「ダモクレスの剣(つるぎ)」とは、「栄華の中にも生命を脅かすような危険が迫っていること」を意味する、古代ギリシャの故事のひとつ。世代によってはアニメ「K」で知ったという人も多いかもしれませんね。本記事では、「ダモクレスの剣」の正しい意味や、日常生活での使い方などについて解説します。
「ダモクレスの剣」とは?
アニメに登場したこともある「ダモクレスの剣」とは、「栄華の中にも生命を脅かすような危険が迫っていること」、つまり支配者や権力者には危険がつきまとっているということを表します。
語源は、古代ギリシャの故事。シラクサ(シチリア島南部の古代都市)の王ディオニシオスの臣下ダモクレスが、王位の幸福をほめそやしたところ、王はダモクレスを宴会に招き、頭上に髪の毛1本で鋭い剣が吊るしてある玉座に着かせ、王者には常に危険があることを諭らせた、という逸話によります。
欧米で使われることが多く、J.ケネディ大統領が1961年9月25日、国連総会で行なった演説中に用いたことで有名になりました。それは、「人類は核という名のダモクレスの剣の下で暮らしている」という、剣(核兵器)を吊るす細い糸はいつでも切り落とされる可能性があることをたとえたもの。
この場合、ダモクレスの剣の犠牲になるのは権力者だけではなく、すべての命であることはいうまでもありません。
アニメに登場することも
「ダモクレスの剣」という言葉を、アニメで知ったという人もいるのでは。アニメ「K」(2012年10月~12月、2015年10月~12月)では、7人の異能の王が、その能力を発揮するときに頭上に現れる、剣の形のエネルギーの結晶体のことを「ダモクレスの剣」と呼んでいました。
王が限界状態だと剣は崩壊していき、王が死ぬ時には剣も消滅するという、まさに、王が危険と隣り合わせであることを知らしめる象徴的な仕掛けとなっています。
使い方を例文でチェック!
「ダモクレスの剣」は、ギリシャの故事ということもあり普段使うにはハードルが高そう。また、ケネディの演説のように、ケースバイケースで対象が王者であることに限らず、広く人を指すこともあります。例文をぜひ参考にしてみてください。
1:「今、彼の会社は業績不振らしい。ダモクレスの剣の話が現実味を帯びないといいが」
彼も会社も好調だったときを経て、今や業績不振。倒産などの危機を、「頭上に剣が吊るされ、いつ切り落とされるかもわからない状況」である「ダモクレスの剣」にたとえています。
2:「経営者としてダモクレスの剣のことが頭から離れない」
今は好調だけれど、いつ、どうなるかわからないという不安や、注意深くあらねばという思いにつきまとわれている、そんな状況を表す例文です。
3:「紛争地にいる人たちの頭上には、常にダモクレスの剣が吊るされています」
この場合、ダモクレスの剣の対象となるのは老いも若きも紛争地にいるすべての人たち、ということになり、ケネディの演説に近いといえるでしょう。紛争地では誰もがいつも危険と隣り合わせですよね。
4:「健康だと思っていたが今は病院通い。毎日、ダモクレスの剣の下にいるようなものだよ」
健康を害してしまい、悪化するかもしれない、いつか命に関わるかもしれない、という不安感や心配を、「ダモクレスの剣」にたとえています。
5:「調子のいいときこそ、ダモクレスの剣の逸話を忘れないようにしなければいけないよ」
物事がうまくいっているときこそ気を抜かず、不慮の出来事に備えておかなくてはいけない。そんな戒めの表現です。
類語や言い換え表現は?
ここでは、日本の言葉で「ダモクレスの剣」に近い言葉を紹介しましょう。いずれも、危険が迫っている、明日はどうなるかわからない、というギリギリの状態を表しています。
1:一触即発
「ちょっと触れればすぐに爆発しそうなこと。危機に直面していること」。普段もよく耳にするこの四字熟語は、すでに周囲との関係性の悪い場合に使われます。
たとえば、「彼を私の片腕という人もいるが、実は一触即発の関係だ」などと使えば、社長やオーナーという立場でもあっても、いつ部下に手のひらを返されるとも限らないというような意味になります。この場合、彼の存在こそが「ダモクレスの剣」といえるかもしれませんね。
2:危機一髪
こちらもおなじみの四字熟語。意味は、「髪の毛1本ほどのごくわずかな差で危機におちいりそうな、極めて危ない状態のこと」です。
たとえば「敵から攻められ何とか退却した。まさに危機一髪だったよ」「商談が決裂しそうだったが危機一髪のところで回避できた」など、ギリギリセーフだったというイメージで使われます。
3:瀬戸際
狭い海峡と外海の境目のことで、転じて「勝負や成否、安否などの分かれ目」のことをいいます。「王者はいつも生と死の瀬戸際にいる」のように使えば、より「ダモクレスの剣」に近い言い換え表現になりますね。
対義語はある?
日本語で明確な対義語となると難しいですが、和やかで楽しい気分が満ちているという意味の「和気あいあい」が近いでしょう。「オーナーと社員が和気あいあいに食事をしている」など、敵対しないよい関係性を表すときに使います。
最後に
「ダモクレスの剣」は、現在では、「日々の幸福や楽しさの中にも常に身に迫る危険が潜んでいる」という意味でも用いられるようになっています。ピリピリ、ギリギリという差し迫った緊張感があり、できれば使いたくない言葉ですが、人生の戒めとして心にとめておきたいですね。
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