「つかぬこと」の意味、勘違いしてない?
「つまらないこと」だと思っている人が意外と多い
“つかぬことを伺いますが……”というフレーズを聞いて、些細な質問をする際の謙遜表現だと思っている人も少なくありません。確かに、へりくだった印象を与える言葉ではありますが、本来の意味は少し異なります。
「つかぬこと」は漢字で書くと「付かぬこと」。つまり、「前の話題に付かない=関係のないこと」という意味で、話の流れとは全く別の話題に移る時に使う、話題転換の表現なのです。
例えば、プロジェクトの進捗報告をしていた会議で、突然「ところで、来月の社員旅行の件なんですが……」と別の話題に切り替えるときなど、それまでの文脈とは無関係な新しい話題を持ち出すのが、本来の”つかぬこと”の使い方です。

「愚にもつかない」と混同して覚えている人も
「つかぬこと」と似た響きの言葉に「愚にもつかない」という表現もあります。こちらは「取るに足らない」「つまらない」という意味で、へりくだって自分の話や質問を低く見せる時に使う言葉です。
音の響きが似ているため、この2つが混ざってしまい、「つかぬこと=つまらないこと」と覚えてしまっているケースも見受けられます。
「ちょっとしたこと」の意味で使ってしまう
簡単な確認事項や軽い質問をする時の前置きとして”「つかぬことを伺いますが」と使ってしまうパターンは最も多い間違い事例かもしれません。例えば、メールのやり取りの中で「先ほどの資料について、つかぬことを伺いますが〜」といった使い方。これは本題に関連する補足質問なので、”つかぬこと”は適切ではありません。
また、初対面でいきなり「つかぬことを」と切り出すのも、本来の意味ではないため誤用です。あくまで話の流れがあってこその話題転換の表現。まだ何も話していない状態では、「前の話題」自体が存在しないため、道で人に声をかける時や、受付で質問をする時など、そもそも会話が始まっていない場面「つかぬことをお聞きしますが……」と使うのは不自然です。
世代や場面で変わる?「つかぬこと」の印象
「つかぬこと」という表現は、やや古風で格式ばった印象を与えます。そのため、ある程度年齢を重ねた人や伝統的な企業文化を持つ会社では違和感なく受け入れられる傾向があります。改まった商談や重要な会議などのフォーマルな場面であれば、丁寧な話題転換の表現として機能しますが、20〜30代が中心の職場やカジュアルな社風の企業では、やや堅苦しく感じられることがあります。日常的なメールやチャットでのやり取りで”つかぬことを伺いますが”と書くと、必要以上にかしこまった印象になってしまうかもしれません。
相手の年齢層や社風、コミュニケーションの場面を見極めて、使うかどうかを判断することが大切です。
「つかぬこと」の言い換え表現・間違えやすい似た表現
話題を変えたいとき、「つかぬこと」以外にも使える言葉があります。相手や状況に応じて、より自然な表現を選ぶことができます。

フォーマルな場面での言い換え例
「別件ですが」
「話は変わりますが」
「恐れ入りますが、別の件で」
カジュアルな場面での言い換え
「ところで」
「そういえば」
「話は変わるんですけど」
「差し支えなければ」「恐れ入りますが」との違い・使い分け
「差し支えなければ」は、プライベートなことや答えにくい質問をする時に使う表現です。「もしお答えいただけるようでしたら……」というニュアンスが含まれており、相手に配慮を示す言葉ですが、「つかぬこと」と混同して使われがちです。
また、「恐れ入りますが」は、お願いや依頼をする時の前置きとして使われます。「お忙しいところ申し訳ありませんが……」という謙虚な姿勢を示す表現で、話題を変える意味はありません。
日本語特有の、似た表現や音の響きが近い表現も多いので、この機会にそれぞれの意味や使い方をしっかり整理して覚えておきましょう。
「つかぬこと」を正しく使うポイント
「つかぬこと」という表現は、「つまらないこと」ではなく「前の話題とは関係ないことなんですが」という意味が本来の使い方です。軽い質問の前置きとして何気なく使っている方も多いかもしれませんが、本来は話題を180度変える際に使う言葉だと覚えておきましょう。
やや古風な表現であるため、相手やシーンに合わせて類似表現を使い分けることが必要です。ビジネスコミュニケーションをより円滑にするために、ぜひ参考にしてみてくださいね。
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コマツマヨ
WEBサイトライティングをメインに、インタビュー、コラムニスト、WEBディレクション、都内広報誌編集、文章セミナー講師など幅広く活動。



