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「一身上の都合」が使われる一般的なシチュエーションは?

「一身上の都合」とは、相手ではなく自分自身のプライベートな事情を指したいときに使う言葉で、具体的な理由を説明しないときに使うフォーマルな表現です。
よく使われる場面を解説します。
♦︎退職をする場面
個人的な事情で退職するけれど詳細は述べない、あるいは述べたくない場面では「このたび、一身上の都合により退職させていただきます」などと使います。
親しい同僚には退職の理由を告げていたとしても、フォーマルな発言としては詳細を述べる必要がないときに「一身上の都合」は使い勝手のいい表現でしょう。
♦︎休職や転職をする場面
自身が休職や転職をするときにメールで取引先に「一身上の都合により、○月○日をもって休職いたします」などと伝えます。
休職や転職にあたり詳細な理由を教えたくないけれど「○月○日をもって休職いたします」だけでは唐突な印象を与えるため「一身上の都合により」を加えることによって、ソフトな印象を与えやすいでしょう。
♦︎辞退やキャンセルをする場面
オファーをもらった事柄や内定を辞退するときなどには「一身上の都合により、辞退させていただきます」という使い方をします。
本心では「業務が合いそうもない」「思っていた内容の業務ではなかった」という理由があったとしても、辞退にあたってわざわざ波風を立てたくないときには「一身上の都合により」とするほうがスマートです。
♦︎婚約破棄を知らせる場面
頻度は多くないものの、婚約破棄などプライベートな報告をするときにも「一身上の都合により」が使われることがあります。
すでに結婚式や披露宴の日取りが決まっていたものの婚約破棄に至った場合に、ゲストに対して婚約破棄の事実を伝えるにあたり「一身上の都合により、婚約を解消することとなりました」などと報告をします。
相手の浮気や借金など婚約破棄をするだけの相当な事情があったとしても、公の報告では詳細まで伝えないケースが多いでしょう。
「一身上の都合」が不適切な3つの場面

「一身上の都合」は便利な言い回しではありますが、このフレーズが不適切な場面もあります。代表的なシチュエーションを解説します。
♦︎相手に対して説明が必要な場面
たとえば重要な会議に出席をする予定だったけれど、やむを得ない事情によって出席が叶わなくなった場合に「一身上の都合により、会議を欠席します」と伝えるのは、適切ではありません。
“一身上の都合”は個人的な理由をぼかす表現ですので、相手に対して誠意を尽くし理由を説明する必要がある場面では不誠実な印象を与えます。
仮に詳細までは伝えたくない事柄が理由だった場合でも「家庭の事情により」や「体調不良により」といった程度には理由を述べるのが適切な伝え方でしょう。
♦︎公的な書類や報告書に記載する場合
公的な文書や正式な報告書に記載をするにあたっては「一身上の都合」は避けるべきでしょう。
「一身上の都合」では理由が曖昧になりすぎるために、具体的な記述が求められる文書では不適切だと受け取られがちです。
また「一身上の都合」と書かれているだけでは、文書を読んだ第三者が事情を理解しにくい面もあります。
ただしこの場合でも、詳細まで理由を記す必要はありません。体調不良が理由の場合には「健康上の理由により」などと大まかな理由を記載するだけで問題ないでしょう。
♦︎ビジネス上のトラブルが発生した場合
業務の遅延や納期の遅れが発生しているときに、取引先等に対して遅延をお詫びするにあたっては事情を説明したほうが誠実ですし、相手も納得しやすくなるでしょう。
このときに「一身上の都合により、遅延しています」などと伝えてしまえば、不誠実な印象を与えるだけでなく理由が曖昧すぎて今後の取引にも不安を生じさせてしまいます。
ビジネス上のトラブルが発生している理由を説明すべき場面では「一身上の都合により」ではなく「担当者の体調不良により」や「想定外に業務が立て込んでしまい」などと、詳細までは伏せるにしても具体的な理由を伝えます。
「一身上の都合により」の類似表現・言い換えは?

「一身上の都合により」に、よく似た表現の言葉もあります。「一身上の都合により」はフォーマルな表現かつビジネスシーンでも一般的な言い回しではありますが、場面に応じて別の言い方を心得ておくといいでしょう。
♦︎「個人的な理由で」
フォーマルになりすぎずにカジュアルな伝え方をしたい場面では「個人的な理由で」という言い換えができます。この言い回しも「一身上の都合」と同様に「自分自身の個人的な事情によるため」という意味をもちます。
「今回は、個人的な理由で欠席させていただきます」や「個人的な理由から、この件に関わるのは控えます」など、日常的かつ友人や知人とのカジュアルな場面に適している言い換え方です。
なお「個人的な理由で」は、目上の人に対しては丁寧な印象に欠けることから好ましくありません。
♦︎「家庭の事情で」
家族の問題や状況を理由に、辞退や欠席をするときには「家庭の事情で」と言い換えができます。
「一身上の都合」よりも具体的な表現ではありますが詳細まで述べるわけではないので「一身上の都合」と同じような使い方ができます。
「家庭の事情で参加できません」や「家庭の事情により学校を休みます」などと使うのが一般的で、仕事や学校だけでなく公的な発言にも使える汎用性の高い言い方です。
ただし家庭に関することが理由ではない場面では使えません。また「家庭の事情」という言葉に家庭内のトラブルなど悪いことを連想する人もいますので、TPOを見極めて使いたいフレーズです。
♦︎「やむを得ない事情により」
「やむを得ない事情」は「一身上の都合」と同じくらいフォーマルな印象を与える言い換え方です。
ビジネスシーンや公的な場面で使う言葉としても好ましく、丁寧な印象を与える表現なので目上の人にも使えます。
「一身上の都合」と同様に、シチュエーションを問わずに細かい理由までは伏せたいときに適していますが、やや硬い印象を与えるフレーズでもあるので親しい間柄ではあまり使いません。
「一身上の都合」はフォーマルな表現
「一身上の都合」は退職や辞退、欠席の連絡などでよく使われるフォーマルな表現です。
具体的な理由を説明する必要がある場面では使うべきではありませんが、家庭の事情や個人的な理由で何かをキャンセルしたり辞めたりするときには、ただキャンセルや辞退を伝えるよりも「一身上の都合により」をつけた文章のほうが柔らかい印象を与えやすいでしょう。
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並木まき
ライター、時短美容家、メンタル心理カウンセラー。企業研修や新人研修に講師として数多く携わっている。シドニー育ちの東京都出身。28歳から市川市議会議員を2期務め政治家を引退。数多くの人生相談に携わった経験や20代から見てきた魑魅魍魎(ちみもうりょう)な人間模様を活かし、Webメディアなどに執筆。