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「先憂後楽(せんゆうこうらく)」という言葉を耳にしたことはありますか? 聞き慣れない四字熟語だと感じる人がいる一方で、心に残る言葉として意識している人もいるのではないでしょうか。
この記事では、「先憂後楽」の意味や背景、使い方、現代社会での生かし方について紹介していきます。
「先憂後楽」とは? 意味と読み方を確認
まずは、「先憂後楽」の読み方や基本的な意味を確認していきましょう。
「先憂後楽」の読み方と意味
「先憂後楽」は「せんゆうこうらく」と読みます。辞書で意味を確認しましょう。
せんゆう‐こうらく〔センイウ‐〕【先憂後楽】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
《范仲淹「岳陽楼記」の「天下の憂えに先んじて憂え、天下の楽しみに後(おく)れて楽しむ」から》国家の安危については人より先に心配し、楽しむのは人より遅れて楽しむこと。志士や仁者など、りっぱな人の国家に対する心がけを述べた語。
要するに、優れた為政者や指導者は、国や社会の将来を誰よりも早く案じ、国民が政治の結果を喜び楽しむのを見てから楽しむということを意味しています。
自身のことは後回しにし、常に天下国家を優先して考えること。それこそが、上に立つ者、政治家にとって大切なことだと説いています。
「先憂後楽」の由来とは?|中国古典に学ぶ背景
古典の中には、現代の私たちにも通じる価値観が息づいています。「先憂後楽」という言葉もそのひとつ。ここでは、その出典と背景について確認していきましょう。

范仲淹『岳陽楼記』が出典
「先憂後楽」は、中国・北宋の政治家であり文人でもあった范仲淹(はんちゅうえん)の『岳陽楼記(がくようろうのき)』に由来する言葉です。
この文章は、古来の名勝・岳陽楼の改築を祝して、友人である滕子京(とうしけい)の依頼に応じて書かれたもので、政治に携わる者の心構えを静かに語っています。
中でも、「天下の憂いに先んじて憂い、天下の楽しみに後れて楽しむ」という一節が特に有名で、自分のことよりもまず民の暮らしや社会の安定を考え、喜びは皆の後に味わうという、誠実で献身的な姿勢を表しています。
政治家や指導者の理想像として、今なお語り継がれる名句です。
参考:『故事俗信ことわざ大辞典』(小学館)
「先憂後楽」の使い方|例文で理解を深める
言葉の意味を知るだけでは、実際の使いどころがつかみにくいものです。ここでは、具体的な例文を通して、使い方を見ていきます。
「リーダーたる者は、先憂後楽の心でメンバーを支える存在でありたいと思う」
組織やチームにおいて、リーダーがまず責任や不安を引き受け、成功の喜びは皆の後で分かち合う。そんな姿勢を表現しています。

「先憂後楽の精神は、現代においても公共の利益を考える人に必要とされる姿勢だと思う」
この例文では、個別の行動ではなく、抽象的な価値観として「先憂後楽」の考え方を評価しています。
「先憂後楽」の類語は?
ここでは「先憂後楽」に似た意味を持つ言葉を紹介します。
先難後獲(せんなんこうかく)
「先難後獲」は、困難なことにまず立ち向かい、その成果や利益は後から得るという考え方です。「先憂後楽」と同じく、自身の利益よりも先に苦労や課題に向き合う姿勢をあらわします。
仕事に生かす「先憂後楽」|現代の働き方にどう生きる?
「先憂後楽」という四字熟語は、古典の中にある思想でありながら、現代の働き方や考え方に深く通じる面を持っています。ここでは、日々の仕事にどのように生かせるかを考えてみましょう。

長期的な視点をもつ姿勢として
「先憂後楽」の考え方は、組織の中でリーダーシップを発揮する人や、長期的な視野でプロジェクトを進める立場の人にとって、とても参考になります。
現代のビジネス環境は変化が早く、短期的な利益や数字が重視されがちですが、そこに「先憂後楽」の視点を加えることで、より持続可能で信頼のある働き方につながるかもしれません。
自分が苦労する役回りを進んで引き受ける人の存在は、組織全体に安心感と安定をもたらすこともあるのではないでしょうか。
最後に
「先憂後楽」という言葉には、自分のことよりも先に、まわりや社会の安定を願う姿勢が込められています。華やかな表現ではありませんが、そこにあるのは静かで揺るがない覚悟のようなものかもしれません。
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