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この記事のサマリー
・「苦肉の策」の意味は“自らや味方を犠牲にして状況を打開する最後の手段”のこと。
・日常でもビジネスでも使える表現ですが、使い方に配慮が必要です。
・言い換え表現には「窮余の一策」「背に腹はかえられない」などがあります。
「苦肉の策」という言葉を耳にしたとき、あなたはどんな場面を思い浮かべるでしょうか? 追い詰められて、やむを得ず選んだ最後の一手、そんな印象を持つ人も多いかもしれません。
とはいえ、「苦肉の策」が持つ深みや背景を知ると、思わず「そんな意味だったの?」と膝を打つことも。「言葉の選び方」がますます大切になる今だからこそ、正確に、そして上手に使えるようにしておきたい言葉です。
苦肉の策とは?|まずは正確な意味を押さえておきましょう
まずは基本的な意味から押さえていきましょう。
「苦肉の策」の意味
「苦肉の策」は、「くにくのさく」と読みます。自分や味方が苦しむことを承知の上で実行する、最後の手段や苦し紛れの作戦を指します。辞書では次のように説明されていますよ。
苦肉(くにく)の策(さく)
敵を欺くために、自分の身や味方を苦しめてまで行うはかりごと。また、苦しまぎれに考え出した手立て。苦肉の謀(はかりごと)。「―を講じる」
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
単に「苦しいときの対処法」ではなく、あえて自分や味方を犠牲にすることが含まれているのがポイントです。

「苦肉の策」の語源
「苦肉の策」という言葉をめぐって、多くの人が気になっているのが『三国志』とのつながりのようです。じつはこの「苦肉の策」という言葉、歴史書『三国志』ではなく、それをもとにつくられた長編歴史小説『三国志演義』が語源とされています。
史実とフィクションが交錯する物語の中で、この表現にはどのような“知恵”と“覚悟”が込められたのか、詳しく見ていきましょう。
「苦肉の策」の語源は『三国志演義』から
舞台は三世紀初頭、後漢王朝が崩壊に向かう激動の時代。中国北部を勢力下に置いた曹操(そうそう)は、天下統一を狙って南方へ進軍します。これを迎え撃つのが、孫権(そんけん)と劉備(りゅうび)の連合軍。そう、「赤壁の戦い」です。
連合軍の要、呉の名将・周瑜(しゅうゆ)は、部下の黄蓋(こうがい)を些細なことで怒鳴りつけ、なんと棒打ち100回という厳罰を科します。まわりも驚くほどの仕打ちに、黄蓋は曹操への寝返りを申し出ますが… 実はこれこそ、周瑜と黄蓋が仕組んだ「計略」だったのです。
夜、曹操軍が黄蓋の船を信じて迎え入れたその瞬間、船に火が放たれ、連なる曹操軍の船は炎上。連合軍は見事な勝利を収めました。この策略が『三国志演義』で「苦肉の計(けい)」と呼ばれ、今日の「苦肉の策」の語源となったといわれています。
参考:『故事成語を知る辞典』(小学館)
「苦肉の策」の例文と注意点|ビジネスや日常での使い方
「苦肉の策」という表現は、日常会話からビジネスシーンまで幅広く使われていますが、使い方によっては思わぬ誤解や違和感を与えることがあります。
ここでは、よくある使用例をもとに、TPOに合った正しい使い方と、避けたほうがいい場面を整理して紹介します。
「猛暑で客足が遠のいたカフェは、苦肉の策としてデリバリーを始めた」
これまでのやり方が通用しなくなり、新たな手を苦し紛れに打つような状況で「苦肉の策」はよく使われます。前向きな挑戦というよりも、「背に腹は代えられない」といったニュアンスが含まれるでしょう。

「予算が足りなくなった映画監督は苦肉の策を講じ、海外ロケを中止した」
「苦肉の策」と相性のいい動詞に「講じる」があります。この場合も、“理想から妥協せざるを得なかった選択”という意味合いが強く、聞き手には「事情があって仕方なくとった策」という印象が伝わるでしょう。
「恋人に振られた彼は、苦肉の策で恋人の友達にアプローチをして恋人を嫉妬させようと試みたが、効果はなかったようだ」
ちょっと切ない恋愛シーンにも「苦肉の策」は使えます。本来の望みが叶わない中で、あえて苦しい選択をしてでも目標に近づこうとする行動に当たります。
恋人を振り向かせるために別の相手にアプローチする… というのは、まさに“自己犠牲”を含んだ行為ですね。
こんな場面では使わないほうがいい?
注意したいのは、「苦肉の策」を自分にとって都合のいい言い訳として使ってしまうケースです。例えば、あらかじめ用意していた案を「実は苦肉の策でした」と後出し的に説明すると、聞き手に不誠実な印象を与えるおそれがあります。
また、責任回避のためにこの言葉を用いると、「工夫ではなく、言い訳のように聞こえる」と感じられることも…。相手の受け取り方や、その場の温度感に配慮しながら使うことが大切です。
「苦肉の策」の言い換え表現|柔らかく伝えるには?
「苦肉の策」はインパクトのある言葉ですが、場合によっては少し強すぎたり、重たく響いたりすることがあります。そこで、TPOや相手に応じて使える類語・言い換え表現を紹介します。
窮余の一策(きゅうよのいっさく)
「窮余の一策」は、「どうしようもなく困った末に、なんとかひねり出した手段」という意味を持つ言葉です。「窮余」は「行き詰まって苦しむこと」、「一策」は「ひとつの方策」という意味を持ちます。
背に腹はかえられない
「背に腹はかえられない」は、「大事なものを守るために、他を犠牲にしてでも行動を選ぶしかない」という意味のことわざです。
苦渋の決断(くじゅうのけつだん)
「苦渋」とは、「苦しみ悩むこと」を意味します。したがって「苦渋の決断」は、「苦しみ悩んだ末に下した決断」を指します。

「苦肉の策」に関するFAQ
ここでは、「苦肉の策」に関するよくある疑問と回答をまとめました。参考にしてください。
Q1.「苦肉の策」と「背水の陣」は同じ意味ですか?
A.違います。
「苦肉の策」は自分や味方にもダメージのある苦し紛れの手立てのこと、「背水の陣」は絶体絶命の状況下で全力を尽くすことのたとえです。
Q2.「苦肉の策」は目上の人に使っても大丈夫?
使えますが、苦し紛れに聞こえる可能性があるため、慎重に使いましょう。
Q3.NGな使い方はありますか?
「自分の苦労を美化するため」に使うと逆効果になりやすいです。
共感を得るどころか、自慢話や言い訳に聞こえることもあるので注意しましょう。
最後に
苦肉の策を取ったことがかえっていい結果をもたらすこともあるかもしれません。目の前の現状を冷静に判断することが重要になりそうです。
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