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「鳥なき里の蝙蝠(こうもり)」ということわざを聞いたことはありますか? 意味がわかると、どこか皮肉めいた響きが心に残る人もいるかもしれません。日常の中では使う機会が少ないかもしれませんが、その背景には人間関係の繊細な構造があるようにも思えます。
この記事では、「鳥なき里の蝙蝠」の意味や由来、長宗我部元親(ちょうそかべ・もとちか)との関係、使い方、さらには似た表現について紐解いていきます。
「鳥なき里の蝙蝠」とは? 意味を確認
まずは「鳥なき里の蝙蝠」の意味を確認していきましょう。
「鳥なき里の蝙蝠」の意味と由来
「鳥なき里の蝙蝠」は、「とりなきさとのこうもり」と読みます。辞書では次のように説明されています。
鳥(とり)無(な)き里(さと)の蝙蝠(こうもり)
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
すぐれた者や強い者のいない所で、つまらない者がいばることのたとえ。
「鳥なき里の蝙蝠」とは、主に白昼活動する鳥と、暗くなってから活動する蝙蝠にあててたとえたもので、すぐれた者がいないところで、つまらない者がわが物顔をしていばることをたとえて使われます。
「鳥なき島の蝙蝠」ともいわれますよ。
参考:『故事俗信ことわざ大辞典』(小学館)

「鳥なき里の蝙蝠」と長宗我部元親との関係
戦国時代、四国を平定した大名・長宗我部元親にまつわる有名な逸話のひとつに、「鳥なき里の蝙蝠」という言葉が登場します。これは、織田信長が元親に向けて、やや皮肉を込めて放ったとされる言葉です。
ただし、このエピソードの出典は、江戸時代中期に成立した長宗我部氏の盛衰を叙述した軍記『土佐物語』(1708年頃)であり、戦国当時の記録ではありません。『土佐物語』は、歴史的な出来事をもとにしながらも、脚色や誤りがあるため、このやりとり自体、後世の創作である可能性が高いと考えられています。
「鳥なき里の蝙蝠」の使い方を例文でチェック!
「鳥なき里の蝙蝠」の意味を確認したところで、具体的な使い方について例文とともに確認していきましょう。

「町の会合では威張っているが、他所では鳥なき里の蝙蝠という評価をされているらしい」
地域の中でだけで通用する立場や発言力を相対的に捉え、第三者の冷ややかな視点を表現しています。
「自信に満ちた態度も、鳥なき里の蝙蝠という可能性はないかと、少し立ち止まって考えてみるといいかもしれない」
自省を促す例文です。実力を過信しない姿勢が込められています。
「鳥なき里の蝙蝠」の類語や言い換え表現を確認
表現の幅を広げるには、似たことわざや言い換え表現を知っておくと役に立ちます。それぞれのことばがもつ視点やニュアンスの違いを見比べながら、言葉選びの参考にしてみてください。
「お山の大将」
「お山の大将」とは、限られた小さな世界の中で得た地位や成功に満足し、誇らしげにふるまう人をたとえた表現です。全体の中での自分の立ち位置を見失っているような様子がにじみます。

「井の中の蛙大海を知らず」
狭い世界にとどまったまま、広い世界や自分以外の価値観に気づこうとしない人を表すことわざです。「井の中の蛙」ともいいます。
鼬の無き間の貂誇り(いたちのなきまのてんほこり)
このことわざは、「天敵の鼬がいない間だけ、貂(てん)がいばる」場面をもとにしています。つまり、自分よりも強い相手や優れた人がいない場でだけ、いばったり調子に乗ったりする様子をたとえた言いまわしです。
「鳥なき里の蝙蝠」と意味が非常に近いでしょう。
参考:『故事俗信ことわざ大辞典』(小学館)
最後に
「鳥なき里の蝙蝠」ということわざには、ちょっとした皮肉や風刺が感じられますね。それだけに、人のふるまいや場の空気をさりげなく伝える手がかりにもなります。
誰かを評価したり、自分が置かれている状況を見つめ直したりする場面で、ふとこの言葉が思い出されることがあるかもしれません。言葉の持つ視点の広がりが、日々の観察や対話の中に、静かに生きてくることもあるのではないでしょうか。
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