「牛頭馬頭」という四字熟語、どんな読み方をするかご存じですか? 字面だけで判断すると、牛と馬の頭になりまですが、実は仏教における地獄の世界の生き物とされているようです。
本記事では、「牛頭馬頭」の意味や地獄の種類、牛にまつわる鬼について解説します。
「牛頭馬頭」の意味
「牛頭馬頭」は、「ごずめず」と読みます。どんな意味なのか辞書で見てみると、
頭が牛や馬で、からだは人の形をした地獄の獄卒。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
とあります。「牛頭馬頭」とは、文字通り頭が牛や馬の動物で、からだは人の姿をしています。
仏教における「地獄」では、生前に悪いことをした人々は、閻魔大王の前で裁かれるとされています。罪を犯した人が送られる地獄で待ち構えているのが、獄卒(ごくそつ)と呼ばれる鬼たちです。
獄卒は、責め苦を与えたり、罪人が逃げ出さないように監視役も担っているとか。地獄にはさまざまな姿の鬼がいるとされており、その中の一つが、この牛や馬の頭をした「牛頭馬頭」。地獄の様子を描いた、『地獄草紙』や『六道絵』などにもその姿が登場しています。
地獄ってどんな世界?
罪を犯した人は、その罪の内容や罪の重さによって8種類の地獄のどこかへ行くことになります。ここでは、その地獄の世界を1つずつのぞいていきましょう。
1:等活地獄(とうかつじごく)
等活地獄は、八大地獄のうちの第一の地獄とされています。主に殺生(せっしょう)をした者が落ちるとされ、獄卒の鉄棒や刀で肉体を切られて死んでしまうとか。そして、その後風が吹いてくるとまた生き返るのですが、また同じ責め苦にあうといわれています。
2:黒縄地獄(こくじょうじごく)
黒縄地獄は、第二の地獄で、殺生と盗みを犯した人が落ちるところです。熱い鉄の縄で縛られ、熱い鉄の斧で斬られてしまうのだそう。こちらも、体が元に戻っては同じことが繰り返されるので、まさに地獄の苦しみですね…。
3:衆合地獄(しゅうごうじごく)
衆合地獄は、第三の地獄で、殺生・盗みのほか男女の邪(よこしま)な情事を行った人が落ちるところです。ここでは、「牛頭馬頭」に追い立てられ、罪人が山に入ると岩が両側から落ちてきて押しつぶされてしまうのだとか。別名、石割り地獄とも呼ばれます。
4:叫喚地獄(きょうかんじごく)
叫喚地獄は、第四の地獄。殺生、盗み、邪淫(じゃいん)や飲酒の罪を犯した人が落ちるとされています。激しい炎や熱湯の中に入れられて、泣き喚くことから「叫喚地獄」と呼ばれるそう。
5:大叫喚地獄(だいきょうかんじごく)
大叫喚地獄は、第五の地獄。叫喚地獄の下にあり、不殺生・不偸盗(ふちゅうとう)・不邪淫・不妄語(ふもうご)・不飲酒(ふおんじゅ)の5つの罪を犯した者が入る地獄といわれています。罪深い亡者が呵責(かしゃく)の激しさにより、大声で泣き叫ぶことから、この名前がついたとされています。
6:焦熱地獄(しょうねつじごく)
焦熱地獄は、第六の地獄で、先述した5つの罪を犯した上に、邪な考えを持った人が落ちるところとされています。罪人は、猛火に責め苦しめられるそう。
7:大焦熱地獄(だいしょうねつじごく)
大焦熱地獄は、第七の地獄。焦熱地獄の下にあり、炎で焼かれ、その苦しみは他の地獄の10倍だとか。5つの罪を犯した者がその苦を受けるという。
8:阿鼻地獄(あびじごく)
阿鼻地獄は第八の地獄。家族を殺したり、仏法を裏切るような行為をした者が落ちる地獄です。他の地獄の千倍の責め苦を受けるとか。地獄の中で最も激しい苦しみを受ける場所で、際限なく繰り返されることから、別名「無間地獄(むけんじごく)」とも呼ばれます。
牛の頭を持った鬼・神様
「牛頭」の他にも、牛の姿をした鬼や神様は世界中に存在しているようです。ここでは、「牛頭天王」「牛鬼」「ミノタウロス」を紹介します。
1:牛頭天王
牛頭天王(ごずてんのう)は、本来インドで信仰されていた神様ですが、のちに日本でも信仰されるようになりました。京都八坂神社の祭神とされ、主に疫病よけの神様として祀られています。
2:牛鬼
牛鬼(うしおに)は、文字通り牛の形をした妖怪・怪物のこと。頭が牛で鬼の胴体を持つ者もいれば、反対に頭が鬼で体が牛の怪物もいるとか。各地にさまざまな伝承があり、その中でも愛媛県宇和島地方の祭礼では、牛鬼と呼ばれる奇妙な出立ちをしたものが、街を練り歩く慣習があります。長い首の上に牛のような角を生やした鬼の頭の見た目で、魔除けの意味合いがあるとか。
3:ミノタウロス
ミノタウロスは、ギリシア神話に登場する人身牛頭の怪物です。クレタ王ミノスが海の神ポセイドンから、供犠として贈られたオスの牛(タウロス)を惜しんで殺さなかったとか。怒ったポセイドンは、魔法でミノスの妃パシファエと牛を結び、生まれたのがミノタウロスといわれています。最後は、アテネの王子テセウスによって退治されてしまいました。
いろんな種類の鬼
牛の形をした「牛頭」の他にも、仏教説話や日本の伝承の中には、いろんな鬼がいます。豆知識として覚えてみては?
1:奪衣婆
「奪衣婆(だつえば)」とはどんな存在なのでしょうか?
三途(さんず)の川の岸にいて、亡者の衣服をはぎ取り、衣領樹(えりょうじゅ)の上に待つ懸衣翁(けんえおう)に渡すという老女の鬼。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
三途の川は、死後7日目に渡るという冥途にある川のこと。亡くなった人はこの川を渡り、奪衣婆に衣服を剝ぎ取られるとか。そして、懸衣翁(けんえおう)という翁の鬼がこの衣服の重さを量り、それによって罪の軽・重が決まるとされています。
2:酒呑童子
日本の鬼伝説の中でも、とりわけ有名なのが酒呑童子(しゅてんどうじ)です。丹波大江山などに住んでいたと伝わる鬼の頭領で、お酒を好んだことからこの名がついたとか。婦女・財宝を奪ったりする悪行を繰り返したことから、源頼光らに退治されたというエピソードが残っています。『御伽草子』や絵巻、浄瑠璃、歌舞伎などの題材として使われているようです。
最後に
「牛頭馬頭」とは、「頭が牛や馬で、からだは人の形をした地獄の獄卒」のこと。主に、仏教の教えとして、悪いことをしたら地獄に落ちてしまうよと人々に説く際に登場することがある言葉ですね。『地獄草紙』などの書物や美術品などに描かれることもあるため、どこかに牛の姿をした鬼が描かれていないかどうか、探してみるのもおもしろいかもしれませんね。
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