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「和を以て貴しとなす」とは
「和を以て(もって)貴し(とうとし)となす」を、格言や座右の銘として見たことがあるかもしれません。漢字から「和を大事にする」「仲良くするのはいいことだ」を意味すると推測できても、正確な意味を知らない人は多いのではないでしょうか?
本記事では「和を以て貴しとなす」について、意味や由来、使い方などを見ていきましょう。まずは、この言葉が持つ2つの意味を紹介します。
意味は2つ
『故事俗信ことわざ大辞典』(小学館)によると、「和を以て貴しとなす」は、「人と人とがむつまじく親しくすることを貴いものとする」ことを表します。
「むつまじく」とは、仲が良い、親密であるという意味。「貴い」とは、きわめて価値が高いことや、非常に貴重であることを表す言葉です。「何事においてもみんなが仲良くやり、諍い(いさかい)を起こさないのがよい」ということを表すといえるでしょう。
また、「和を以て貴しとなす」を「しっかりと話し合いをする」という意味で使うことがあります。お互いの意見や見解を尊重しつつも、調和しようと考えて協調することの大切さを説く際に用いられることが多いでしょう。
「和を以て尊しとなす」は同じ意味?
「和を以て貴しとなす」の「貴し」を、「尊し」と表すことがあります。これは、「和を以て貴しとなす」と同じ意味になると考えてください。そのため、どちらを使っても間違いにはならないでしょう。
ただし、次に紹介する原典では「貴」が使われています。それを踏まえると、「和を以て貴しとなす」を使うほうがいいかもしれませんね。
「和を以て貴しとなす」の由来は諸説ある
ここからは、「和を以て貴しとなす」の由来を見ていきましょう。由来については、諸説あるとされています。
孔子の『論語』が由来とする説
孔子とは、中国・春秋時代の学者であり思想家。儒教の祖として尊敬を集め、日本文化にも大きな影響を与え続けてきた人物です。『論語』は、孔子と弟子たちの対話を書物にまとめたもの。孔子の没後に、弟子たちがいろいろな材料を集め、整理や加筆などをして書物にしたとされています。
この『論語』の中にある、「礼之用、和為貴」が由来とする説があります。儒教でいう「和」とは、名分を守り秩序を重んじる「礼」において、人々が互いに打ち解け、親しくすることの重要性を指します。
聖徳太子が由来とする説
聖徳太子の定めた、「十七条憲法」の第一条に出てくる言葉が由来とする説もあります。十七条憲法とは、当時の役人たちが守るべき道徳的戒めをまとめたもの。その中の「和(ヤハラク)を以て貴(タフト)しと為、忤(さか)ふること無きを宗とす」から生まれたとするものです。
『故事俗信ことわざ大辞典』(小学館)によると、十七条憲法の「和」は、儒学の「和」の概念を超え、仏教の和合の精神の大切さを解いているとされます。「和を以て貴しとなす」は、こちらの意味が近いといえるでしょう。
「和を以て貴しとなす」の使い方
ここからは、「和を以て貴しとなす」の使い方を見ていきましょう。具体的な使い方は例文を参考にしてくださいね。
どのようなシーンで使う?
まず、「和を以て貴しとなす」をどのようなシーンで使うのかを紹介します。上述したように、「和を以て貴しとなす」には2つの意味がありますが、いずれも共通するのは「他人と接している」ということ。誰かとともに活動する際や、話し合い、協働などに関連することで用いられると考えていいでしょう。戒めの言葉として使われたり、忠告や進言に用いられたりします。
「争いを起こさず、和を大切に」という意味の例文
具体的な使い方を例文で紹介します。まずは「争いを起こさず、和を大切に」という意味で使われる場合を見ていきましょう。
《例文》
・チームで活動するには、全員が「和を以て貴しとなす」の精神を持つことが大切だ
・「和を以て貴しとなす」は大切なことだが、そればかりを重視するのは避けるべきだろう
・社長の挨拶やスピーチでは、必ずと言っていいほど「和を以て貴しとなす」が出てくる
「しっかりと話し合いをする」という意味の例文
「しっかりと話し合いをする」という意味で使うのは、忠告や進言をするケースが多いかもしれません。こちらの意味の例文を見ていきましょう。
《例文》
・「和を以て貴しとなす」という言葉が意味するように、みんなが納得するまでしっかり話すことが大切だ
・この会議には、全員「和を以て貴しとなす」の精神で挑んでください。
・賛否両論あるが、大事なのは「和を以て貴しとなす」。恐れることなく、最後まで全員が意見を出し合おう
「和を以て貴しとなす」を英語で表すと?
「和を以て貴しとなす」を英語で伝えたい場合、どのような表現を使えばいいか見ていきましょう。3つ紹介します。
「和を以て貴しとなす」の英語表現
「和を以て貴しとなす」を表す英語表現にはさまざまなものがあります。ピックアップしたものを見てみましょう。
・Cherish the harmony among people.
→日本語訳「人と人の和を大切に」
・Harmony is the greatest of virtues.
→日本語訳「調和は最大の美徳」
・Harmony is to be valued.
→日本語訳「調和は大切にされるべきだ」
上記の英語表現であれば、「和を以て貴しとなす」の意味やニュアンスが伝わるでしょう。
「和」ではじまる慣用句
「和を以て貴しとなす」のように、「和」からはじまる慣用句を紹介します。表現は似ていますが、意味が異なりますのでチェックしてください。
「和を以て和を致す」
国民のやわらいだ心により、自然に豊作などの幸福を招くということを意味する「和を以て和を致す」。「わをもってわをいたす」と読みます。中国・前漢の学者である劉向(りゅうきょう)による『漢書』が由来とされています。
「和は仁の基」
「和は仁の基」とは、なごやかにむつみ合うことが、仁慈(じんじ)を行う根本であるという意味の言葉。仁慈とは、思いやりがあり情け深いことを意味します。浄瑠璃・富仁親王嵯峨錦が由来とされている言葉。「わはじんのもと」と読みます。
最後に
「和を以て貴しとなす」について、言葉の意味や読み方、由来、使い方、英語表現などをまとめました。忠告や進言、戒めの際に用いられることが多い「和を以て貴しとなす」は、日常やビジネスシーンで登場することがあるでしょう。「和を大切に」「話し合いを大切に」ということを表す際に使えますので、意味を把握し、うまく活用したいですね。
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