「時間の都合上、一部の説明を割愛します」などと使われる「割愛」。会議やプレゼンなど、ビジネスシーンで一度は聞いたことがあるのではないでしょうか? 馴染みのある言葉ですが、文化庁の調査によると、約65%の人が本来とは異なる意味で使っているそうです。この記事では、「割愛」の本来の意味や、混同しやすい「省略」との違いなどについて解説します。
割愛とは?
最初に、「割愛」の意味について解説します。
意味や読み方
「割愛」とは、「かつあい」と読みます。意味は、「惜しいと思うものを、手放したり、捨てたりすること」。もしかしたら、皆さんの中には、「いらないものを省く」という意味で覚えていた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
文化庁が行った「国語に関する世論調査」(令和3年度)では、65.3%の人が本来の意味ではない「不必要なものを切り捨てる」を「割愛」の意味であると回答。本来の意味を回答したのは、23.7%でした。
参考:「令和3年度『国語に関する世論調査』の結果の概要」(文化庁)(https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/kokugo_yoronchosa/pdf/93767401_01.pdf)
「割愛」には、「惜しみながら」というニュアンスが含まれているとは意外だったかもしれませんね。また、これ以外にも「公務員が、他の自治体などに移籍すること」「大学職員が、他大学へ移籍すること」「愛着を断ち切ること」などの意味もあります。
語源
「割愛」は、もとは仏教用語であるとされています。家族や友人、故郷などに対する愛着の気持ちを断ち切って出家をしたことから、上述の「愛着を断ち切ること」という意味になったそう。この語源を知ると、「愛を割く」という漢字があてられたのが納得できますね。
割愛と省略の違いは?
文化庁の「国語に関する世論調査」の結果から見ても、「割愛」を「省略」と同じ意味で使っている人が多いことがわかります。そこで、「割愛」と「省略」の違いを解説しましょう。
「省略」の意味をおさらいすると、「省略」とは「簡単にするため、一部を省くこと」。省くことは共通していますが、「割愛」のように、「惜しみながら」「もったいないけど、残念ながら」といった意味合いは含まれません。言葉のニュアンスが違いますので、混同しないように注意してください。
使い方を例文でチェック!
ここまで、「割愛」の意味を詳しく見ていきました。「割愛」には、話し手の「惜しみながら」という気持ちがあるというのが、大きなポイントということがわかりましたね。では、実際の使い方を例文とともに紹介します!
1:お時間の都合により、こちらの説明は割愛させていただきます。
「割愛」は、会議やプレゼンテーションなどで、十分な時間がないために説明や内容などを省く際によく使われる言葉です。この例文は、「十分な時間がないために、一部の説明を仕方なく省略する」ということを伝えています。「割愛」には「惜しいと思うものを省く」という意味がありますから、本来であれば説明したかったという気持ちがうかがえますね。
2:スペースの都合上、皆様からいただいたコメントの一部は割愛させていただきました。
資料や社内報など、紙の印刷物はスペースが限られているため、すべての情報を掲載するのは難しいことも。この例文は、「惜しいけれども、コメントを一部省略した」という意味ですので、コメントの提供者への配慮も伝わりますね。
3:非常に多くのご意見をいただきましたが、本日読み上げてご紹介をするのは割愛いたします。
「割愛」には、「愛着のあるものを手放す」という意味があります。「割愛」を使うことで、省略したものを大切にする気持ちを表現できることでしょう。「省略したものを丁寧に扱いたい」といった場合には、ぜひ「割愛」を使ってみてくださいね。
類語や言い換え表現は?
続いては、「割愛」と似た意味を持つ言葉を紹介しましょう。「割愛」を別の言葉に言い換える場合には、「省略」「除外」「端折る」などが使えます。ただし、これらの言葉には「惜しみなく」といったニュアンスは含まれませんので、その点は注意して使うようにしてください。
1:省略
すでに何回も出てきましたが、「省略」は「割愛」の類語にあたります。「省略」とは、「省いて簡単にすること」。「割愛」のように、「惜しみなく省く」のではなく、「合理的に省く」というニュアンスです。例えば、「この部分はすでに説明したので、省略します」などと使います。
2:除外
「除外」とは、「その範囲には入らないものとして、取り除くこと」。この意味からわかる通り、何らかの規定や条件があるときに使われるのがポイント。「除外」を使った例文としては、「小学生は、料金の対象から除外されます」「ルールを破った選手は、大会から除外された」などです。
3:端折る
「端折る」とは、「はしょる」と読みます。意味は、「一部分を省いて、短く縮める」。もともと、「着物の裾を折り上げて、帯に挟むこと」という意味があり、これが「端折る」の語源だそう。「端折る」は辞書にも載っている言葉ですし、略語でもありませんが、人によってはカジュアルな印象を受けることも。そのため、目上の人に使うのは避けた方が無難です。
対義語は?
「惜しいと思うものを省略する」という意味の「割愛」。反対の意味の言葉としては、例えば「追加」「補充」などが適しているかもしれません。それぞれの言葉の意味を見ていきましょう。
1:追加
「追加」は、馴染みのある言葉ですよね。意味は、「すでにあるものに、後から付け加えること」。付け加えたもの、そのものを指すこともあります。
2:補充
「補充」は、「不足しているものを足すこと」。すでにあるものに対して、足りなくなった分を補うという意味です。「トイレットペーパーを補充する」「欠員を補充する」などと使います。
最後に
「割愛」の本来の意味は、「惜しいと思うものを省略する」という意味ですが、文化庁の調査によると「不要なものを省く」という意味でとらえていた人が65.3%もいました。「割愛」は、ビジネスシーンでもよく使われる言葉ですので、この記事を参考に「割愛」の本来の意味を覚えてくださいね。
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