俳優・横浜流星さんインタビュー

横浜流星(よこはま・りゅうせい)
1996年生まれ、神奈川県出身。2011年俳優デビュー。2019年公開の映画『愛唄-約束のナクヒト-』『いなくなれ、群青』『チア男子!!』で日本アカデミー賞新人俳優賞、2022年公開の映画『流浪の月』で同賞優秀助演男優賞、2024年公開の映画『正体』で同賞最優秀主演男優賞受賞。現在、NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)~』で主人公・蔦屋重三郎を演じている。
納得いかずに撮り直しを申し出たこともありました
「一作一作、すべてが代表作と言えるように」これは、横浜さんがたびたび口にするフレーズだが、だれが見ても真の「代表作」となり、後々に残るであろう一作が、最新出演映画『国宝』である。横浜さんは上方歌舞伎の名門に生まれた御曹司・俊介を演じた。と同時に、代表作をつくるということは、これほどまでに孤独と苦しみを伴うものなのかと、痛感し続けた時間でもあった。
「本物の歌舞伎役者になれ。李 相日監督からそう言われ、約1年の練習期間を経て死に物狂いで臨みました。とはいえ、芝居に正解はないし、ヒントだけを与えて答えは自分で探せというのが監督のやり方です。本番の3か月間は、暗い闇の中に立たされ、光を必死に探すような、孤独な作業の連続。たぎる思いを抱えながら『感情を隠せ』とも言われました。俊介は、表面的には自分に甘く弱い人間です。それでいて、歌舞伎役者・喜久雄の前では葛藤や劣等感、心の揺れを隠したりもする。自分自身と正反対の人物であることも、難しさがありました。
また、納得がいかないので撮り直したいと申し出たことも。こうしたプロセスは、いつも律して自分の中に眠っているものを目覚めさせ、解放していく感覚でした」

この経験を経て、つらさ・難しさの向こう側にある「芝居こそ、人生を捧げるに値するもの」という思いを再確認するようになった。果たして、映画『国宝』での歌舞伎シーンは、美しいだけでなく鬼気迫る仕上がりに。まさに「人生を捧げた」成果がそこにはある。
普通の日常を感じることこそ肥やしとなるはずなのに
「僕のやり方は、先に答えが見えなくても、きっと光が差すだろうと信じて進む。子供のころから取り組んでいた空手で、自分を律することを身をもって学んだし、あれほどきつい経験はないと思えるから。だからか、感情をむき出しにする場面は、難しいと感じたりもします。けれど、難しく険しい道ほど、そして暗闇が長いほど、やりがいを感じるもの。何が正解かわからなくても、自分なりの正解を見つけていくのが、この仕事だと思っています。
でも、これはあくまでも僕のやり方。光の探し方は人それぞれでいいと思うんです。一度立ち止まって自分と向き合うのもいいし、違う方法を何度も試したり、失敗しながら道を見つけるという方法もある」

自分なりの闘い方をいつしか身につけた横浜さんだが、その陰で犠牲にしているものがあることにも、気づいている。
「〝普通の〟日常生活を送れないのは、仕方ないのかな。気軽に買い物を楽しんだり、春なら花見、夏なら海水浴を…やりたくても、今そんなことをしていていいのか、と避けてしまう自分がいます。本当は、普通の日常を感じることこそ演技の肥やしとなるはずですし、〝普通〟がわからない人間に、普通の人物の役を〝生きる〟ことはできないのに」
横浜さんが、〝演じる〟ことを 〝生きる〟と表現することは、よく知られていて、まさにすべてを演技に捧げている証でもある。映画『国宝』では、芸の道を究めることにすべてを捧げ、ほかのことを犠牲にすることを、「悪魔と取引する」と表現している。

「ということは僕も、悪魔と取引しているということになるのかな。来年はいよいよ30歳。(共演の)渡辺 謙さんみたいに遊び心のある大人に憧れるけど、なれるかどうか。でも、こうして悪魔と取引したぶん、芝居を通して自分も人も、心が動く瞬間を生み出せたら、何にも代えられない〝幸せ〟です。集中すると周りが見えなくなってしまう自分は、この生き方しかできないのだと思います。ただ、入り込みすぎて、周囲とのコミュニケーションさえもできなくなることがあるのは、なんとかしていかないと」
と話した直後、思い出したように「そうそう、ほかにも幸せな瞬間があった!」と横浜さん。
「格闘技の番組を観ているとき! 勝手に体が動いて、駆け引きにのめり込んで。格闘技には勝ち負けがあって、その残酷さもたまりません。それに、格闘技と歌舞伎は、真逆のように見えて、物事を追究することにおいて実は同じ。どちらも、本番までに積み重ねてきたものが舞台に表れ、どちらも儚く、そして美しい」
仕事を離れているつもりでも、やっぱり仕事と結びつけてしまうのは、体に染み込んだ習性。「やっぱり、芝居以外は何もいらないんです」そう改めて嚙み締めるように締め括った。
横浜流星出演映画『国宝』

©2025映画「国宝」製作委員会
任俠の一門に生まれた喜久雄(吉沢 亮)は15歳のときに抗争で父を亡くし、天涯孤独の身に。喜久雄の才能を見抜いた上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎(渡辺 謙)は彼を引き取り、喜久雄は歌舞伎役者の道へ。半二郎の跡取り息子・俊介(横浜流星)と兄弟のように育てられ、ともに芸に青春を捧げていく。ライバルでもあるふたりの妖艶な歌舞伎の舞は必見! 全国東宝系にて公開中
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ジャケット¥396,000 • ベスト¥154,000 •シャツ¥72,600 • パンツ¥154,000 •靴¥139,700(ヨウジヤマモト プレスルーム〈ヨウジヤマモトプールオム〉)
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2025年Oggi8月号「この人に今、これが聞きたい!」より
撮影/長山一樹(S-14) スタイリスト/根岸 豪(THE Six) ヘア&メイク/速水昭仁(CHUUNi Inc.) 構成/南 ゆかり
再構成/Oggi.jp編集部
Oggi編集部
「Oggi」は1992年(平成4年)8月、「グローバルキャリアのライフスタイル・ファッション誌」として小学館より創刊。現在は、ファッション・美容からビジネス&ライフスタイルテーマまで、ワーキングウーマンの役に立つあらゆるトピックを扱う。ファッションのテイストはシンプルなアイテムをベースにした、仕事の場にふさわしい知性と品格のあるスタイルが提案が得意。WEBメディアでも、アラサー世代のキャリアアップや仕事での自己実現、おしゃれ、美容、知識、健康、結婚と幅広いテーマを取材し、「今日(=Oggi)」をよりおしゃれに美しく輝くための、リアルで質の高いコンテンツを発信中。
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