いい人でいたいと思う心理は?
「いい人」と言われることに苦しさを感じているとしたら。何かを我慢したり、周囲からの期待に応えようとして、本来の自分を見失っているのかもしれません。5万人以上のキャリアサポートをし、職場やプライベートの人間関係の悩み相談にのってきた、キャリアコーチの菊池啓子(きくち・ひろこ)さんにお話を伺いました。
「『いい人』と言われる人たちは、配慮があって気が利く優しい態度がとれる人のこと。周囲の状況が見えるので、察して動くことが得意だったりします。その人がいるからこそ、その集団での活動が円滑に進んだり、和やかな関係性が保たれたりする、大事なキーパーソン。でも、『なんだか報われないな…』と悩んでいる人も多くいます。それは、自分の我慢や犠牲に周囲が気づいてくれないから。
ただ、ちょっと注意が必要なのは、『察することが得意な人』は、世の中にそれほど多くはないということ。『これくらい言わなくても気づいてくれるよね』と思っているだけでは、相手に伝わっていないということが。負担に感じていることなどは、周囲に具体的に伝える必要があるのです」(キャリアコーチ・菊池さん)
「いい人」は、文句を言わずに対応してくれる印象がありますね。周囲にいる人が気づいていないだけで、「本当は負担に思っている」ということはありそうです。我慢をしてまで「いい人でいたい」と思う理由を見てみましょう。
1:「嫌なこと」と距離を置きたい
対立や葛藤など、場の雰囲気が悪くなることや、相手から嫌われるという状態を避けたいと思っています。そんなことになるくらいなら、我慢をした方が楽であると思っているのです。
2:周囲に認めてもらいたい
「承認欲求」というものは、誰にでもあるもの。人は集団で活動する生き物です。所属する集団に認めてもらえないということは、生きていく上で不都合が生じます。集団での立ち位置として、「周りの役に立つこと」「頼られること」「好きという評価を得ること」などで認めてもらえることを目指しているのかもしれません。
いい人をやめたら、何が変わる?
いい人をやめることですぐに感じられる変化は、「疲れなくなる」こと。
いい人というのは、周りからの評価で成り立ちます。そして、何を「よい」と思うかは、それぞれの人の判断基準に寄ることです。関わる人の様子を観察し、場を見極めるために常にアンテナを張り巡らせる。そのうえでベストだと思う行動を選ぶ。でも、その行動が、自分が思う程度で周囲に受け入れてもらえるとは限らない。そして、その労力が報われないことも多くある。こんなことでは、疲れ果ててしまいます。
「いい人だと思われること」は、他者の判断基準に振り回されてしまうこと。これを手放すと、楽になることができるのです。
いい人と思われることをやめて見えてくるものは?
他人の判断基準に合わせていると、「自分が思っていること」は後回しになります。自分が「いいな」「嫌だな」と思ったとしても、それが場を崩すことになるのであれば、表明することなく心の奥底にとどめてしまう。これを続けていると、そもそも自分はどんな人だったのかもわからなくなってしまいます。
今まで「いい人」として生きてきたとしたら。「いい人をやめる」と思うことは、これまでの自分を否定するような気持ちになりませんか? 実は「いい人をやめる」必要はありません。「いい人だと思われたい」という自分の習慣を、ちょっとだけ手放してみるのです。周りからの「いい人だ」という評価に、重きを置かない心持です。
「いい人と思われること」を手放すと、自分にとって大切なこと、いいと思えること、嫌だと思えることが明らかになってきます。そうすると、「自分らしさ」や「本当の自分」が見えやすくなります。
いい人をやめる6つのポイント
「いい人をやめる」のではなく、「いい人と思われたい気持ちを手放す」。まずはこの意識持ったうえで、気をつける6つのポイントがあります。
1:自分との約束を優先する
他人との約束は絶対に守るのに、自分との約束は破りがちではないですか? もしくは、自分と約束をするということに慣れていない人もいますよね。自分一人の予定だとしても、それは自分との約束。まずはその予定を優先するようにしましょう。
2:自分の気持ちを尊重する
どんな気持ちになろうとも、それはその人の自由です。特に、他人に対してネガティブな気持ちを持った時に、「こんなことを思ってはいけない」と、否定をしていませんか?どんなことを思うのも、自由ですし、誰かにとがめられる筋合いはありません。それを誰かに伝えるかどうかはまた別の話。「今、自分はこんな気持ちになったんだな」と、受け入れましょう。
3:相手との関係性を整理する
すべての人と同じように親密につき合う必要はありません。そして、自分に合わないタイプという人たちも、この世には存在しているのです。関わる人を思い浮かべながら、活動する領域や会う頻度、費やす時間や心の距離感などを見直すのは、人と適切な関係を築いていくために大切なことです。
4:嫌われることを恐れない
どれほど「いい人」だったとしても、嫌われないわけではありません。「いい人だから嫌い」というタイプもいるものです。嫌われたとしても、こちらに非があるわけではなく、ご縁がない間柄だったというだけ。そこに執着する必要はなく、自分を好きだと言ってくれる人のところへ行けばいいんです。
5:断る理由はなくてもいい
何か断る時に、「正当な理由が無ければならない」と思っていませんか? お断りするのに理由はいりません。「興味がないから」「別の予定があるから」など、あらかじめ伝える言葉を用意しておき、笑顔で爽やかにお断りしましょう。
6:他人の問題を抱え込まない
何か困ったことがあった時、それは「自分事なのか」「他人事なのか」の仕分けをしましょう。例えば、「親友が不倫をしている」ことに、心を痛めて悩む人がいます。意地悪な言い方ですが、これはまったくの他人事。多少のサポートはできるかもしれませんが、どのようなことも、当人が考えて動かなければ解決はしません。他人の問題を勝手に抱え込まないように。
最後に
我慢を重ねて、「いい人」である必要はありません。他人の都合に合わせなければ得られない評価であれば、手放してしまいましょう。自分を優先する勇気を持つことで、自分らしくイキイキと過ごすことにつながります。その結果、周囲に対して良い影響力を発揮することになり、本当の意味での「いい人」「素敵な人」になることができます。
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キャリアコーチ 菊池啓子(きくち・ひろこ)さん
2003年から企業研修トレーナー・人材育成コンサルタントとして活動。国家資格キャリアコンサルタント。研修登壇回数は年間100回を超え、これまでに5つの大学でキャリアデザインを教える。現在「社外上司」として多くのビジネスパーソンの悩みに寄りそい成長をサポート。趣味は出張先での御朱印集め。家族は夫と猫2匹。
Twitter:@lotus_kikuhime
ライター所属:京都メディアライン