「爪の垢を煎じて飲む」ということわざを聞いたことはありませんか? 日常生活であまり使うことはないものの、インパクトのある表現なので、印象に残っている方も多いかもしれませんね。そこで本記事では、「爪の垢を煎じて飲む」の意味や使い方、類語などを解説します。
「爪の垢を煎じて飲む」とは?
「爪の垢(あか)を煎(せん)じて飲む」には、どのような意味があるのでしょうか? 辞書で確認していきましょう。
格段にすぐれた人の爪の垢を薬として飲んでその人にあやかるように心がける。「名人の―・めば少しは腕が上がるだろうに」
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
優れた人の爪の垢をもらって、煎じて飲むことを「爪の垢を煎じて飲む」と言います。「爪の垢」は、汗や埃などが混ざり合って、皮膚につく汚れのこと。「煎じる」とは、薬や茶などを煮詰めて、成分や滋養を取り出すこと指します。当然ですが、本当に爪の垢を煎じて飲む訳ではなく、あくまでも「少しでも、優れた人と同じようになれるようにあやかりたい」という気持ちを表したたとえです。
使い方を例文でチェック!
「爪の垢を煎じて飲む」という言葉は、優秀な人がいて、「自分も同じようになりたい」と思うとき、もしくは他人に「あの人のようになってほしい」と思っているときに使用します。プライベートだけではなく、ビジネスシーンでも用いられることがあるため、使い方をチェックしておきましょう。
1:〇〇は全然宿題をやろうとしない。真面目なお兄ちゃんの爪の垢を煎じて飲んだ方がいいわよ。
怠けてばかりで一向に勉強をするそぶりが見えない息子を見て、「爪の垢を煎じて飲みなさい」と言いたくなることもあるでしょう。特に兄弟同士で、1人がわんぱくでもう1人がお利口な子だと、親は比較してものを言ってしまいがちに。「お兄ちゃんに倣って、少しは真面目に勉強しなさい」という意味ですね。
2:お隣のご主人はとても紳士的で優しいのよね。私の主人にも隣のご主人の爪の垢を煎じて飲んでほしいわ。
身近に素敵な人や優秀な人がいて、そのような人になってほしいと相手に求める場合に、「爪の垢を煎じて飲む」は使われます。その相手は、結婚相手やパートナー、自分の子供、友人や仕事仲間などさまざまです。
3:「爪の垢を煎じて飲みたい」と思うくらい、先輩は優秀で尊敬できる。
職場などに、能力や人柄などが優れていて、お手本にしたいなと思う人はいませんか? 仕事が早かったり、細かいところまで気が利かせている姿を見ていると、「できることなら私も同じようになりたい!」などと憧れることもあるでしょう。このように、少しでも憧れの人に近づきたいと思うときに、このことわざを使います。
「爪の垢を煎じて飲む」と似た表現はある?
自分より優れた人に影響を受けるという意味で、「採長補短」や「知らずば人真似」も似た表現と言えるでしょう。それぞれどのような意味があるのか、一緒にチェックしていきましょう。
1:採長補短
「採長補短」は、「さいちょうほたん」と読みます。意味は以下の通りです。
人の長所をとり入れて、自分の短所を補うこと。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
他人のいいところを取り入れることで、自分の短所を補うことを「採長補短」と言います。誰しも短所があれば長所もあり、完璧な人はいないはず。客観的に見て、「自分にはここが足りないな」と感じることがあったときは、それが得意が人の真似をしたり、教えてもらうことで、苦手を克服することができるかもしれません。そんな行ないを「採長補短」と言います。
(例文)
・採長補短という言葉に倣い、セミナーに通ってプレゼン力を強化することにした。
・大雑把な性格なので、丁寧な仕事をするAちゃんのことを見習いたい。採長補短とはこのことだね。
2:知らずば人真似
「知らずば人真似(ひとまね)」とは、「やり方を知らないときは、人がすることを真似るのが得策である」という意味。新しい仕事や慣れない作業など始めるときは、経験がある人のやり方や段取りを参考にすることで、仕事の飲み込みが早くなることもあるでしょう。やり方を知らないのに知っているふりをして、失敗するよりも、知っている人の真似をする方が賢いという処世術とも言えるかもしれませんね。
(例文)
・知らずば人真似というように、初めてやることは経験者に倣うのが得策だよ。
・A君は、知らずば人真似と言わんばかりに、先輩の作業の真似をしていた。
英語表現
「爪の垢を煎じて飲む」は、日本語特有のことわざなので、英語で直訳しても意味が伝わりにくいでしょう。そこでここでは、「爪の垢を煎じて飲む」が持っている、「相手に近づきたいという願望」や「相手のことを見習いなさい」と命令する時に使える英語表現を紹介します。
・I will do my best to be as close to my seniors as possible.(少しでも先輩に近づけるように頑張ります)
「do my best」は、「最善を尽くす」「頑張る」という意味。「close to〜」で、「〜に近い」「〜に近づく」などの意味があります。憧れの人を目の前にして、尊敬の念ややる気を伝えたいときには、このように表現してみてはいかがでしょうか?
・You should try to be like your father.(あなたはお父さんのようになるよう努めるべきだ)
直訳すると、「あなたはお父さんのようになるよう努めるべきだ」という意味になります。転じて、「尊敬できるお父さんに近づけるように頑張りなさい」というニュアンスで使うこともできますね。
・Take a cue from your seniors who take their jobs seriously.(真剣に仕事に取り組む先輩を見習いなさい)
「take a cue from〜」で、「〜を見習う」「〜を模範とする」という意味になります。文頭に使うことで、命令形として用いることもできるため、「爪の垢を煎じて飲む」と同じようなニュアンスを伝えられるでしょう。
最後に
すぐれた人の爪の垢を薬として飲んで、その人にあやかることを、「爪の垢を煎じて飲む」と表現します。爪の垢のような些細でつまらないものでも、優秀な人のものであれば、「何らかの効果があるのでは?」と期待してしまいそうになるのもわかりますよね。
本当に爪の垢を煎じて飲むことはできませんが、優秀な人の振る舞いを真似たり、教えを乞うことは可能です。周囲からいい影響を受けて、なりたい自分に近づいていけるといいですね。
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