「塗炭の苦しみ」という言葉を聞いて、すぐに意味が分かる人は少ないでしょう。この表現は、ニュースや歴史書などでよく使われています。意味や語源、使い方を理解すれば、言葉の引き出しが広がりますよ。職場での会話でも知的な印象を与えられる表現ですので、ぜひ覚えてみてください。
「塗炭の苦しみ」とは? 意味と由来を解説
「塗炭の苦しみ」の読み方は「とたんのくるしみ」です。まずは、辞書の記述をもとに、その意味を確認してみましょう。

塗炭の苦しみが表す意味
塗炭(とたん)の苦(くる)しみ
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
泥や火の中にいるような、ひどい苦しみ。「―をなめる」
「塗炭の苦しみ」は、泥にまみれたり、焼けた炭に触れたりするような、どうにも逃れがたい過酷な状態をたとえています。金銭的な困難、社会的な混乱、あるいは精神的な苦悩など、すぐには解決できない苦しさに直面したときに使われることが多い言葉です。
ただ苦しいだけでなく、「身動きが取れないほどの苦しさ」である点が、言葉のニュアンスを形づくっています。
「塗炭」の由来
「塗炭(とたん)」という言葉は、それぞれ「塗(泥)」と「炭(火)」を意味しています。どちらも、人の身体や心を覆って焼き尽くすものとして、古くから苦しみや不浄の象徴として用いられてきました。
「泥にまみれ、火に焼かれる」そうした極限の状態を指す表現は、「塗炭の地獄」といった形で文学や歴史的記述にも見られます。また、古くは「非常にけがれた状態」や「どうにもならないほど惨めな様子」を示す際にも使われていたようです。
現代においてはあまり日常的に耳にする表現ではありませんが、その意味の奥にある「自力では抜け出せない苦しさ」や「深い絶望感」といった感覚は、今の時代のなかでも思いがけず共感を呼ぶものかもしれません。

「塗炭の苦しみ」の具体的な例文を紹介
「塗炭の苦しみ」は重々しい印象の言葉です。そのため、主に報道や文章の中で用いられます。具体的な例文を見てみましょう。
「長引く不況で、多くの人々が塗炭の苦しみを味わっている」
この例では、不況による生活困窮と先行きの見えない苦しみを強調して使われています。社会的な問題がもたらす深刻な状況を表現するのに適していますね。
「家族との長い確執が続き、彼女は心の中で塗炭の苦しみを味わっていた」
家族との対立や不和は深い精神的な痛みをもたらします。例文のように、逃げ場のない感情的な苦しみを表現する際にも使うことができます。
このように、社会的な場面でも、個人的な出来事にも使えますが、いずれにせよ、少し深刻なニュアンスを含みます。相手への共感や配慮を大切にしたい場合には、より穏やかな表現を選ぶことも検討しましょう。

塗炭の苦しみの類語や言い換え表現は?
苦境を表す「塗炭の苦しみ」に近い意味をもつ言葉としては、「艱難辛苦(かんなんしんく)」が挙げられます。
「艱難辛苦」も、「塗炭の苦しみ」と同様に絶望的で重い印象を与える表現で、困難に直面しながら耐え忍ぶ様子を表します。意味は以下の通りです。
かんなん‐しんく【×艱難辛苦】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
人生でぶつかる困難や苦労。「―を乗り越えて成功する」
ですが、「塗炭」と比べて「艱難」は現代でも広く使われ、「艱難(かんなん)汝(なんじ)を玉(たま)にす」という格言にも使われていますよ。
艱難(かんなん)汝(なんじ)を玉(たま)にす
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
人間は苦労・困難を乗り越えることによってりっぱな人物になる。
「艱難汝を玉にす」は、「人は多くの困難を経て、始めて人格を向上することができる」という意味で、逆境に立ち向かう人々を励ます際に使われます。
最後に
「塗炭の苦しみ」は、古風な言い回しで深刻な状況を表現する際に効果的な言葉です。日常会話では使用頻度が少ないですが、社会問題を論じる報道記事や、個人的な苦悩を描写する文章などでは価値を発揮します。意味や使い方を正しく理解することで、表現力が豊かになるでしょう。
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