「背水の陣」の意味
「背水の陣」は、困難な状況において戦うことを指す言葉です。敵に包囲され、逃げる道がないなかで、勝利を掴む覚悟と決意を表現しています。この戦術は戦国時代の中国で始まり、現代においてもビジネスやスポーツの世界で用いられる概念として広く認知されているものです。
本章では「背水の陣」における、言葉の意味や例文、言葉の由来を解説します。
「背水の陣」の意味
「背水(はいすい)の陣(じん)」とは、直訳すると「背後に水がある、追い詰められた陣形」という意味です。
この言葉は、逃げ場のない状況に置かれたシーンで破竹の勢いを見せることを表します。現代でも、ビジネスやスポーツなどのさまざまな場面で使われる言葉です。限界状況にあるときに最後の力を振り絞り、勝利を掴む意志や決断力を表現する言葉としても用いられます。
また危機的状況においては、追い詰められた立場であっても、諦めることなく全力で立ち向かう姿勢を称える際にも使われる言葉です。
背水の陣
出典:小学館 デジタル大辞泉
《「史記」淮陰侯伝の、漢の名将韓信が趙ちょうの軍と戦ったときに、わざと川を背にして陣をとり、味方に退却できないという決死の覚悟をさせ、敵を破ったという故事から》一歩もひけないような絶体絶命の状況の中で、全力を尽くすことのたとえ。
「背水の陣」の例文
「背水の陣」を使った例文は以下の通りです。
1. 経営者は会社が激しい競争に直面している。「背水の陣」を張って新商品の開発とマーケティング戦略の改革に取り組もう
2. チームは試合の最後の数分で得点差をひっくり返すために、「背水の陣」を敷いて、相手チームに猛攻を仕掛けた
3. 政治家は選挙戦の最終局面で不利な状況に直面し「背水の陣」を張って、地道な街頭演説やメディア戦略を展開して支持を取り戻した
「背水の陣」の由来は中国
「背水の陣」という言葉は、漢の韓信が困難な状況に直面しながらも、諦めずに勝利を収めたエピソードに由来しているとされます。
韓信は漢と趙の戦いにおいて、川を背にして陣営を築きました。彼は強い決意を持って戦いに臨み、その結果、厳しい状況下でも勝利を掴み取ったという話がこの言葉の由来となっているようです。
「背水の陣」の対義語
一歩も引けない状況という「背水の陣」の対照表現として挙げられるのは「余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)」です。「余裕綽々」とは、物事をおこなう際に、余裕や余力が十分にある状態を表します。
たとえば仕事や学業、プロジェクトなどで「余裕綽々」な状態にあると、予定通りに進められるだけでなく、思考や判断にも余裕が生まれ、創造性や効率性が向上します。またストレスが少ないため、心身の健康によい影響を与えることがあります。
一方で「余裕綽々」な状態にあると、油断や怠慢につながるおそれもあるでしょう。そのため、適度な緊張感や責任感を持ちながら、効率的に作業を進めるのがベターともいえるかもしれません。
「背水の陣」の類義語・言い換え表現4つ
一歩もひけないような危機的状況、という点に着目すると、「絶体絶命」「前門の虎後門の狼」「死中に活を求める」などが言い換え表現としてあげられます。本章では、上記を含めた「背水の陣」の類義語・言い換え表現を4つ紹介します。
1. 絶体絶命
「絶体絶命」とは、避けられない危機に立たされた状況を示す言葉です。通常の日常生活においても、仕事の締め切りに追われたり、資格試験の勉強に追い詰められたりするシーンで用いられます。
「背水の陣」という言葉も同様の状況を指しますが、心理的な状態までは含みません。危機的な状況下で最善を尽くすという意味合いで用いる場合は、「背水の陣」がより適しているといえるでしょう。
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2. 前門の虎後門の狼
「前門の虎後門の狼」という言葉は、その表現からも状況が容易に想像できることわざです。片方の危機を切り抜けても、すぐさまもう片方の危機が待ち受けている状況を指します。
この表現は「背水の陣」と同様に、困難な状況を表現する際に用いられます。ただし「背水の陣」とは異なり、その状況で最善を尽くすという意味は含まれていない点に留意しましょう。
3. 死中に活を求める
「死中に活を求める」とは、絶望的な状況下で生き延びる方法を模索する状況を指します。過酷な状況下でも最大限の努力をするという意味で「背水の陣」と似ているでしょう。
この表現はビジネスシーンでも頻繁に使われます。たとえば、「死中に活を求め、代替案を提案した結果、合意が得られた」といったように、厳しい状況下での打開策を探る場面で応用される表現です。
4. 進退窮まる
「進退窮まる」は「しんたいきわまる」と読みます。物事や立場が行き詰まった状況に用いられる言葉です。追い詰められて、進むことも退くこともできない状態を指します。どちらにも進めず、行き場のない葛藤状態そのものを表現することが一般的です。
「背水の陣」を正確に使いこなそう
「背水の陣」は、困難な状況に直面しても決して諦めず、最後の一戦で逆転のチャンスを掴もうとする意志の象徴です。歴史や現代社会においてこの精神を持つことは、成功に必要であるとされています。困難な状況に直面したときこそ背水の陣を張り、逆境を乗り越えるために持ち前の力を発揮したいものですね。
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