「牛に引かれて善光寺参り」というフレーズを聞いたことはありますか? なんとなく牧歌的な感じがしますが、どのような意味を持つのでしょうか。本記事では、「牛に引かれて善光寺参り」の意味や語源、適切な使い方について解説していきます。
「牛に引かれて善光寺参り」とは? 意味や語源をわかりやすく解説
まずは「牛に引かれて善光寺参り」の意味を確認していきましょう。
「牛に引かれて善光寺参り」の意味とは?
「牛に引かれて善光寺参り」は、辞書で以下のように説明されています。
牛(うし)にひかれて善光寺(ぜんこうじ)参(まい)り
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
《信心のない老婆が、さらしていた布を角にかけて走っていく牛を追いかけ、ついに善光寺に至り、のち厚く信仰したという話から》思ってもいなかったことや他人の誘いによって、よいほうに導かれることのたとえ。
「牛に引かれて善光寺参り」は、「意図せず、いい結果へと導かれること」を指します。例えば、偶然参加したイベントで貴重な経験をしたり、期待していなかったことがいい方向へ進んだりするような場面で使われますよ。
単なる偶然ではなく、その出来事が自分にとって価値のあるものになることを表現する言葉です。

「牛に引かれて善光寺参り」の語源は?
このことわざのルーツは、中国の仏教説話にあるとされています。『今昔物語集』(巻七・三)には、中国の話として、仏教に関心のなかった老婆が家の前に現れた牛を追いかけるうちに寺の門をくぐり、偶然にも般若経を耳にして仏縁を得るという逸話が伝わっていますよ。この話の出典は『三宝感応要略録』(巻中・四八)で、類似の話が『三国伝記』(巻三・一四)にも見られます。
牛が仏縁の契機となる背景には、仏教発祥の地であるインドにおいて、牛が神聖視されていることが関係していると考えられます。
ことわざとしては、仏教に限らず、偶然の出来事がきっかけとなって思いがけず、いい結果につながるという意味で、日常のさまざまな場面で使われていますよ。
参考:『故事俗信ことわざ大辞典』(小学館)
「牛に引かれて善光寺参り」の英語表現は?
「牛に引かれて善光寺参り」を英語表現するなら、“be led into doing good by chance”が使えますよ。
「牛に引かれて善光寺参り」の使い方と具体的な例文
「牛に引かれて善光寺参り」は、予期せぬ出来事によって、いい方向へ導かれたときに使うと、その状況をより印象的に伝えることができます。日常やビジネスシーンでも活用できますよ。
「最初は気が進まなかったけれど、牛に引かれて善光寺参りで料理の魅力に気づいた」
新しいことに挑戦する際、最初は乗り気でなくても、実際にやってみると想像以上に楽しめることがありますね。この例では、料理に興味がなかった人が、偶然の機会をきっかけに料理の魅力を発見し、楽しむようになった様子を表しています。
最初の消極的な気持ちと、その後の変化を強調する際に、このことわざが適していますよ。

「もともとは別の部署を希望していたが、今ではこの仕事にやりがいを感じている。まさに牛に引かれて善光寺参りだ」
仕事において、希望していた部署や職種とは違ったものの、結果的に新たなやりがいを見つけるケースがありますね。この例では、意図せず経験した異動がプラスに働き、自分に合った仕事へとつながった状況を表現しています。
予想外の展開が成功につながった場合に、このことわざを使うことで、状況の変化を的確に伝えることができるでしょう。
「友人の勧めで始めた習い事がきっかけで、仕事のスキルアップにつながった。牛に引かれて善光寺参りとはこのことだ」
思いがけないきっかけが、仕事やキャリアの向上につながることもあります。この例では、趣味として始めた習い事が結果的に仕事のスキル向上につながったことを示していますよ。
「牛に引かれて善光寺参り」の類語や言い換え表現
「牛に引かれて善光寺参り」には、同じような意味を持つ表現がいくつかあります。早速、紹介していきましょう。

怪我の功名(けがのこうみょう)
「怪我の功名」は、過失や災難が思わぬいい結果につながることを意味します。例えば、仕事でミスをしたことで新たな視点を得られ、業務改善につながったというような状況を表すのに適していますよ。
棚から牡丹餅(たなからぼたもち)
「棚から牡丹餅」は、自分が何もせずとも、思いがけず幸運が転がり込んでくることを意味します。「牛に引かれて善光寺参り」と異なり、意識的な行動は含まれず、偶然の幸運を指す点が特徴です。
僥倖(ぎょうこう)
「僥倖」は、思いがけない幸運を意味する言葉です。ビジネスシーンや文章表現では、「あの出来事は、まさに僥倖だった」といった形で使われることが多く、ややフォーマルな印象がありますね。
最後に
「牛に引かれて善光寺参り」は、偶然の出来事がいい結果につながることを表すことわざです。偶然が新しい道を開くことは少なくありません。このことわざを知っておくと、そうした出来事を前向きにとらえるヒントになるかもしれませんね。
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