風の音、鳥のさえずり、やわらかな光のなかで飲むお茶には、どこか静かなよろこびがあるように感じます。最近では、「野点」という言葉を耳にする場面も増えてきたかもしれません。けれども、どんな意味なのか、どう楽しむものなのか、ふと立ち止まってしまう人もいるでしょう。そこで、この記事では、「野点」について紹介していきます。
「野点」って何? 言葉の意味と基本を解説
そもそも「野点」とはどう読むのでしょうか? 読み方から確認していきましょう。

「野点」の読み方と意味は?
「野点」は「のだて」と読みます。まずは、辞書に記されている基本的な意味を確認してみましょう。
の‐だて【野▽点】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
野外で、茶をたてること。また、野外で催す茶会。野掛(のがけ)。
「野点」とは、屋外で抹茶を点(た)てて楽しむことを指す言葉です。自然の中で風を感じながらいただく一服には、室内の茶会とは異なる味わいや解放感があります。現在も季節感を大切にしながら、桜や紅葉を背景に野外で行われる茶会として親しまれていますよ。
野点の歴史とは?
「野点」は、もともと自然の中でお茶をたてる風雅な楽しみとして親しまれてきました。かつては、野山へ出て自然を楽しむ「野がけ(野懸)」と呼ばれる遊びの一環として「野懸茶(のがけちゃ)」とも言われていました。
野点の始まりとして伝えられているのは、千利休が豊臣秀吉に随行していた天正15年(1587)の茶会です。福岡の大善寺山や箱崎の松原において、松葉を燃やして湯を沸かし、風に揺れる松の音と立ち上る煙の美しさの中でお茶を点てたその光景は、秀吉の心にも深く残ったといわれています。
利休は、野点が単なる野遊びにならないよう、「清廉な心構え」を重んじるべきだと説いたそうです。屋外では視界に多くのものが入りやすいため、茶の時間に心を集中させるよう、工夫をこらすことが求められていました。また、野点には決まった形式がないからこそ、使う道具や点前にこめる想いの深さが大切になるとも伝えられています。
道具にも特徴があります。釜を松の枝や竹で吊るしたり、持ち運びしやすい旅箪笥や茶箱、茶籠などを用いたりと、屋外ならではの工夫がなされてきました。
近代に入ってからは、立礼棚(りゅうれいだな)と呼ばれる道具を使い、野外で点前を行うスタイルも見られるようになりました。
自然の中で季節や風景と向き合いながら、そのときならではの趣向を楽しむ——そんな自由で奥行きのある世界が、「野点」の魅力といえるのかもしれません。
参考:『日本大百科全書』(小学館)
野点傘ってどんなもの?
野点の際によく見られる赤く大きな和傘が「野点傘(のだてがさ)」です。これは日差しをやわらげるだけでなく、場の雰囲気を華やかに演出する役割も担っています。
特に「妻折(つまおれ)野点傘」は、傘の端が内側に湾曲したデザインで、内側に多色の飾り糸が施されているのが特徴です。

野点が映える! おすすめのシーンと楽しみ方
自然の中でお茶を味わうという野点のスタイルは、季節や場所によって異なる魅力を見せてくれます。行事としてではなく、日常の延長として楽しめるところも野点のよさといえるでしょう。
ピクニックやキャンプでの野点の楽しみ方
お弁当と一緒にお茶道具を持っていくと、ピクニックの時間が一層ゆたかになります。山や川辺などの自然のなかでは、湯気の立つ茶碗が特別な一杯に感じられるかもしれません。

一人でも楽しめる「ソロ野点」という選択
一人で行う「ソロ野点」は、自分だけの時間を大切にしたい人に適しています。お気に入りの場所で、コンパクトな茶道具を使って抹茶を点てることで、日常から離れた静寂を味わうことができるでしょう。
野点を始める際には、基本的な道具として茶碗、茶せん、茶杓、抹茶、そしてお湯を用意します。最近では、アウトドアブランドなどから持ち運びに便利な野点セットも販売されており、初心者でも気軽に始められるますよ。
最後に
「野点」は、決まりごとにしばられず、お茶の時間そのものを自由に楽しむことができる文化です。ほんの少しの準備で、日常のなかに穏やかな時間をつくることができます。忙しさのなかで深呼吸したくなったとき、自分だけの「野点」を行なってみてはいかがでしょうか。
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