天網恢恢とは「天網恢恢疎にして漏らさず」を略した言葉
天網恢恢(てんもうかいかい)とは、「天網恢恢疎にして漏らさず」を略した言葉です。天が張る網は目が粗いように見えるものの悪人を漏らすことはないという意味で、悪事は必ず露見するものだといった文脈で使われます。
「悪いことをしてもばれなければOK」と考える人は少なくないかもしれません。「他人に迷惑さえかけなければいい」「迷惑をかけても、大した罪ではないだろう」と、中には自分自身に甘い人も。
しかし、天という自然の節理や道徳といった人知を超えた何かが見ていると考えることで、「誰も見ていないところでも正しくありたい」といった思いが芽生えることもあるでしょう。天網恢恢は、人々に道徳心や倫理観を持つように促す言葉ともいえるかもしれません。
【天網恢恢】
出典:小学館 四字熟語を知る辞典
「天網恢恢疎にして漏らさず」の略。天は決して悪人・悪事を見逃さないということ。
天網恢恢はどう使う?実例を紹介
天網恢恢は、悪いことをした人をたしなめたり、普段の行動を戒めたりするときに使われる傾向にある言葉です。たとえば、次のように使います。
・いつも弟にいじわるをしているでしょう? 天網恢恢疎にして漏らさず。誰も知らないと思っているのはあなただけだよ
・隠れて浮気をしているつもりでも、天網恢恢、すぐに彼に知られてしまうよ
・そんなに驕り高ぶった態度では、いつか天罰を受けるよ。天網恢恢っていうでしょう?
元々は「天網恢恢疎にして失わず」その由来は?
天網恢恢は「天網恢恢疎にして漏らさず」を略した言葉とされ、実際に多くの辞書では「天網恢恢疎にして漏らさず」と記載されています。
しかし、元々の由来となる老子の言葉は「天網恢恢疎にして失わず(「天網恢恢疏而不失」)」のようです。日本語では「網から漏れない」と表現するほうが「網から失わない」よりも自然で理解しやすいことから「漏らさず」という言葉が使われるようになったのかもしれません。
天網恢恢と類似する言葉
天網恢恢と同じく、悪事は必ず露見するといった意味で使われる言葉には、次のものが挙げられます。
・天罰覿面(てんばつてきめん)
・天の眼(てんのまなこ)
・お天道様(おてんとさま)が見ている
それぞれのニュアンスや使い方の違いを、例文を通して紹介します。

天罰覿面(てんばつてきめん)
天罰覿面(てんばつてきめん)とは、悪事を働けば、すぐに天罰が現れることを意味する言葉です。天網恢恢と同じく「悪いことは必ず露見する」というニュアンスで使われますが、天網恢恢のように「いつかは天罰が下るだろう」といったニュアンスはなく、すぐさま罰が下るという意味合いで使われます。
・悪いことはできないね。天罰覿面、すぐに罰が下るよ
・人の失敗を笑った彼女は、帰り道に財布をなくしたらしい。天罰覿面といえるかもしれない
「天罰」といった普段使う言葉が含まれているため、天網恢恢よりも意味がわかりやすいかもしれません。
天の眼(てんのまなこ)
天の眼(てんのまなこ)とは、人の正邪善悪を監視する天の眼力のことです。「天が見ている」という天は天網恢恢と同じですが、天の眼には「悪事には天罰が下る」の意味合いはなく、単に天という人知を超えた存在が人を監視している意味で使われます。
・誰もいないところでも、天の眼からは逃れられない
・人知れず善行を積んできたが、天の眼なら理解しているはずだ
・天の眼はどんなことも見ているため、必ず悪事はばれるものだ
悪事だけでなく善行についても使われる表現です。
お天道様(おてんとさま)が見ている
太陽を敬って「お天道様(おてんとさま、おてんとうさま)」と呼ぶことがあります。また、天地をつかさどる超自然の存在を指して「お天道様」と表現することもあります。
・誰も見ていなくても悪いことをしてはいけない。お天道様が見ているよ
・悪いことをすれば、お天道様に筒抜けだ
・お天道様に恥じない行動をするように
「お天道様」は、太陽を神格化した表現としても使われる傾向がみられます。
天網恢恢と反対の意味を持つ言葉
天はすべてのものを見ているわけではありません。中には、悪事がばれずままの人も。天網恢恢と反対の意味を持つ言葉の使い方を例文を通して見ていきましょう。

網呑舟(あみどんしゅう)の魚を漏らす
網呑舟(あみどんしゅう)の魚を漏らすとは、舟を飲み込むほどの大きな魚でも、網の目が粗いと捕らえられずに逃すことがあるという意味です。
・逮捕するための決定的な証拠がなく、網呑舟の魚を漏らすことになってしまった
・残念だが今回は網呑舟の魚を漏らした。バックには強力な人物がいるようだ
・網呑舟の魚を漏らすというが、明らかに犯罪行為でも罰することができないのは歯がゆい限りだ
この言い回しでも、魚は悪人、網は法律を指すことが多いです。
意味を理解し、状況に応じた言葉を使おう
天網恢恢は悪いことには天罰が下るといった意味で使われる言葉です。「いつか天罰が下るだろう」といった脅しのニュアンスでも使われます。
一方、天罰覿面は「すぐに天罰が下る」という意味です。悪いことがすぐさま露見したときにも使うことがあります。ニュアンスを理解し、適切に使い分けましょう。
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