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「白河夜船(しらかわよふね)」という言葉を聞いたことはありますか? わからないのに「知っている!」という人に使う言葉です。この記事では、意味や由来に加え、小説や映画での登場シーンについても紹介していきます。
「白河夜船」とは? 意味と読み方を解説
「白河夜船」の背景には興味深い由来があります。まずは、意味と由来から見ていきましょう。

「白河夜船」の読み方と意味
「白河夜船」は「しらかわよふね」または「しらかわよぶね」と読みます。辞書で意味を確認しましょう。
しらかわ‐よふね〔しらかは‐〕【白川夜船/白河夜船】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
《京都を見てきたふりをする者が、京の白河のことを聞かれて、川の名だと思い、夜、船で通ったから知らないと答えたという話によるという》
1 熟睡していて何も知らないこと。何も気がつかないほどよく寝入っているさま。
「こんなにきれいなけしきを―で通っちゃ損だからね」〈長与・竹沢先生と云ふ人〉
2 知ったかぶり。
「白河夜船」とは、「熟睡していて何が起こったか知らないことのたとえ」や「知ったかぶり」を意味することわざです。「白川夜船」と書くこともあります。
「白河夜船」の語源は?
「白河夜船」という言葉には、ある逸話に基づく由来があります。
京都の地名「白河」について尋ねられた人物が、それを川の名前と勘違いし、「夜に船で通ったから知らない」と答えたことが始まりとされています。
この発言から、その人が本当は京都を訪れたことがなかったと見抜かれたという話に基づくことわざです。なんだか今もありそうなエピソードで共感するところがありますね。
参考:『日本大百科全書』(小学館)
「白河夜船」の使い方を具体的な例文とともに紹介
「白河夜船」という言葉は、文学的な響きがある一方で、日常の会話でも応用できます。ここでは、具体的な使い方を紹介しましょう。
「授業中、白河夜船で過ごしていた彼が、突然当てられて焦っていた」
授業中に熟睡していたため、内容をまったく把握していなかった様子を表す表現です。
「彼はその話題について専門家のように話していたけれど、実は白河夜船だったらしい」
「知ったかぶり」の意味での用例です。一見詳しそうに見える態度だったが、実際には何も知らなかったことを指摘する言い回しです。
小説・映画で見る、「白河夜船」
文学や映画に登場すると、言葉に込められたイメージが一層引き立ちます。
『白河夜船』(吉川ばなな・著)のあらすじと世界観
『白河夜船』は、吉本ばななさんによる短編小説であり、同名を冠した短編集の表題作でもあります。初出は1988年、『海燕』誌12月号に掲載され、翌1989年に単行本として刊行されました。
あらすじとしては、植物状態の妻を持つ恋人と関係を続ける中で、主人公は最愛の親友・しおりの死を迎えます。深くなる眠りのなかで、満たされない孤独や喪失の感覚が、次第に心と身体を侵していきます。
その静かで重たい「夜」の感覚を通して、生きて愛することのせつなさと歓びを描いた一作です。
参考:『デジタル大辞泉』(小学館)

映画版『白河夜船』の印象的な描写
2015年には安藤サクラさん主演で映画化もされました。映画では静かな空気感の中に、内面の揺れが丁寧に描かれています。言葉としての「白河夜船」以上に、その空気を肌で感じられるような作品です。
「白河夜船」に似た表現も確認
言葉の意味を深く理解するためには、類語や言い換え表現にも目を向けてみることが大切です。ここでは、「白河夜船」に近い意味を持つ言葉をいくつか紹介します。
熟睡(じゅくすい)
眠りが深く、ぐっすりと眠っている状態を表します。「白河夜船」の第一の意味と近く、周囲のことにまったく気づかないほど眠っているときにも使われます。

昏睡(こんすい)
意識がなく、ぐっすり眠っているような状態を指します。日常会話ではあまり使われませんが、「深い眠り」という点で通じる部分があります。
知ったかぶり
本当はよく知らないのに、さも知っているかのように振る舞うことをいいます。「白河夜船」のもうひとつの意味である「知ったかぶり」と一致します。俗に「知ったか」ともいいますよ。
英語で「白河夜船」はどう表す?
「白河夜船」は日本独特の表現ですが、意味に応じて英語で近いニュアンスを伝えることもできます。熟睡を意味する場合と、知ったかぶりを意味する場合で、使い分けが必要です。
“be fast asleep”
ぐっすり眠っている様子を表す表現です。
例文:She was fast asleep and didn’t hear a thing.
(彼女はぐっすり眠っていて、何も聞こえていなかった。)
“know-it-all”
何でも知っているふりをする人、いわゆる「知ったかぶり」を指す表現です。
例文:He always acts like a know-it-all, even when he has no clue.
(彼はよく知らないのに、いつも知ったかぶりをしている。)
最後に
ふとした場面で「白河夜船」と口にしてみると、思いがけずその場の空気をやわらげることもあるかもしれません。言葉の背景を知っていると、少しだけ深みのある会話ができるような気がしてきますね。
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