うこともありますよ。
「三十六計逃げるに如かず」の由来
この言葉は、中国南朝の歴史書『南史・王敬則伝』に「三十六策、走るを上計となす」とあり、古代中国の兵法思想から生まれた表現だということがわかります。「戦術の極意は、時に潔く退くことにある」と説いていますよ。
現代では本来の戦略的意味合いから転じて、気まずい場面や対処が難しい状況で「とにかく退散するのが一番」といったニュアンスで、冗談めかして用いられることも少なくありません。
参考:『故事俗信ことわざ大辞典』(小学館)

「三十六計逃げるに如かず」の現代での使い方と例文
「三十六計逃げるに如かず」は、追い込まれた状況であえて退くという賢い判断を肯定してくれる言葉です。昔の兵法書に記された知恵を、現代の私たちのキャリアや人間関係にも役立てる場面は、具体的にどんなシーンが当てはまるでしょうか?
ここでは、単なる「逃げ」ではなく、戦略的な選択としてこの言葉を使いこなすための、具体的な例文を見ていきましょう。
例文【ビジネス編】無益な戦いを避ける、賢者の選択
ビジネスシーンでは、不利な状況から冷静に身を引く姿勢を表すときに使えます。無理に進めて損失を出すよりも、一度引いて状況を立て直す決断は、リスク管理を重視する人ほど説得力が増すでしょう。
例文
「今回の交渉は、これ以上続けても条件が厳しくなるばかりだと判断しました。ここは『三十六計逃げるに如かず』ということで、いったん見送ることにしましょう」
例文【人間関係編】無駄な衝突を避ける、大人の処世術
プライベートな人間関係では、争いを避けたいときにユーモアを交えて使うのがおすすめです。深刻にならずに、状況をうまく切り抜けるスマートな表現になりますよ。
例文
「どうも話がこじれそうだったから、『三十六計逃げるに如かず』と思って、その場を離れたよ」
「三十六計逃げるに如かず」の類語|賢く使い分けるコツ
困難な状況から退くことを肯定する言葉は、「三十六計逃げるに如かず」以外にもたくさんあります。より洗練された表現を使い分けることができるよう、代表的な類語を比較しながら、それぞれの言葉が持つ意味合いを探っていきましょう。
「逃ぐる(にぐる)が一の手(いちのて)」
「逃ぐるが一の手」は、「三十六計逃げるに如かず」とほぼ同じ意味で使います。
意味は、「困難に直面したときはまず逃げて保身をはかるのが得策である」です。ここから転じて、「面倒なことは避けるのが一番よい方法である」とされています。
例文:「上司の機嫌が悪いときは、『逃ぐるが一の手』で距離を取るのが一番だね」
「君子(くんし)危うきに近寄らず」
「君子危うきに近寄らず」は、危険に近づく前に、そもそも避けるという予防的な姿勢を意味します。
「三十六計逃げるに如かず」が、すでに直面した困難な状況から「退く」という具体的な行動を指すのに対し、「君子危うきに近寄らず」は、リスクを予見し、最初から関わらないという姿勢を示すときに使います。
例文:「話がうますぎる投資案件は、『君子危うきに近寄らず』で手を引くのが無難でしょう」
「負けるが勝ち」
「負けるが勝ち」は、無益な争いを避けることで、結果的に長期的な利益を得るという戦略的な判断を意味します。
「三十六計」が撤退の重要性を強調するのに対し、「負けるが勝ち」はあえて「負け」を選ぶことで、より大きな勝利を目指すという、一段階上の駆け引きを含んだ言葉だといえるでしょう。
例文:「いくら議論を続けても平行線だから、『負けるが勝ち』と割り切って話を打ち切った」
参考:『故事俗信ことわざ大辞典』(小学館)

「三十六計逃げるに如かず」に関するFAQ
ここでは、「三十六計逃げるに如かず」に関するよくある疑問と回答をまとめました。参考にしてください。
Q1. 「三十六計逃げるに如かず」の正しい読み方は?
A. 「さんじゅうろっけい にげるに しかず」と読みます。
辞書にも明記されている表記で、口語では「逃げるが勝ち」と同義で使うこともあります。
Q2. ビジネスでこの言葉を使ってもいいですか?
A. はい、使えます。
ただし「逃げる」という表現が直接的すぎるため、比喩的に「撤退も戦略の一つ」と伝える形にするとより好印象です。
Q3. SNSで短く表すならどうすればいいですか?
A. 「今日は三十六計逃げるに如かず…」のように使えます。
軽い自虐や共感を込めた投稿として、会話のきっかけになります。
最後に
仕事や人間関係で壁にぶつかったとき、私たちはつい「頑張らなきゃ」「逃げちゃダメだ」と自分を追い込みがちです。しかし、無理に立ち向かい、心身をすり減らしてしまう前に、勇気ある撤退を選ぶことこそ、賢明な選択となる場面があります。
「三十六計逃げるに如かず」が、頑張り屋のあなたにとって、時には立ち止まる勇気や、自分を守るための戦略を教えてくれる羅針盤となることを願っています。
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