出産のために仕事をお休みしている期間、収入に不安を感じるという方も、多いのではないでしょうか? 特に、子どもを授かると、何かとお金が必要になりますので、「何か手当があるの?」というのも、気になるところですよね。
そこで、この記事では、産休中の手当金である、「出産手当金」について解説します。出産を予定している人はもちろん、今後新しい命を授かった時のためにも、ぜひチェックしてみてくださいね。
産休手当とは?
産休手当とは、健康保険の出産手当金の通称名です。出産手当金とは、出産のために仕事をお休みしていて、会社から給与が支払われない場合、収入の一部を補うために出る手当金のこと。なお、もらえる期間は、以下のようになっています。
出産手当金の対象期間:出産の日以前42日(双子など、多胎妊娠は98日)から、出産の日後56日までで、仕事を休んでいる期間
出産日が当初の予定日より遅くなった時の、産前の「42日」は、どこから数えるのかも、気になるところですよね。この場合、前述の「出産の日」は、「出産予定日」に読み替えます。ですので、予定日をベースにして産休に入り始めた人で、実際の出産日が遅れた場合でも、損をしないような仕組みになっていると言えるでしょう。
出産手当金を受け取れる人の条件や計算方法は?
出産手当金は、どのような条件でもらえるのでしょうか? また、いくらもらえるかなども気になりますよね。ここからは、出産手当金を受け取るための条件や、計算方法を見ていきましょう。
1:出産手当金をもらえる条件は?
まず、出産手当金の対象になるのは、自分で働いて職場の健康保険に加入している人(被保険者)です。出産手当金は、被保険者が、出産のために仕事を休んでいて、給与の支払いがない場合や、給与が一定以上減ってしまう場合に対象となるので、もらえないケースもありますよ。
例えば、家族の扶養に入っているという人や、国民健康保険に加入しているという人は、原則は対象外ということになります。また、仕事を辞めた後に、辞める前の職場で加入していた健康保険を続けられる、「任意継続」という制度があることをご存知でしょうか? この「任意継続」の人も、原則、出産手当金の対象にはなりません。
2:出産手当金の計算方法は?
出産手当金額は、いくらくらいになるのでしょうか? 計算方法も見ていきましょう。出産手当金の計算方法は、以下のようになっています。
出産手当金の支給が始まる日(支給開始日)以前の継続した12か月間の、各月の標準報酬月額を平均した額÷30日×3分の2
ちなみに「標準報酬月額」とは、基本給に通勤手当、残業代などの各種手当を含めた額を、保険料額表というものの等級に当てはめた金額のこと。例えば、基本給23万円で、通勤手当が5千円の場合で考えてみましょう。この場合、合計額の23万5千円を等級に当てはめると、標準報酬月額は24万円となりますよ。
参考:日本年金機構ホームページ
ただし、残業代の有無や、途中でベースアップなどがあった場合などで、事情が変わってくることも。毎月の給料明細に書かれている健康保険料の金額と、自分が加入している健康保険の機関の「保険料額表」を照らし合わせて、ざっくり標準報酬月額を類推することはできます。
ですが、自分の正確な標準報酬月額が知りたいという人は、会社の給与計算などを担当している人に確認するのが安心でしょう。
いつもらえるの?
出産手当金が、いつ振り込まれるのか気になるという方も、多いのではないでしょうか? 出産後は出費がかさむ時期なので、一日でも早く手当金をもらいたいという声もあるでしょう。ですが、出産手当金は、すぐにもらえるわけではありません。
というのも、医師の証明をもらう期間や、会社が申請書を準備する期間、提出後の書類審査の期間なども必要になってくるからです。申請してから、少なくとも1か月から3か月程度はかかると見越しておいた方が良いでしょう。
また、 申請が殺到した場合や、書類に不備があった場合などは、さらに時間がかかる可能性もあります。中には、「すぐにもらえると思っていた」という人が、「思ったより振り込みが遅い」と困ってしまうこともあるようですね。事前に、ある程度時間がかかると思っておくと良いでしょう。
問い合わせ先はどこ?
出産手当金について、何か質問をしたい時に、「どこに問い合わせたらいいの?」という疑問をお持ちの方も、いらっしゃるのではないでしょうか?
結論から言うと、制度の内容について詳しく知りたい場合は、自分が加入している健康保険の機関に問い合わせるのがおすすめです。ちなみに、加入している健康保険の機関は、健康保険証に記載されていますよ。例えば、「全国健康保険協会」や、「〇〇健康保険組合」などですね。
電話で問い合わせる以外にも、健康保険の機関のホームページの「よくある質問」などで、分かりやすく解説されていることがあります。自分の加入している健康保険の機関の名前と、「出産手当金」で検索すれば、必要な情報が出てくることも。まずは一度、ホームページをチェックしてみてくださいね。
なお、機関によっては、電話で問い合わせても、「個人情報保護の観点から、具体的な金額や、いつ振り込まれるかなどは回答が難しい」と言われることもあるようです。
また、稀に、会社が申請自体を忘れていたというケースもあるようですね。自分の出産手当金の申請状況などを知りたい場合は、会社の事務担当者に問い合わせるのが良いでしょう。
「育休手当」は誤解?
たまにある誤解として、「子どもが1歳になるまで会社を休んでいる場合、ずっと出産手当金をもらえる」と思っているケースがあります。ですが、実際はそうではないことを、ご存知でしょうか?
前述の通り、出産手当金は、産後56日までの期間が対象でしたよね。その後、育児のために仕事を休んでいる期間は、「育児休業」という扱いに変わりますよ。
中には、出産手当金のことを、「育休手当」などと言って、混同してしまうこともあると聞きます。正直なところ、休んでいる人からすると、あまりこの違いは意識しにくいかもしれませんね。ただ、厳密に言うと、「産前産後休業」と「育児休業」は、制度上は異なるものということを、おさえておきましょう。
なお、雇用保険には、「育児休業給付金」という、雇用保険に加入している人(雇用保険被保険者)が育児休業期間中にもらえる給付金がありますよ。これを「育休手当」と呼んでいることもあるようですね。細かい要件があるので、一概には言えませんが、原則1歳未満のお子さんの育児のために休業をした期間が、対象になります。
1日あたりの給付金額は、休業開始から180日目までは賃金(休業開始時賃金日額)の67%、その後は50%となっていますよ。
ちなみに、2022年10月1日には、「産後パパ育休」という制度がスタートし、この期間を対象にした「出生時育児休業給付金」なども追加されています。近年、法改正が多い給付金ですので、その他の細かい条件などは、厚生労働省のホームページをチェックしてみてくださいね。
参考:厚生労働省ホームページ
最後に
この記事では、出産手当金の概要や、もらえる条件、計算方法、問い合わせ先などを解説しました。出産には何かと必要なものが多く、お金のことが気になる方も多いでしょう。出産を控えている人も、そうでない人も、おさえておくと安心ですね。
※この記事は、2023年7月時点の情報に基づいています。また、制度の一般的な内容を解説するものですので、細かい例外事項は割愛していることを、ご了承ください。
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塚原美彩(つかはらみさ) 塚原社会保険労務士事務所代表
行政機関にて健康保険や厚生年金、労働基準法に関する業務を経験。2016年社会保険労務士資格を取得後、企業の人事労務コンサル、ポジティブ心理学をベースとした研修講師として活動中。趣味は日本酒酒蔵巡り。HP:塚原社会保険労務士事務所 ライター所属:京都メディアライン