「知足安分(ちそくあんぶん)」という言葉の意味を知っている人は、少ないかもしれませんね。しかし、この言葉には派手さはありませんが、現代を生きる私たちにとって、思いがけずヒントになる部分があるようです。
この記事では、「知足安分」の意味や背景、日常での使い方まで、わかりやすく紹介していきます。
「知足安分」とは? 意味と由来をわかりやすく解説
まずは、「知足安分」の基本的な意味から見ていきましょう。
「知足安分」の読み方と意味
「知足安分」は、「ちそくあんぶん」と読みます。辞書では次のように説明されていますよ。
ちそく‐あんぶん【知足安分】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
《足りることを知り、分に安んずること》満足することを知らないと、どんなに豊かであっても安らぐことがないということ。置かれている状況を自分に見合ったものとして不平不満を抱かないこと。安分知足。→知足
「知足安分」とは、自分の境遇を受け入れ、欲張らない姿勢を指す言葉です。何かを得ようとする意志は大切ですが、すでに手の中にあるものへ目を向けることも、心を穏やかに保つひとつの方法といえるかもしれません。焦りや欲にとらわれがちなときこそ、思い出したい考え方です。

どんな気持ちを表している言葉?
「知足安分」が伝えようとしているのは、何かを「我慢する」ことではありません。「今、手の中にあるものに気づく」ことの大切さを教えてくれる表現です。多くを望まないというよりも、すでに満たされている部分に心を留めるという、静かな視点が込められているといえます。
「知足」と「安分」それぞれの意味とは?
「知足」は、『老子』三三章の「知足者富(足るを知る者は富む)」という言葉に由来しています。「足るを知る」とは、今ある状況に満足することをあらわします。
一方で「安分」は、自分の立場や状況を受け入れ、むやみに欲を追い求めないことを意味しています。
どちらの言葉にも、外に求めすぎず、今あるものに目を向けようとする価値観が込められているようです。
参考:『デジタル大辞泉』(小学館)、『新選漢和辞典Web版』(小学館)
「知足安分」の使い方を例文でチェック
「知足安分」という言葉の使い方を、具体的な例文を通して見ていきましょう。
「華やかな生活に憧れる気持ちはあるけれど、知足安分の心を忘れないようにしている」
憧れや理想はあるけれど、今ある生活の中にも満ち足りたものがあると気づき、それを大切にしているという姿勢を表しています。慎ましさと安定を選ぶ心の静けさが伝わってくるようです。

「祖母は常に穏やかで、知足安分を地で行くような人だ」
落ち着いた生き方をしてきた人物の性格を表現する際に使われています。過度な欲を持たず、日々の生活に静かな喜びを見出す様子がうかがえます。
「収入は多くなくても、好きな仕事に打ち込み、知足安分の思いで過ごせている」
物質的な豊かさではなく、自分にとって納得のいく日々を送っている様子を表現しています。
「知足安分」の類語や言い換え表現を紹介
似たような意味を持つ言葉を知ることで、ボキャブラリーに広がりが出てきます。「知足安分」に近い表現を、2つ紹介します。

足るを知る者は富む
先述した「知足」と同様に『老子』に由来する言葉です。必要以上に求めず、今あるものに満足できる人こそ、心豊かでいられるという意味です。静かな強さを感じさせる表現です。
小欲知足(しょうよくちそく)
欲を小さく保ち、ささやかなことで満ち足りることをよしとする考え方です。「小欲」と「知足」が合わさったこの言葉には、控えめながらも揺るぎのない内面の姿勢がにじみます。自分にとって本当に必要なものは何かを見つめるきっかけにもなりそうです。
最後に
今あるもののなかに満ち足りた何かを見出すことは、豊かさや穏やかさにつながる一歩かもしれません。焦る気持ちを抱いたとき、「知足安分」という言葉をそっと思い出してみることで、自分自身を見つめ直すきっかけになることもありそうです。
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