「妹背」は、あまり見聞きしない表現かもしれませんね。しかし、「妹背」は古くから身近な人たちの関係を表すときに使われてきました。
人と人の縁とは、ときにありがたく、ときに難しくもありますが、そんな、深い縁や特別な絆を持った関係を表す言葉「妹背」について、言葉の意味、由来、使い方を深掘りしていきましょう。
何を指す言葉?「妹背」の読み方と意味
平安時代の物語にも登場する「妹背」について、まずは読み方と意味を知って、理解を深めましょう。
「妹背」読み方と意味
「妹背」は「いもせ」と読みます。辞書に書かれている内容を確認しましょう。
いも‐せ【▽妹背/▽妹▽兄】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
1 夫婦。夫婦の仲。
「枕を並べし―も、雲居のよそにぞなりはつる」〈平家・灌頂〉
2 兄と妹。姉と弟。
「戯れ給ふさま、いとをかしき―と見給へり」〈源・末摘花〉
「妹背」には二つの意味があります。一つは「夫婦」「夫婦の仲」。もう一つは「兄妹」や「姉弟」です。「妹背」とは、深い縁や特別な絆を表すための言葉として用います。
「妹背」がどの縁を指しているかは、文脈や使い方から理解することが重要ですね。

「妹背」漢字の構成
昔の日本では、「妹(いも)」は実の妹に限らず、親しい女性への呼び方として広く使いました。「背(せ)」は、親しい男性を指します。今ではあまり見聞きしない言葉ですから、それぞれの語について、辞書の記述を改めて見てみましょう。
いも【▽妹】
1 男が女を親しんでいう語。主として妻・恋人をさす。⇔兄(せ)。
2 男の側から姉または妹をよぶ語。⇔兄(せ)。
3 女どうしが友人や妹を親しんでいう語。せ【▽兄/▽夫/背】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
1 女が男を親しんでいう語。主として夫・恋人をさす。⇔妹(いも)。
2 女の側から兄または弟をよぶ語。⇔妹。
このように、「妹」と「背」はともに親しい間柄に使う言葉であり、「妹背」は恋人や夫婦、あるいは兄妹のような深い絆を指す言葉として定着していきました。
古典にみる「妹背」の用例
「妹背」は、古典文学でも深い人間関係をあらわす言葉としてたびたび登場します。ここでは、『平家物語』と『今昔物語集』の例を紹介します。

『平家物語』より引用
「飽かで別れし妹背の仲らひ、必ず一つ蓮に迎へ給へ」
(あかで わかれし いもせ の なからい、かならず ひとつ はちすに むかえたまえ)
(巻九「小宰相身投」)
【現代語訳】
心残りのあるまま別れた私たち夫婦の関係ですから、死後はきっと同じ蓮の花の上に迎えに来てください。
この用例では、「妹背」が夫婦や恋人のように、深い絆で結ばれた男女を意味しています。
『今昔物語集』より引用
「前生の宿世によりてこそは、… 妹背も夫妻ともなりけめ」
(ぜんしょう の すくせ に よりて こそは、… いもせ も めおと とも なりけめ)
(巻二十六・第十話)
【現代語訳】
前世の因縁があったからこそ… 兄妹が夫婦になったのだろう。
ここでは、「妹背」が兄妹や姉弟といった血縁関係を指しています。
参考:『小学館 全文全訳古語辞典』(小学館)
「妹背」今の時代にどう使える?
「妹背」という言葉は、和歌や古典作品に触れる場面では目にすることがありますが、現代ではあまり見聞きする機会はありません。ここからは、「妹背」の現代的な使い方のヒントとなる例を見ていきます。
「妹背の契り」
「妹背の契(ちぎ)り」とは、夫婦として結ばれること、または夫婦の深い結びつきを意味する表現です。語感に品があり、格式を感じさせることから、結婚式のスピーチや文書などで使うと、古風で趣のある印象を与えることができます。
参考:『日本国語大辞典』、『故事俗信ことわざ大辞典』(小学館)

現代に残る「妹背」の地名や作品名
「妹背」という言葉は、現代の暮らしの中にも、意外と残されているので紹介します。
例えば滋賀県にある「妹背の里(いもせのさと)」は、自然豊かな公園で、桜の名所としても知られています。また、「妹背の滝」や「妹背山」といった地名も各地に残されています。「妹背」がかつて人々の生活に、密接に結びついていたことがうかがえます。
さらに、江戸時代の浄瑠璃や歌舞伎の演目『妹背山女庭訓(いもせやまおんなていきん)』のように、物語のタイトルとしても使われています。『妹背山女庭訓』では、男女や家族の絆、忠義といったテーマが描かれ、「妹背」が象徴する人と人の深い縁が、強く反映されていますよ。
最後に
「妹背」は、夫婦や兄弟姉妹といった関係を表すだけでなく、そこにある深い絆も伝える言葉です。古くから使われてきた表現らしく、言葉では言い尽くせない心の結びつきまでを感じさせる余韻がありますね。日本語の古語が持つ、奥ゆかしく美しい響きを感じる言葉です。
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