耳恋♡ 推しの声が聞きたくて Vol.31|下野 紘さん
楽しみながら仕事をしている。そんな姿に共感を覚える
ホストクラブ「クラブ・ワン」を舞台に、強烈な個性を持ったホストたちの日常を描くショートアニメ『えぶりでいホスト』。3分でクスッと笑えて、元気と勇気がもらえる——いわゆるギャグコメディ作品だが、夜の世界で自分らしく働くキャラクターたちの生きざまが、私たちの心に刺さる瞬間がある。

下野 紘
しもの・ひろ/4月21日、東京都生まれ。代表作に『鬼滅の刃』我妻善逸役、『うたの☆プリンスさまっ♪』シリーズ・来栖翔役、『僕のヒーローアカデミア』シリーズ・荼毘役など。2021年、2022年には、第十五回・第十六回声優アワードでMVSを2年連続受賞。
「主人公のハジメは、病んだ勢いでホストに転職した元営業マン。前職のスキルを活かして、いろいろな人と関わり合いを持ちながら、一生懸命に仕事をしています。ホストに限らず、声優に限らず、どんな仕事もやっぱり大変。ラクな仕事なんて、ひとつもないですよね。『みんな大変だよね』なんて共感していただきつつ、ちょっとおバカな彼らの姿を見てクスッと笑ってもらえたらいいなと思います」
そう語るのは、同作でホスト歴20年のコーイチを演じている声優の下野 紘さん。主人公・ハジメの転職先となるクラブのNo.1であり、代表でもあるベテランホストという役どころだ。
「想定される年齢だったり、業界歴だったり… 近しく感じる部分がいろいろあって、彼のキャラクターを組み立てていく上で〝役をつくらなければいけない〟とはあまり感じませんでした。『年相応に見えない』とよく言われるのも、彼と僕の共通点です(笑)。そして何より、楽しみながら仕事をしている姿勢に共感をおぼえます。つらい気持ちだけで仕事をしていくのはイヤですし、しんどいことがあっても楽しみを見出していきたいですよね」

「楽しくない仕事はしたくない」——仕事に対する下野さんの言葉には、きっと多くの人が首を縦に振るだろう。だが、〝楽しい仕事を選ぶ〟のではなく、〝仕事を楽しくしようと努力する〟のが下野さんらしいところだ。
「現場がシーンとしているのが苦手で、つい何かしちゃうんですよ(笑)。仕事がただ淡々と進んでいくだけでは面白くないし、もったいないじゃないですか。ときには冗談を言ってみたり、悩んでいる後輩がいたら話しかけに行ってみたり… なんでもいいから僕にできることはないか、常に探すようにしています。できる限り、職場の空気感をよくしたい。自分自身のモチベーションを下げたくないですし、少なくとも僕がいる現場は、みんな笑いながら楽しく仕事をしてもらいたいですから」
堅苦しくなく、穏やかで、ときに笑い声が響く。「僕自身が楽しんで仕事をやっていれば、そんな僕に影響される人もいるんじゃないかなって思うんです」——この撮影やインタビューの現場もまた、任された仕事をこなすだけではない下野さんが生み出す、前向きな空気に包まれていた。

どんなに人に憧れても、自分は自分にしかなりえない
アニメ『えぶりでいホスト』で演じるホスト・コーイチ同様に、自らも20年を超える声優歴を持つベテラン。一念発起して有名店から独立し、自分の店を構えたコーイチに対しては「いろいろな人が自分の個性を生かしながら幸せになれる。そんな場所をつくろうとしている気がする」と推測する。
自分自身が仕事を楽しむだけではなく、同じ空間で働く人たちも楽しませようとする下野さんから感じられるのは、ベテランの〝余裕〟。職場にこんな上司や先輩がいてくれたら、いつか自分もこんな存在になれたら——そう思わせる人だ。だが、そんな下野さんも20代から30代にかけての自分をこう振り返る。

「目標にすべきものさえわからなくて、ただがむしゃらに進んでいたのが20代前半。ようやく道筋が見えてきたと思ったら、同時に壁が見えてきたのが20代後半。そこから30代前半にかけては、何かにつけて自分とだれかを比較して、いろんな人をライバル視してばかりいました」
人をうらやんで、自分にないものを求めて、ネガティブになってしまう。負のスパイラルに陥ってしまいがちな感情と、下野さんはどうやって向き合っていったのだろうか。
「声の出し方や芝居のやり方、声のバリエーションのつけ方… 似ている声の人はいても、その人にしか出せないものがあります。どんなに憧れても、自分は自分にしかなりえない。その人と自分はどう違うのか、その人より長けている部分はどこなのか… 相手を見ながら、自分を見ることが大事です。人のすごいところを発見しながら、自分にも自信をつけていく。
僕が比較思考から脱却できたきっかけは、〝声優・下野 紘〟の天井を感じたこと。ゲームでいうところの能力値がカンストしてしまった… みたいな感覚になったんです。この状態のままでも、仕事がなくなるわけじゃない。でも、仕事があるだけで本当にいいんだろうか? やりたいことがたくさんあるんじゃないのか? と気がついて。苦手なことにももっと挑戦しよう、人とは違う場所を目指そう… そう考えていたら、人のことを見ている暇がなくなって、自分自身を見つめるようになりました。人を見ているだけでは自分は何も変わらない。だったら、もっと自分を見直していくほうがいいんだと」

そんな時期も経て、今。過去との変化を感じている。
「20代から30代の前半は、視野も狭かったと思います。余裕がなくて、物事の一部分しか見られていなかったし、見落としてしまっていたことも多かったんじゃないかな。歳を重ねて、周りを見る余裕ができたことで、〝うらやむ〟から〝見習う〟へと人を見る目もシフトしていきました。今、同じように悩んでいる人も、決して焦る必要はないと思います。変化は焦ってするものじゃない。年齢とともに自然と変わっていけるのかなと」
下野さんにとって〝働く〟とは?
いろんな意味合いがあるけど…〝幸せ〟かな?声優の仕事が全然なかった20代前半のある日のこと、昼寝をしていたら夢を見たんです。白いヒゲを生やした白髪の老人が、雷雨の中で泣いている夢。仕事も家もないその人は、老人になった僕でした。「このままだとこうなるよ」と暗示されているような絶望を感じる悪夢。

そのときの恐怖心や、コロナ禍に味わった仕事ができない悔しさを考えると、働けるって幸せなことだなと改めて感じるんです。それに、働かずに飲むお酒よりも、がんばって働いた後に飲むお酒のほうが圧倒的においしい!(笑)
『働かざるもの食うべからず』という言葉は、人を戒めるだけではなく、人生における幸せも表現しているのかもしれません。「働いてから食べたほうが幸せだよ!」って(笑)。
幸せを感じるために、働いている。だから、僕にとっては〝働く=幸せ〟なのかなって思います。笑いながら楽しく仕事ができる。そんな現場をつくりたい声優・下野 紘の天井を感じたことで人より自分を見られるようになった
TVアニメ『えぶりでいホスト』大好評放送中!

ごとうにも原作の四コマWEB漫画『えぶりでいホスト』がショートアニメに。アットホームが売りのホストクラブ「クラブ・ワン」を舞台に、異次元な個性派ホストたちが繰り広げるぶっ飛んだ日常を描く。テレビ東京ほかにて毎週金曜深夜1時13分〜放送中。
***
【下野さん衣装】パンツ[参考価格]¥38,500(MUZE GALLERY〈MUZE〉) その他/スタイリスト私物
MUZE GALLERY TEL:03-6416-4217 MUZE GALLERY
2025年Oggi8月号「耳恋♡ 推しの声が聞きたくて Vol.31」より
撮影/三宮幹史(TRIVAL) スタイリスト/ヨシダミホ ヘア&メイク/小田桐由加里(appétite w/YAT) 構成/旧井菜月
再構成/Oggi.jp
Oggi編集部
「Oggi」は1992年(平成4年)8月、「グローバルキャリアのライフスタイル・ファッション誌」として小学館より創刊。現在は、ファッション・美容からビジネス&ライフスタイルテーマまで、ワーキングウーマンの役に立つあらゆるトピックを扱う。ファッションのテイストはシンプルなアイテムをベースにした、仕事の場にふさわしい知性と品格のあるスタイルが提案が得意。WEBメディアでも、アラサー世代のキャリアアップや仕事での自己実現、おしゃれ、美容、知識、健康、結婚と幅広いテーマを取材し、「今日(=Oggi)」をよりおしゃれに美しく輝くための、リアルで質の高いコンテンツを発信中。
Oggi.jp