「一部始終」の意味と読み方
「一部始終」は「いちぶしじゅう」と読みます。始まりから終わりまで、事の成り行きを表す言葉です。
書物の終わりから初めまで、という意味もあります。「一伍一什」とも書き、この場合の読み方は「いちごいちじゅう」です。
物事がどのような経緯で発生し、結果的にどうなったのか一連の流れを示す四字熟語といえます。
いちぶ‐しじゅう【一部始終】
出典:小学館 デジタル大辞泉
1 《2が原義》成り行きの初めから終わりまで。顛末てんまつ。一伍一什(いちごいちじゅう)。「一部始終を詳しく話す」
2 書物の初めから終わりまで全部。
「学問すべしと言へばとて―を心得渡し」〈一言芳談〉
「一部始終」にありがちな間違い
「一部始終」という語句は、表記や意味の捉え方などを間違えがちな四字熟語とも。
スマートフォンやパソコンを使えば漢字に自動変換できますが、文字で書くとなると、迷うケースも少なくないでしょう。
言葉を使用する際には、正確な意味を理解しておきたいもの。会話やメールで「一部始終」を活用できるよう、ありがちな間違いをチェックしていきましょう。

「しじゅう」の表記は「終始」ではなく「始終」
「終始」と「始終」には、どちらも「初めから終わりまで」という意味があります。
「終始」の読み方は、「しじゅう」ではなく「しゅうし」です。また、「始終」とは細かなニュアンスが異なります。
「終始」は「態度や内容などが、初めから終わりまで変わらずに続く」という意味合いが強い言葉です。たとえば、会議の間中笑顔が絶えないことは、以下のように言い表せます。
・今日の会議は和やかな雰囲気で、終始笑顔が絶えなかった
また「始終」には最後や顛末などの意味がありますが、「終始」にはそのような意味合いは含まれません。
どちらも意味の似た言葉ですが、事の成り行きを表す四字熟語「いちぶしじゅう」には「始終」を使うと覚えておきましょう。
「一部」は一部分ではなくすべてのこと
本来「一部始終」の「一部」は、「一冊の本」を指していたそう。現在は、物事のすべてを意味するのが一般的です。
事の成り行きすべてを表す言葉でありながら「全部始終」と言わないのは、こうした背景があるためのようです。
たとえば「事件の一部始終を教えてください」という発言には、「事件が起きたきっかけから現在の状況まで、すべて教えてほしい」という意図が含まれています。
「事件の一部分について教えてください」という意味ではないことを押さえておきましょう。
「一部始終」の使い方と例文
日常生活やビジネスシーンでは、事の成り行きを説明するときや、説明してほしいとお願いする際に「一部始終」を活用できます。ここでは、具体的な使用例についてみていきましょう。
・ざっくりとした説明では理解できません。なぜ今回のトラブルが生じたのか、一部始終を教えてください
・クレームの原因は彼女の態度にあると思っていたが、一部始終を聞いたところ、どうやら事情が違うようだ
・話題の映画は今週末に観る予定なので、あらすじの一部始終を話さないでください
・やり取りの一部始終をそばで見ていたが、喧嘩の原因は双方にあるような気がする
「一部始終」の類語や言い換え表現
「一部始終」は状況に応じ、以下の語句に言い換えられます。
・顛末(てんまつ)
・徹頭徹尾(てっとうてつび)
・軒並み(のきなみ)
・一切合切(いっさいがっさい)
いずれも「一部始終」と似ていますが、意味や使い方は異なる言葉です。ここでは正しい意味に加え、ビジネス例文も紹介します。

「顛末(てんまつ)」
「顛末」は、「一部始終」と意味合いがよく似た言葉です。始まりから終わりまでを意味し、ビジネスではミスやトラブルの一部始終を記した書類を「顛末書」と呼びます。
顛末書は、部署内での情報共有やトラブルの再発防止などを目的に作成するのが一般的です。事実を明らかにすることで、商品やサービスの品質向上が期待できます。
・当事者から事の顛末を聞いたが、それだけでは事情が判断できない。第三者である君の意見を聞かせてほしい
・本日中に顛末書を作成し、提出してください
▼あわせて読みたい
「徹頭徹尾(てっとうてつび)」
「徹頭徹尾」には、頭から尾まで貫き通すという意味があります。転じて、最初から終わりまで変わらないことを意味する言葉です。
事の成り行きを表す「一部始終」と比べ「初めから終わりまで、ひとつの考えを突き通す」という意味合いが強くなるといえます。
・転職は思い直すべきだと友人たちは口にしたが、徹頭徹尾、彼女の考えは揺らがなかった
▼あわせて読みたい
「軒並み(のきなみ)」
「軒並み」とは、家々が軒を連ねて並んでいることです。さらに「どれもこれも」という意味があります。
多くの物事を指す点は「一部始終」と似ているといえるでしょう。異なるのは「初めから終わりまで」という意味は含まれないことです。おもに、どれもが同じような状況にあるさまを表します。
・台風の影響で、都内で予定されていたイベントは軒並み中止になった
「一切合切(いっさいがっさい)」
「一切合切」は、「すべて」や「何もかも」などの意味をもつ言葉です。「一切」と「合切」は、どちらも「すべてのもの」を指します。2つを重ねることで、意味を強めた四字熟語です。
・今回の問題について、一切合切の事情を告白した
・交通費や手数料など、一切合切を含めて請求してください
また「一切合切」のあとに「~ない」という打消しの語句を使うと、「全然~しない」という意味になります。
・遅刻するたびに注意しているが、まったく反省の色がみえない。これ以上、彼には一切合切関知しないつもりだ
▼あわせて読みたい
四字熟語「一部始終」をビジネスで正しく使おう
「一部始終」は、事の始まりから終わりまで、すべてを指す四字熟語です。状況をより正確に判断したいときは「一部始終を教えてほしい」のように使用できます。
「しじゅう」の表記は、「終始」ではなく「始終」です。また「一部」は一部分ではなく、すべてのことを表しています。
状況によっては、「顛末」や「徹頭徹尾」などの類語が適しているケースも考えられます。各語句の意味やニュアンスの違いを理解し、ビジネスシーンで正しく使い分けましょう。
メイン・アイキャッチ画像:(c)Adobe Stock