盲亀浮木(盲亀の浮木)とは?
盲亀浮木(もうきふぼく)とは、『雑阿含経(ぞうあごんきょう)』や『涅槃経』の中で紹介されているたとえ話に由来するとされる言葉です。
あるとき、お釈迦さまが弟子の阿難に「広い海に1匹の目の不自由な亀が暮らしている。この亀は百年に一度だけ、波の上に浮かび上がってくるのだという。また、海には1本の流木がある。この木の真ん中に1つだけ穴が空いているらしい。亀が浮かび上がったときに、ちょうど流木の穴から顔を出すといったことはあるだろうか」と尋ねました。
阿難は「そんなことはほとんどあり得ないのではないでしょうか」と答えます。お釈迦さまは、「誰もがあり得ないと思うかもしれない。しかし、絶対にないとは断言できないだろう。人間に生まれるということは、目の不自由な亀が百年に一度の息継ぎの際に流木の穴から顔を出すよりも難しく、ありがたいなのだ」と説明しました。
この例え話から、盲亀浮木は、滅多に会えないことや、仏法に出会うことの困難さを表す言葉になったようです。盲亀の浮木(もうきのふぼく)と表現することもあります。
もうき‐の‐ふぼく〔マウキ‐〕【盲亀の浮木】
出典:小学館 デジタル大辞泉
《大海中に住み百年に一度水面に出てくる目の見えない亀が、ようやく浮木に遇あいその穴に入るという「涅槃経」などにある話から》めったに会えないこと。また、仏法に出会うことが困難であることのたとえ。

盲亀浮木の使い方
盲亀浮木は、次のように使います。
・「ナイル川クルーズで隣の部屋がハリウッドスターだったの」「それは盲亀浮木だね!」
・この広い世の中であなたに会えたことは、まさしく盲亀の浮木だと思う
・電車に乗ったら憧れの人がいた。車通勤と聞いたことがあるから、盲亀浮木だわ
盲亀浮木のたとえと「ありがとう」
感謝するときやお礼をいうときに使う「ありがとう」は、「ありがたい(有難い)」の連用形です。有難いとは、人の好意などに対して「滅多にないこと」と感謝することや、二つとないくらいに尊いこと、滅多にないことを意味します。
盲亀浮木も、滅多に会えないことを意味する言葉です。人との出会いや人から受けた親切、思いやりのある言葉などに対して、いつでも「ありがとう」という気持ちを持つことが大切といえるでしょう。
盲亀浮木と類似する意味の表現を例文でチェック
盲亀浮木と同じく、「滅多にないこと」や「ありがたいこと」を指す言葉は多数あります。その中には仏教由来の言葉も少なくありません。盲亀浮木と類似する言葉の意味や使い方を、例文を通して紹介します。

千載一遇(せんざいいちぐう)
千載一遇(せんざいいちぐう)とは、千年に一度しか巡り会えないほどまれな機会のことです。
・明日の発表会には芸能事務所のスカウトも来るらしい。プロを目指す私たちにとっては、千載一遇のチャンスといえるだろう
・ここで君に会えるとは! まさに千載一遇だね
・社内コンペで、我がチームのアイデアが社長の目に留まるという千載一遇の機会を得た
千載の「載」とは年を意味します。「載」と「歳」を置き換えて、「千歳一遇」と表記することもあります。また、「千載一会(せんざいいっかい)」も同様の意味で使われる言葉です。
空前絶後(くうぜんぜつご)
空前絶後(くうぜんぜつご)とは、過去にも例がなく、将来もあり得ないと思われることを意味する言葉です。極めて珍しいことを表現するときに使われます。
・新発売のチョコレートを100万個、サンプリングする計画を立てた。空前絶後の規模のプロモーションになるはずだ
・彼女の空前絶後の優れた才能は、バレエ界に大きなインパクトを与えた
・「空前絶後のおいしさ」というキャッチコピーを考えたけど、君はどう思う?
類似する言葉に、「曠前空後(こうぜんくうご)」があります。「曠」とは大変広くて何もないという意味で、これまでにも何もなかったが、今後も何もないという意味で使われます。
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未曾有(みぞう)
未曾有(みぞう)とは、「未(いま)だ曽(かつ)て有らず」の意味で、今までに一度もなかったことや極めて珍しいことを表現する言葉です。
・彼が笑顔で人と話しているなんて…。未曽有の出来事に理解が追いつきません
・経営不振により、未曽有の規模のリストラが敢行されたらしい
未曾有も盲亀浮木と同じく、仏教由来の言葉です。仏教が中国に伝わったとき、三蔵法師は「稀有なこと」を意味するサンスクリット語を「未曾有」と翻訳したとか。
そのため、本来は仏教において珍しいことを指す言葉ですが、現代では仏教以外の稀有なことにおいても使用されます。
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一世一代(いっせいちだい)
一世一代(いっせいちだい)とは、一生に一度だけであること、またとないことを指します。
・こんな華やかなパーティーに出席できるのは、一世一代の機会だ
・皆さまの前でご挨拶できるなんて、一世一代の晴れ舞台だと思っております
・国宝の寺院の天井画を任された。一世一代の大仕事だ
特に、一生に一度の晴れがましいことに対して使われる傾向にあります。
またとない
またとないとは、二度と同じことは起こらないだろうという意味で使われます。同じようなものが、他にないときにも使われる言葉です。
・社長が直接教えてくれるなんて、またとない機会だよ
・こんなに状態のよいレコードが入荷するのは、またとないことです
・彼は、またとない人材です
仏教由来の言葉の意味を確認しておこう
日本語には、仏教由来の言葉が多数あります。由来や語源を理解しておくと、より深く意味がわかり、適切なシチュエーションで使えるようになります。盲亀浮木や未曾有も含め、意味と由来を確認しておきましょう。
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