「万事休す」という言葉を使ったことはありますか? 自分で使ったことはなくても、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか? まずは「万事休す」という言葉の基礎知識について、おさらいしましょう。
「万事休す」とは?
「万事休す」は「ばんじきゅうす」と読みます。注意したいのは「万事窮す」と書かないこと。音が同じで、言葉の意味を知っていると余計に「窮す」と書いてしまいそうになりますが、気をつけましょう!
意味
「万事休す」とは、「これ以上打つ手はなく、すべておわりだ」という意味。「もう何をしてもだめだ」という状況で使います。「万事」は、「すべての物事」という意味で、「休す」は、「おさまる」という意味。「休す」という漢字を見て「休む」という意味を連想する人も多いと思いますが、ここでは「おさまる」という意味で使われています。
由来
「万事休す」という言葉は、『宋史』という中国の歴史書の中で登場します。その物語は、王に溺愛されて育った王子の話。彼は甘やかされて育ったため、人から睨まれてもにっこりと笑ってしまう人でした。それを見て人々は「万事休すだ」と言ったそう。その後、王子が王になると、本当に国は滅びてしまいました。
ちなみに、王子を甘やかす王の姿を見て、人々が「万事休すだ」と言った説もあるようです。
使い方を例文でチェック!
耳にしたことはあるけれど、自分で使う機会は少ない「万事休す」。具体的な例文を用いながら、自然な使い方をチェックしてみましょう。
1:「残り時間に対してこの点差は、万事休すだ」
スポーツ観戦などをしていると、試合終了が近づくにつれて得点差が気になり、「もう勝てない、諦めよう」と思ったことはありませんか? 残り時間でひっくりかえせないような点差がついてしまっているときは、まさに「万事休す」です。
2:「万事休すというにはまだ早い! 最後まで諦めずに調べよう」
その場にいる大多数の人が「もうこれ以上できることは何もない」と思っても、本当にそうとは限りません。希望を捨てたくないときや諦めたくないときは、「万事休すというにはまだ早い」と言うことができますよ。
3:「最後の頼みの綱だった友人からも断られ、万事は休した」
「万事」と「休す」の間に助詞を入れ、「万事は休した」と表現することも可能です。このときも「窮した」と書かないように気をつけましょう。「万事休す」よりも柔らかい印象になり、使いやすいかもしれませんね。
類語や言い換え表現は?
「万事休す」に類語や言い換え表現はあるのでしょうか? より身近で、使いやすい言葉が見つかるかもしれません。さっそくチェックしてみましょう。
1:万策尽きる
「ばんさくつきる」と読みます。「まんさく」と読まないように注意しましょう! 文字の通り、「すべての手段が尽きた」という意味で、「万事休す」のように、何もできることがない状況で使います。若干堅い表現ではありますが、「万事休す」よりも、漢字から意味を推測しやすいのではないでしょうか?
2:お手上げ
両手をあげる動作に「降参」という意味があることから、「お手上げ」は「もうどうしようもない」という意味を表します。「万事休す」よりも身近で柔らかく、使いやすい言葉ですね。
3:刀折れ矢尽きる
戦で、刀や矢などの武器が尽きた様子から、「立ち向かうための方法が何もない」「戦いに敗れて散々なありさま」という意味を持ちます。刀ではなく「弓折れ矢尽きる」とも。日常会話ではあまり使えなさそうですが、知っているとかっこいいですね。
反対の意味の言葉は?
類語を確認したところで、反対の意味を持つ言葉も確認してみましょう。「万事休す」の反対の意味ということで、絶望の中でも一筋の光が見えるような、ポジティブな言葉が出てきそうですね。
1:起死回生
読みは「きしかいせい」。漢字から「死にかかっている状態から生き返る」というイメージが湧きますが、そこから転じて「絶望的な状態から立ち直る」ことを意味します。
2:虎口を脱する
読み方は「ここうをだっする」。虎口とは、動物のトラの口。つまり「危険な場所」を意味し、「とても危険な状態から抜け出す」ということを意味します。
3:順風満帆
読みは「じゅんぷうまんぱん」。漢字から、帆に追い風を受けて順調に船が進む様子をイメージできますが、転じて「物事が順調に進む」ことを意味します。先の2つは、ピンチな状態から復活する意味を持つ言葉でしたが、そもそもピンチな状態にすらならず、絶好調! という意味を持つ言葉です。
英語表現は?
「万事休す」について、最後は英語表現もチェック! 海外の人と会話するときにも自然と使える、シンプルなフレーズを紹介します。
1:It’s all over
overは非常に多くの意味を持つ言葉で、「〜の上に」「〜以上」という意味だけでなく、「超えて」「終わって」という意味も。「It’s all over.」と言えば、「もうおわりだ」「何かできるという状況は超えた」というニュアンスを持ち、「万事休す」と同じ意味になります。
2:All is lost.
lostは「失う」という意味の単語。「All is lost.」で、「すべて終わった」というニュアンスになり、「万事休す」と同じ意味を持ちます。
3:checkmate
「チェックメイト」はカタカナ英語にもなっている、チェス用語ですね。もう他に打つ手がない、「詰み」の状態を意味します。転じて比喩的に「万事休す」という意味も。カジュアルな場面で使えそうです!
人間万事塞翁が馬って?
「万事休す」と同じ「万事」を含む「人間万事塞翁が馬」ということわざを知っていますか? 「人生の幸・不幸は転々として、予想できない」という意味です。由来となった物語もこの機会に紹介!
由来
昔、中国で1匹の馬を飼っている老人がいましたが、ある日、馬が逃げてしまいました。不幸なことと思われましたが、数か月後、その馬は別の名馬をつれて帰ってきます。
幸運だと思われたのもつかの間、また別の日、老人の息子がその馬から落馬し骨を折ってしまいました。これも不幸なことと思われましたが、その後、骨折していたせいで息子は兵役を免れることができたのです。
類語や言い換え表現は?
「人間万事塞翁が馬」の類語には、「禍福は糾える縄の如し(かふくはあざなえるなわのごとし)」、「楽あれば苦あり」などがあります。
最後に
「万事休す」という言葉について、意味や由来、言い換えや英語表現まで幅広く解説しました。何となく意味は知っていて使っている言葉も、一度立ち止まって調べ直してみると、新しい発見があって楽しいですね。
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