目次Contents
この記事のサマリー
・「老獪」は「ろうかい」と読み、「経験を積んでずる賢いさま」を表します。
・褒め言葉ではなく、ネガティブな意味を持つ言葉です。
・英語では“cunning” が近い意味を持つでしょう。
「老獪」という言葉を、見聞きしたことはありますか? 普段の会話で使うことはあまりないかもしれませんが、新聞や書籍、ビジネスシーンで使うことがあります。しかし、もしも意味を勘違いしたまま使ってしまうと、相手に誤解されたり、不快な思いをさせてしまったりすることも…。
この記事を読めば、「老獪」という言葉の正しい意味から使い方、類語までがわかります。知的でスマートな大人を目指すためにも、この機会にマスターしておきましょう。
「老獪」とはどんな言葉? 読み方と意味を確認
社会人として正しい理解が求められる言葉、「老獪」。読み方や定義を明確にして、誤解なく使えるよう整理しましょう。まずは辞書で意味を押さえることで、安心して表現に取り入れられますよ。
「老獪」読み方と基本の意味
「老獪」は「ろうかい」と読みます。意味は辞書にこう示されています。
ろう‐かい〔ラウクワイ〕【老×獪】
[名・形動]いろいろ経験を積んでいて、悪賢いこと。また、そのさま。老猾(ろうかつ)。「―なやり口」
[派生]ろうかいさ[名]
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
「老獪」という言葉を、わかりやすく説明すると、「世慣れてずる賢いこと」だといえます。
「老獪」|漢字の構成と背景
「老獪」という漢字を分けて考えてみると、意味がより鮮明になります。
かい【×獪】
[音]カイ(クヮイ)(漢)
悪賢い。ずるい。「狡獪(こうかい)・老獪」
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
「獪」は「悪賢い」「ずるい」という意味を表します。一方、「老」は「年をとっていること」「経験を積んでいること」を指し、この二つが合わさったことで、「豊かな経験を背景にした、ずる賢さ」という独特の表現が生まれました。
「老獪」が褒め言葉ではない理由
「老獪」は重ねてきた経験に焦点があたる点で「老練」と混同されやすいですが、評価の方向性がまったく異なります。
ろう‐れん〔ラウ‐〕【老練】
[名・形動]多く経験を積んで、物事に慣れ、巧みであること。また、そのさま。老巧。「―な(の)かけひき」「―な(の)船乗り」
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
辞書にある通り、「老練」は経験によって磨かれた技や手腕を表現し、肯定的な意味があります。一方、「老獪」は「悪賢い」という否定的な意味合いを持つため、褒め言葉として使うのは適切ではありません。
例えば、上司を指して「老獪な方ですね」なんて言ってしまうと、皮肉や批判だと受け取られてしまうので、気をつけてください。

「老獪」の使い方を例文を使って紹介
「老獪」は、実際の使い方が難しい言葉です。特に人を評価する場面で使うと、誤解を招くことがあるため注意が必要です。
ここでは、人物描写や会話での適切な使い方を例文を通して確認しましょう。
人物描写での使用例
経験を積んだ人物が、裏で巧みに立ち回る様子を表す場面で、「老獪な政治家」「老獪な交渉術」といった使い方ができます。「したたかで油断ならない人物像」を描写する際には、ピッタリです。
例文:
「彼は老獪な政治家として知られ、周囲を出し抜くような戦略を常に練っている」
「交渉の場で見せる老獪な態度に、若手社員も圧倒されてしまった」
職場や日常での使用例
ビジネスシーンで上司や取引先を評価する際に、「老獪」を使うのは避けた方がいいでしょう。ここでは客観的な評論や、歴史上の人物について語る際の使い方を見てください。
例文:
「かつては純朴だった青年も、今では老獪な経営者と呼ばれるようになった」
「豊臣秀吉は、歳を重ねるごとに老獪な手段を用いるようになった」
「老獪さ」を使った会話表現
「老獪さ」という言葉も、日常会話やSNSで見かけることがあります。これは、人物そのものだけでなく、その行動の巧妙さや抜け目のなさを指す際に使います。
例文:
「彼の老獪さに振り回されてしまったよ」
「交渉の場で彼は老獪さを発揮し、相手に気づかれぬうちに有利な条件を引き出した」
このように「老獪さ」とすることで、人物の全体像よりも「行動のずる賢さ」に焦点が当たります。
「老獪」と似た表現|類語との違い
「老獪」は、経験を積んだ人物のずる賢さを表す言葉です。似た意味を持つ表現が複数あるため、正しく使い分けることが大切です。ここでは代表的な類語と比較しながら整理していきましょう。
「狡猾(こうかつ)」
「狡猾」も、「ずる賢いこと」を意味しますが、「老獪」との大きな違いは、経験の有無にあります。「狡猾」は若者から高齢者まで幅広く使えますが、「老獪」は主に年長者に対して用います。
例文:「出世のために狡猾な手段を使った」
「姑息(こそく)」
「姑息」は、本来「その場しのぎ」を意味する言葉でした。現代では「卑怯なさま」として広く使う表現です。
例文:「姑息な真似はやめて、正々堂々と勝負しよう」
「世間擦れ(せけんずれ)/すれからし」との違い
「世間擦れ/すれからし」は、若者が「世間に揉まれて悪知恵がついた」という意味で使うことが多い言葉です。
・「老獪」… 年配者に対して使う
・「世間擦れ」… 若者に対して使うことが多い
・「すれからし」… 若い娘についていうことが多い
このように、いずれの言葉も「純粋さを失った」という点では共通していますが、対象とする人物像が異なります。似た表現を比較することで、「老獪」が持つ「経験を積んだ年長者のずる賢さ」という言葉の意味が見えてきますね。
誤用を防ぐためにも、それぞれの言葉が持つ違いを意識しておきましょう。
参考:『使い方の分かる 類語例解辞典』(小学館)

「老獪」を英語でどう表現する?
日本語の「老獪」は、ピッタリと当てはまる英単語を見つけるのは難しい言葉です。日本語独特の「長年の経験から培われたずる賢さ」という複雑な意味合いを含む、英語表現を紹介します。
“cunning”
「cunning」は「狡猾さ」と「巧みさ」の両方を含む言葉です。日本語で「カンニング」と言えば試験の不正行為を指しますが、本来は「悪賢い」や「抜け目ない」という意味があり、“cunning as a fox”は、「キツネのように狡猾な」という意味です。
例文
“The seniors took cunning steps to advance.”
(先輩たちは出世のために抜け目ない手を打った。)
参考:『ランダムハウス英和大辞典』(小学館)
「老獪」に関するFAQ
ここでは、「老獪」に関するよくある疑問と回答をまとめました。参考にしてください。
Q1. 「老獪」は褒め言葉ですか?
A. いいえ。
肯定的な意味では使いません。「老獪」は「経験を積んだずる賢さ」を指すため、相手を称える場面には不向きです。「老練」と混同しないよう注意が必要です。
Q2. 「老獪な人」とはどんな人物を指しますか?
A. 油断ならない人物です。
豊かな経験をもとに巧妙に立ち回る人を表します。政治家や交渉人のように、裏で計算高い動きをする姿がイメージされやすい言葉です。
Q3. 「老獪」のNGな使い方は?
A. 目上の人への称賛として使うことです。
最後に
「老獪」とは、年齢や経験を重ねた人物が持つ「ずる賢さ」を表す言葉です。新聞記事や評論ではよく見かけますが、日常会話で安易に使うと、皮肉や批判と受け取られる可能性があります。
経験豊富な人の巧みさや熟練度を肯定的に称えるなら「老練」、批判的なニュアンスを込めてずる賢さを表現するなら「老獪」。文脈に応じて適切な言葉を選ぶことが、知性ある言葉遣いにつながります。
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