複数の人が集まると、意見が一致するとは限りません。しかし、それぞれの立場から語られる言葉は、ときにぶつかり合いながらも、新しい視点を生み出す力があるでしょう。「甲論乙駁(こうろんおつばく)」という四字熟語は、そうした場面を映し出す表現です。
この記事では、「甲論乙駁」が示す意味や背景について、丁寧にたどっていきましょう。
「甲論乙駁」とは? 意味と読み方を確認
議論が尽きないテーマでは、さまざまな意見が飛び交います。そのような場面を表す四字熟語が「甲論乙駁」です。まずは、意味や読み方を正しく理解していきましょう。
「甲論乙駁」の読み方と意味
「甲論乙駁」は「こうろんおつばく」と読みます。辞書では次のように説明されていますよ。
こうろん‐おつばく〔カフロン‐〕【甲論乙×駁】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
[名](スル)甲が論じると乙がそれに反対するというように、たがいにあれこれと論じ合うばかりで、議論の決着がつかないこと。
「甲論乙駁」は、一方が意見を述べると、他方がそれに反論し、議論の決着がつかない状況を指します。何かを決める過程であったり、議論が交錯する場で用いられることが多いでしょう。

「甲論乙駁」の漢字構成を読み解く
「甲論乙駁」とは、「甲が論じ乙が反対する」という意味を表しています。ここでは、あまり馴染みのない「駁」という漢字について、見ていきましょう。
「駁」の漢字の意味とは?
「駁(ばく)」という字は、「議論する」、「反対意見を述べる」といった意味を持っています。
「駁」を使った熟語には、「駁議(ばくぎ)」や「駁論(ばくろん)」などがあります。
「駁議」は、人の意見に反対した意見を述べることを指し、「駁論」は反対意見を指しますよ。「甲論乙駁」と一緒に覚えておくことで、頭に残りやすくなりますね。
参考:『日本国語大辞典』(小学館)、『新選漢和辞典 Web版』(小学館)
「甲論乙駁」の類語や言い換え表現を紹介
同じような意味を持つ言葉を知っていれば、場面に応じて柔軟に表現を変えることができます。ここでは、「甲論乙駁」と似た意味を持つ四字熟語を3つ紹介していきましょう。
侃々諤々(かんかんがくがく)
「侃々諤々」は、自分が正しいと信じる意見を、遠慮せず率直に述べる様子を表します。意見が真っ向から対立しているというよりも、活発に言葉を交わす場面で使われることが多いようです。「甲論乙駁」がぶつかり合いの印象を持つのに対し、「侃々諤々」はもう少し自由な議論の雰囲気を感じさせますね。

議論百出(ぎろんひゃくしゅつ)
「議論百出」とは、多くのさまざまな意見が次々と出てくる状態を指します。一つの話題について多角的に考えが集まるような状況に使われることがあり、会議や討論の場面などでも耳にする表現です。
賛否両論(さんぴりょうろん)
「賛否両論」は、ひとつの事柄について賛成と反対、どちらの意見もある状態を表します。日常会話の中でも比較的馴染みのある言い回しといえそうです。
参考:『デジタル大辞泉』(小学館)
「甲論乙駁」の英語表現は?
ここでは、対話や議論の様子を描写するのに役立つ英語表現を紹介します。

argue back and forth
“argue back and forth”は、互いに意見を出し合い、行ったり来たりの議論をする様子を表す表現です。立場の異なる者同士が、それぞれの主張を繰り返すような場面に合います。
例文:They argued back and forth about the best approach.
(彼らは最善の方法について互いに議論を重ねた。)
discuss the pros and cons
“discuss the pros and cons”は、物事の賛否や利点と欠点を話し合うときに使われます。直接的な対立を描くというより、冷静に意見を交わす印象を与える言い回しです。
例文:We discussed the pros and cons of implementing the new system.
(新しいシステムの導入について、私たちは賛否の両面から話し合った。)
参考:『プログレッシブ和英中辞典』(小学館)
最後に
「甲論乙駁」という言葉には、意見の違いがあるからこそ、新しい考え方に出会えるのかもしれないという気配が含まれているかのようです。一見すると対立しているようでも、その奥には理解や歩み寄りの種が潜んでいることもあるでしょう。この四字熟語が持つ響きから、議論というものの奥深さを感じてみるのも、ひとつの楽しみ方ではないでしょうか。
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