百戦錬磨とは?
百戦錬磨(ひゃくせんれんま)という言葉、ビジネスシーンでも聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか? わかっているようでわからないこの言葉。どういう意味なのか、まずは「百戦」と「錬磨」の二つの熟語に分けて見ていきましょう。
百戦とは
「百」は数値としての意味もありますが、数が多いことを表します。ですから、「百戦」は百回戦うということではなく、何度も戦うことです。孫氏の兵法に「彼を知り己を知れば百戦危うからず」という有名な言葉があります。これも、百回戦うという意味ではなく、何度も、数多くという意味で使っていますね。敵を知って自分も知れば何度戦っても破られることはない、という意味です。
錬磨とは
「錬磨」は肉体・精神・技芸などを鍛え磨く、ということです。「錬磨」を「練磨」と表記する場合もありますが、どちらの漢字を使っても間違いではありません。ただし、「磨」を「魔」や「摩」と間違えないようにしましょう。
このように、百戦錬磨とは何度も戦うことで、武芸の技量や精神が鍛え抜かれていることを意味します。転じて、現代では多くの経験を積んで優れた能力を発揮する、という意味に用いられるようになり、ビジネスシーンでも耳にするようになりました。
百戦錬磨の使い方
実際どのような場面で使うのか、一緒に見ていきましょう。
日常生活での用例
1:決勝戦での相手は百戦錬磨の強豪チームだ。気持ちを引き締めて全力で戦おう!
2:わが社は小さなベンチャー企業だが、社員は百戦錬磨のベテラン揃いだ。
3:見事な逆転劇を見せてくれたのは、やはり百戦錬磨のあの選手だった。
4:彼女は百戦錬磨の作家だから、今回の本もベストセラーになるにちがいない。
このように、経験を多く積んだことで能力が発揮されることを指す時に使われます。さらにそこには相手に対する尊敬の念が含まれるのです。
百戦錬磨の類義語
次に、百戦錬磨の類義語にはどんなものがあるのか見ていきます。
1:一騎当千(いっきとうせん)
一人当千(いちにんとうせん)とも言います。「一騎」「一人」は一人の騎馬武者。「当千」は千人を相手に戦うこと。一人で千人の敵を相手にできるほど強いということです。
例:正副の総督を護ってくる人たちがいずれ一騎当千の豪傑揃いであるとしても…(島崎藤村『夜明け前』)
2:蓋世不抜(がいせいふばつ)
世の中を圧倒する気性や才能があって、戦いに負けたことがないこと。「蓋」は「ふた」と読むように、覆いかぶさること。「不抜」は堅くて抜けないことから、世の中に覆いかぶさるような勢いが盛んで、戦いに負けないことを言います。
例:この蓋世不抜の一台の英気は、またナポレオンの腹の田虫をいつまでも癒す暇を与えなかった。(横光利一『ナポレオンと田虫』)
3:万夫不当(ばんぷふとう)
一万人の男にも勝つ力があること。誰も相手になることができないくらい強いことの例えとして使われます。「万夫」は大勢の男、「不当」は戦って相手になることができないことを指します。「万夫」を「まんふ」と読むのは誤りです。
例:元来この隣国の大将は、獅子王をも手打ちにすると聞こえた万夫不当の剛の者でおぢゃれば…(芥川龍之介『きりしとほろ上人伝』)
4:千軍万馬(せんぐんばんば)
多くの軍隊と馬、または多くの激しい戦いをした、経験の豊富な軍隊や人物という意味です。「千」「万」は「百」と同じく数値を表しているのではなく数の多さを表しています。また、「万馬」を「まんば」と読むのは誤りですので気をつけましょう。
例:一枝のペン先きに千軍万馬を躍らすヲオトルルウ大戦の雄麗な描写は…(徳富蘆花『黒い眼と茶色の目』)
5:海千山千(うみせんやません)
さまざまな人生経験を積んで、物事の裏表を知りつくし、悪賢くなった者という意味です。海に千年、山に千年住んだ蛇は竜になるという言い伝えから生まれた言葉。人生経験を積んだという点は百戦錬磨と似ていますが、海千山千は軽蔑したり警戒したりして、ネガティブなイメージの時に用いられます。決して誉め言葉ではないので注意が必要です。
例:彼は海千山千のしたたか者だから、注意した方がいい。
百戦錬磨の対義語
百戦錬磨のズバリ対義語、というものはありませんが、反対の意味を持つ言葉として次のものが挙げられます。
1:浅学菲才(せんがくひさい)
浅学短才(せんがくたんさい)とも言います。学識が浅く才能と知恵が薄いこと。薄いという意味で「菲」という字が使われていますが、現在では常用漢字の「非」を使っています。
2:寡聞浅学(かぶんせんがく)
見分が狭く学識の深くないこと。浅学寡聞(せんがくかぶん)とも言います。「寡」は少ない、「浅学」は学識が浅いことです。相手を非難する時に使うものではなく、謙遜の表現として用いられることが多いです。
百戦錬磨の英語表現
百戦錬磨の英語表現を見ていきましょう。
1:A veteran of many battles(百戦錬磨の士)
2:He is a veteran manager.(彼は百戦錬磨の監督だ)
「veteran」は日本語でもカタカナでよく使っている「ベテラン」です。英語の意味は経験豊富な人、老練な人という意味ですが、日本語では専門家、プロという意味で使われる「expert」に当たることが多いです。
まとめ
百戦錬磨とは経験を積むことでその能力が磨かれ、優れた能力が発揮できる、という意味です。現代では経験豊富でスキルが高いというとらえ方もできます。そこには相手に対する敬意が含まれますから、ポジティブな意味合いに。日常生活やビジネスシーンでも耳にすることも多いですが、相手に対して否定的に使うことは誤りですので気をつけましょう。
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