目次Contents
「生者必滅(しょうじゃひつめつ)」という言葉を目にすると、少々難しく感じますよね。けれど、そこには静かで普遍的な考え方が込められています。
この記事では、「生者必滅」の意味や背景、「会者定離(えしゃじょうり)」とのつながり、使い方までをわかりやすく説明していきます。
「生者必滅」とは? 言葉の意味と無常観に触れる
「生者必滅」は、古くから仏教の考え方を表す言葉として使われてきました。表現としては難しそうでも、意味をたどっていくと、ごく自然な感覚につながっていることに気づきますよ。

「生者必滅」の意味
「生者必滅」は、「しょうじゃひつめつ」と読みます。辞書で意味を確認しましょう。
しょうじゃ‐ひつめつ〔シヤウジヤ‐〕【生者必滅】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
無常なこの世では、生命あるものは必ず死ぬときが来るということ。「―、会者定離(えしゃじょうり)」
「生者必滅」とは、「生きとし生けるものは、やがて必ず命を終える」という意味を持ちます。命あるものはすべて滅ぶという、自然の理(ことわり)を表しているのです。
ところで、時折「勝者必滅」という表記が見受けられますが、こちらは誤表記だと考えられます。正確には「生者必滅」ですので、覚えておきたいですね。
「生者必滅」の由来は?
「生者必滅」という言葉は、『大般涅槃経(だいはつねはんぎょう)』という仏教経典の一節に由来しています。
寿命品(じゅみょうぼん)にある、「一切諸世間(いっさいしょせけん)、生者皆帰死(しょうじゃかいきし)、寿命雖無量(じゅみょうすいむりょう) 、要必当有尽(ようひつうじん)《いかなる世の中でも、生きているものは必ず死を迎える。命は本来限りがないように見えても、この現実の世界では必ず終わりがある》」という教えが、その背景にあります。
人生の無常を説く仏教の根本的な考え方が、この言葉に込められているのです。
参考:『日本大百科全書』(小学館)
「生者必滅会者定離」とは?|合わせて使われる理由
「生者必滅」は「会者定離(えしゃじょうり)」とともに使われることが多い表現です。両者を並べて見ると、人生の一場面に寄り添うような深みが感じられます。

「会者定離」の意味、そして「生者必滅会者定離」とは?
「会者定離」は、「会う者は必ず離れる運命にある」という意味です。人生の無常を表す言葉だといえるでしょう。
したがって、「生者必滅会者定離」とは、「命あるものは必ず死に、会う者とは必ず別れる」という意味を持ちます。この言葉は、『涅槃経(ねはんぎょう、原始仏教の経典のこと)』の言葉です。
参考:『例文 仏教語大辞典』(小学館)
『平家物語』との関係
「生者必滅、会者定離」の言葉は、『平家物語』十・維盛入水にも以下のように出てきます。
「生者必滅、会者定離はうき世の習ひにて候ふ也」
無常の響きを持って始まる『平家物語』のなかで、栄華や命のはかなさを象徴する言葉として位置づけられています。
参考:『故事俗信ことわざ大辞典』(小学館)
「生者必滅」の使い方を例文で確かめる
この言葉は、弔辞やお別れのあいさつの中で見かけることもあります。ただ、使い方によっては堅くなりすぎることもあるため、文脈に合わせた使い方が大切です。
「祖母の死にふれ、“生者必滅”という言葉が心に残った」
この表現では、命あるものの終わりに直面したときに自然と思い出された言葉として使われています。
「別れの場面で、生者必滅会者定離と語られたことがあった」
人生の節目での別れに対して、静かにその意味を受けとめようとする場面で使われています。

「生者必滅」と「盛者必衰」の違いは?
「生者必滅」と似た響きを持つ言葉に、「盛者必衰(じょうしゃひっすい)」があります。どちらも『平家物語』に登場し、無常を表す四字熟語として知られていますが、意味にははっきりとした違いがあります。
まずは、「盛者必衰」の意味を辞書で確認しておきましょう。
じょうしゃ‐ひっすい〔ジヤウシヤ‐〕【盛者必衰】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
無常なこの世では、栄花を極めている者も必ず衰えるときがあるということ。しょうじゃひっすい。
「娑羅双樹(しゃらさうじゅ)の花の色、―のことはりを表す」〈平家・一〉
「盛者必衰」とは、栄えている者もいつかは必ず衰えるということを意味します。社会的な地位や名声、繁栄のように外から見える“盛り”が、永遠には続かないという考え方です。
一方、「生者必滅」は、生きているものはすべていつか命を終えるという意味であり、より根源的な生命のはかなさを表しています。
「盛者必衰」が人や組織の“状態”に注目するのに対し、「生者必滅」は“存在そのもの”の行く末を見つめる表現だといえるでしょう。
「生者必滅」の英語表現は?
「生者必滅」の英語表現には、“All that live must die.”が適しているでしょう。
最後に
「生者必滅」の意味を知ったうえで触れると、表面的な重さだけでなく、そこにある余白にも気づけるような気がします。人生の折々に、そっと思い出せる言葉として、心にとどめておくのもいいのかもしれませんね。
TOP画像/(c) Adobe Stock