「是非に及ばず」の意味とは?
「是非に及ばず」は、戦国武将・織田信長が最期に放ったセリフとして有名な言葉です。実は、この言葉には様々な解釈があることを知っていますか? 今回は、「是非に及ばず」の意味や使い方、類語、そして織田信長の放ったセリフの解釈などを紹介します。
意味
「是非に及ばず」は、「ぜひにおよばず」と読みます。「善悪をあれこれ論じるまでもなく、そうするしかない、仕方がない」という意味の言葉です。「是非に及ばず」の「是非」には、「正しいことと正しくないこと」という意味があり、「及ばず」は、「そこまで達しない、できない」という否定の意味があります。
織田信長の「是非に及ばず」
「是非に及ばず」といえば、戦国武将・織田信長が臣下の明智光秀に謀反を起こされ、自害して果てる前に放った台詞としても有名ですね。1582年、織田信長が数名の臣下とともに宿泊をしていた夜中のこと。織田信長は、明智光秀の軍に周囲を囲まれ、襲撃を受けてしまいました。臣下の一人が「謀反です。敵は明智光秀なり」と伝えると、その時に織田信長が放った言葉が「是非に及ばず」だったというエピソードが残されています。
気がついた時にはすでに敵に囲まれ打つ手のない状況だったことから、「是非に及ばず」は信長の「仕方ない」という諦めの気持ちであることが通説とされてきました。しかし、「是非に及ばず」の「是非」には、「どんな困難も乗り越えて実行しようとするさま」などの意味が含まれています。そのことから、単なる諦めではなく、困難を乗り越える意志があったのではなどと、様々な解釈や議論があるようです。
使い方を例文でチェック!
「是非に及ばず」には、大きく分けて、「仕方ない」という諦めの意味と「困難を乗り越えよう」とする前向きな意味の2つの意味合いがあります。ここではそれぞれの使い方を例文でみていきましょう。
1:是非に及ばず。この試合の負けを認めよう。
「是非に及ばず」は、仕方ないと諦める時に使われることが一般的。そのため、受験やスポーツなどの勝負の場面で用いられます。「しょうがない」「仕方ない」などと言い換えることもできますね。
2:クラスメイトのAちゃんに告白したけれど、フラれてしまった。是非に及ばず、男なら潔く諦めよう。
捉え方によっては恋愛も勝負事といえるかもしれません。意中の女性にフラれてしまい、残念だけれども相手にその気がないのなら諦めようというニュアンスで、「是非に及ばず」ということができますね。
3:残り5分で試合終了だ。是非に及ばず、自分がシュートを決めて、チームを勝利に導こう。
こちらは、「開き直り」のニュアンスで「是非に及ばず」が使われています。試合終了時間が迫り、追い込まれている状況で、「仕方ない、やってみよう」と前向きに挑戦しようとしていますね。
類語や言い換え表現とは?
「是非に及ばず」の類語には、「是非もない」「打つ手がない」「余儀ない」などがあります。「仕方ない」という諦めの意味を持つ言い換え表現として覚えておきましょう。
是非もない
「是非(ぜひ)もない」は、「当否や善悪の判断をするに至らない、仕方ない」という意味です。やむを得ず、諦めざる終えないというようなニュアンスが「是非に及ばず」と類似していますね。こちらもやや古風な表現なので、日常会話よりも歴史小説などに登場することが多いでしょう。
・是非もない。今回ばかりは許してやろう。
・終電を逃してしまった。是非もない、自宅まで徒歩で帰ろう。
打つ手がない
「打つ手がない」とは、「とるべき方法やなすべき手段がない」ということです。これ以上いい方法が思いつかず、八方塞がりの状態を表します。「是非に及ばず」には、まだ諦めないというニュアンスも含まれていますが、こちらは諦めているような、やや後ろ向きな言葉です。
・現代の医学でも、もはや打つ手がないと医者は言った。
・何か打つ手はないだろうかと仲間に相談された。
余儀ない
「余儀(よぎ)ない」とは、「他になすべき方法がない」ということ。一般的には、「辞任を余儀なくされる」というように使われる表現です。やむを得ず役職を辞任するしかない、諦めざるを得ない場面で用いられます。
・今月末は棚卸しがあるから、残業するほか余儀なしだな。
・その大物政治家は、賄賂を受け取った罪で退任を余儀なくされた。
英語表現とは?
日本語の「是非に及ばず」のように、やむなく諦めるしかないというようなニュアンスを英語で伝える場合、どのような表現があるのでしょうか? 一緒にみていきましょう。
1:have no choice but to
「have no choice but to〜」は、「〜するしかない」という意味です。他に良い選択肢がなく、やむを得ず何かをする時に使用します。本人の意向とは関係なく、そうせざるを得ないということがポイントです。
・We have no choice but to ask for his help.(我々には、彼に助けを求める以外に選択肢はない)
・I had no choice but to follow my teacher’s orders.(私は先生の指示に従うほかに選択肢がなかった)
・She had no choice but to admit cheating.(彼女はやむを得ず、不正を認めた)
2:get over
「どんな困難も乗り越えよう!」というニュアンスを伝えたい場合は、「get over」が適切です。「get over」には、「困難を克服する」「ショックから立ち直る」というような意味合いが含まれます。
・get over a difficulty(困難を乗り越える)
・Let’s get the job over quickly.(仕事は早く片づけよう)
・get over the death of one’s son(息子を失ったショックから立ち直る)
最後に
「是非に及ばず」は、本能寺の変で織田信長が放った有名なセリフ。十分な武器や兵もなく、圧倒的に不利な状態に追い詰められた時の心情が込められています。ですが、その言葉の真意は、現在も様々に解釈されていますね。織田信長の人柄や、臣下・明智光秀との関係性から、その真意を想像してみるのも面白いかもしれません。この機会に「是非に及ばす」の意味を覚えてみてはいかがでしょうか。
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