「彼の話は矛盾している」という時に使われる、「矛盾」という言葉。普段当たり前のように使っていますが、そもそもなぜ「矛」と「盾」が使われているのだろう? と疑問に思ったことはありませんか。実は、中国のある故事が「矛盾」の語源なのだとか。そこで本記事では、「矛盾」の意味や使い方、類語、英語表現を解説します。
「矛盾」の意味
「矛盾(むじゅん)」とは、簡単にいうと「つじつまの合わないこと」。2つの物事が食い違っていたり、話の筋が通っていないことを意味します。例えば、家族に「無駄遣いをしないように!」と注意しながら、自分は好きな洋服やスイーツを買っているのは、言っていることと行動が矛盾していると言えますね。このように、論理的に考えてつじつまが合わないことを「矛盾」と言います。
語源
「矛盾」は、中国の思想書『韓非子』の中にある故事が、語源だとされています。昔、中国の楚(そ)の国で、矛(ほこ)と盾(たて)を売っている商人がいました。商人は、「この矛はとても鋭く、どんなに固いものでも突き通すことができる」と言いました。
次に盾を自慢して、「この盾はとても堅く、どんなものでも突き通すことはできない」と言ったとか。すると、話を聞いていた客が、「それでは、あなたの矛で、あなたの盾を突いたらどうなるのか?」と聞くと、商人は何も答えることができなかった、というお話です。
この矛と盾のエピソードから、話のつじつまが合わないことを「矛盾」というようになったと言われています。
使い方を例文でチェック!
日常生活の中で、「矛盾」している場面に出くわすことは意外とよくあるもの。よくあるシチュエーションを一緒に見ていきましょう。
1:その政治家は、記者に発言の矛盾を突かれていた。
ニュースを見ていると、記者から発言の矛盾を突かれている政治家や芸能人の話題がよく上がりますね。話の前後が食い違っていたり、言っていることと行動に一貫性がないと、周囲は不審に思うことも。発言力がある人ほど、矛盾を指摘されてしまうこともあるでしょう。
2:「兄は貯金をしたいと言いながら、ボーナスで時計を買っていたよ。矛盾しているよね」
口で言っていることと、やっていることが食い違っている例です。貯金したいと言いながら高額な買い物をするのは、確かに矛盾していると言えますね。日常生活では割とよくある「矛盾」ではないでしょうか。
3:話が矛盾していたことから、彼の浮気が発覚した。
2人で会話をしていたら、「あれ? 前に言っていたことと違う」と感じることはありませんか? よくよく問い詰めてみると、飲み会に行っていたのではなく別の異性に会っていた… なんて事実が発覚することもあるかもしれません。話の「矛盾」から、嘘がバレることもありますね。
類語や言い換え表現は?
「矛盾」の類語は、「言行不一致」「整合性がない」「自家撞着」などがあります。いずれもつじつまが合わないこと、一貫性がないことを意味する言葉です。1つずつ意味をチェックしていきましょう。
1:言行不一致
「言行不一致」の読み方は、「げんこうふいっち」。意味は以下のとおりです。
口で言うことと行動とに矛盾があること。主張と行動が食い違うこと。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「言行不一致」は、言葉のごとく言っていることと、行なうことが一致していないこと。他人のつじつまの合わない言動を見て、「それは言行不一致だ」と指摘する時などに使います。ややかたい表現なので、会話の中では「矛盾」が使われることが多いかもしれませんね。
(例文)
・あなたのやっていることは、言行不一致としか言いようがない。
・彼は言行不一致なので信用できない。
2:整合性がない
「整合性がない」とは、2つの物事の間にズレや矛盾があること。論理的に考えて、話が噛み合っていない場合などに、「その話には整合性がない」と判断されることも。データや資料の数値やプレゼンでは、整合性が求められますね。
(例文)
・被告人の言っていることには整合性がない。
・「この資料の内容には整合性がない」と言われ、却下された。
3:自家撞着
「自家撞着」は、「じかどうちゃく」と読みます。意味は、以下のとおりです。
[名](スル)同一人の文章や言動が前後食い違って、合わないこと。自己矛盾。「―に陥る」「理論が―する」
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
同じ人の言っていることと行動が食い違っていて、つじつまが合わないことを「自家撞着」と言います。「自家」とは、「自分自身」のこと。「撞着」は、「突き当たること」。「矛盾」とほとんど同じ意味を持つ四字熟語ですね。
(例文)
・兄は言っていることとやっていることが違っていて、自家撞着に陥っている。
・その政治家の理論は自家撞着していた。
英語表現は?
「矛盾」を意味する英語表現は、「contradictory」「inconsistency」などがあります。それぞれどのように使うのか例文を交えてみていきましょう。
1:contradictory
「contradictory」は、「(陳述や報告などが)矛盾している」「相容れない」などの意味があります。「contradictory」は、形容詞なので、場合によっては名詞の「contradiction」、動詞の「contradict」を使ってください。
(例文)
・What he is saying is contradictory.(彼の言っていることは矛盾している)
・What he tells me is contradictory and unbelievable.(彼の話すことは矛盾していて信じられない)
2:inconsistency
「inconsistency」は、「矛盾」「不一致」などの意味。話や振る舞いに一貫性がない時に使われる単語です。「inconsistency」は名詞、「inconsistent」は形容詞です。
(例文)
・The lawyer pointed out inconsistencies in her story.(弁護士は、彼女の話の矛盾を指摘した)
・That politician was accused of being inconsistent in his words and actions.(その政治家は言動が矛盾していると非難されていた)
最後に
「矛盾」とは、「つじつまの合わないこと」。中国の商人がものを売るときの故事から、「矛」と「盾」を組み合わせた「矛盾」という言葉が生まれたのは興味深いですね。2つの物事が食い違っていたり、話の筋が通っていないと、「それは矛盾しているよ」などと指摘されることも。ドラマのセリフやカップルの会話など、日常生活の「矛盾」に注目してみると面白いかもしれませんね。
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