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「人形供養」とは?
人形供養とは、文字通り「人形を供養すること」で、僧侶によって祈祷や読経が行われた後に焚き上げるのが一般的です。供養といえば亡くなった方に対してご冥福を祈ることをいいますが、人形は生き物ではないので不思議に思う方もいるかもしれません。
まず、人形を供養するようになった歴史や現代にも根付いている風習をチェックしていきましょう。
人形を供養する意義
どうして供養を行うのか、それは人形を供養するようになった歴史を知ると理解できるかもしれません。昔は、我が子を健康に一人前の大人に育てることは、非常に困難とされていました。現代のように医療や情報網が発達しておらず、子供は病にかかるとほとんどの場合、亡くなってしまうことが多かったのです。
そのような中、親たちは我が子に健康に育ってほしい一心で、土や布、木などを用いて子供を模した人形を作りました。そしてその人形に、子供に降りかかるすべての災いを代わりにかぶってもらおうと願掛けをしたのです。
現代でもその風習が残っている
世界中の多くの地域で、このような風習が残っているとされています。日本では平安・鎌倉時代から行われていた「流し雛」や「雛流し」といわれる行事で、そうした風習が根付いていたことを知ることができるでしょう。これは、災いをかぶって役目を終えた雛人形を川に流す行事です。
この行事は、現代にまで伝えられている人形供養に通じるところがあります。大事な役目を果たしてくれた人形に感謝し、安らかにお眠りくださいとの想いを込めて行うのが、人形供養です。
そもそも「供養」とは?
供養とは仏教用語の一つで、故人やご先祖様、仏様に対してお供物を捧げて祈ることをいいます。特に故人に対しては「あの世で安らかに過ごせますように」と祈ります。
現代では、供養というと仏教的な意味合いと共に、感謝の気持ちも含まれるようになっているようです。そして供養を行うと自分自身の「功徳(くどく)」にもなるといわれています。功徳とは、自身の現世と来世に幸福をもたらすもとになる善行になるという意味です。
人形供養においても同じことです。「これまで一緒にいてくれてありがとう」という感謝の気持ちと共に、「安らかにお眠りください」と冥福を祈ります。特に幼い頃から共に過ごしてきた人形は特別なもの。とてもゴミとして捨てられないとの想いから、感謝の気持ちを込めて神社やお寺などに供養に出す方が多くいるのです。
「人形供養祭」とはどんなもの?
メモリアルアートの大野屋では、10年以上にわたって「人形供養祭」を開催。「思い出はあるけれど、どのように処分したらよいかわからない」というお悩みにお応えし、雛人形やぬいぐるみ、写真などに感謝と労(ねぎら)いを告げる機会をご提供しています。
事前に、数百人もの方々が思い出の人形や写真を持ち込まれ、当日は数十人の方々の参列のもと、僧侶による法要を執り行います。そうして祭壇に並べられた数千から数万点もの人形や写真が供養されます。
推し活の代表アイテム〝ぬい〟を集めた「ぬい供養祭」も
また2024年3月には、昨今盛り上がりを見せる「推し活」に注目し、推し活の代表アイテムである〝ぬい〟を集めた供養祭「ぬい供養祭」を実施。集まった700体前後のぬいぐるみや人形を、奈良薬師寺の僧侶が法要を行いました。
人形供養祭でのエピソード
私は長年、人形供養祭の開催に関わってきましたが、振り返るとさまざまな素敵なエピソードがありました。その一例を紹介します。
たとえば、亡くなったお母さんの手作り人形を持ち込まれたおばあさんがいました。それは、江戸時代から伝わる木目込み(きめこみ)人形。木に切り込みを入れて布の端を押し込み、衣装を着ているように仕立てた人形です。そのおばあさんは、自分はもう歳だからいつどうなるかわからない、だから元気なうちに「長い間ありがとうございました」との想いを込めて、供養祭に持って来られたそうです。
また法要に参列される方々は、自分が持ち込んだ人形が祭壇に並べられているのをしげしげと眺め、僧侶がお経をあげている最中にも手を合わせて、一生懸命祈っておられます。そのような姿を傍から見ていると、非常に心打たれるものがありました。
供養が終わった後は、感謝の気持ちと、安らかにあの世にいった人形に対するすがすがしい気持ちが混じったような、素敵な笑顔で会場を出てこられます。その笑顔から、まさに「供養はあなた自身の功徳になる」のだと、実感した記憶もあります。
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今の時代、引っ越しや大掃除、子供の進学や成長などのタイミングで、ぬいぐるみや雛人形などを処分することは、一般化しています。けれど、いまだに人形を大事にして、感謝の気持ちで成仏を祈るという方も多くいます。
もし、あなたに大切な人形を手放すタイミングが来たなら、ただ廃棄するのではなく、「供養」という選択肢も一つに加えてみてはいかがでしょうか。人形が大切に供養されると同時に、あなた自身も豊かになることでしょう。
TOP画像/(c)Adobe Stock
メモリアルアートの大野屋 終活・仏事アドバイザー 川島敦郎
1956年東京都出身。大学卒業後ブライダル会社に勤務。企画やプランナー育成に携わり、業界資格の試験官も務めたエキスパート。ブライダルの世界から2005年にメモリアルアートの大野屋に入社。葬儀ディレクター、生前相談アドバイザー、セミナー講師としても活躍し、現在「大野屋テレホンセンター」で仏事アドバイザーとして年間5000件以上の相談に答える。
大野屋テレホンセンター著「もう悩まない! 葬儀仏事お墓ズバリ! 解決アンサー」(二見書房)、監修「小さな葬儀とお墓選び・墓じまい」(自由国民社)
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