「猫を被る」という言葉を聞いたことがありますか? 「あの人、入社当初はおとなしかったけど、あれは猫を被っていただけだったのね」などと、噂話などで耳にする機会もあるかもしれませんね。また、自分で「私は猫を被っているだけです」などと言うことも。
さまざまな場面で耳にする「猫を被る」という言葉ですが、詳しい意味や使い方が気になるという方も、多いのではないでしょうか? そこで、この記事では、「猫を被る」の意味や例文、英語表現などを解説します。
「猫を被る」の意味は?
「猫を被る(ねこをかぶる)」とは、うわべの態度を柔和にし、おとなしそうに見せることを意味する慣用句です。また、本当は知っていることを、あえて知らないふりをするという意味で使われることも。
「猫を被る」という言い方は、自分の本性を隠して、かわいい猫のように見せることが語源と言われていますよ。また、もう一つの説では、猫ではなく、寝茣蓙(ねござ)という敷物をかぶって、本来の自分の性格をおおい隠すということが語源という説もあるようです。
このように、語源は諸説ありますが、いずれにせよ、「本当の自分の性格を隠して、柔和でおとなしそうにすること」を指す言葉と言えるでしょう。
「猫を被る」の例文
ここからは、「猫を被る」の例文と使い方を見ていきましょう。
例文:「あの人、おとなしそうにしているけど、猫を被っているだけだよ」
実際はきつい性格なのに、おとなしい人を演じているような人に対して、「猫を被っている」ということが多いですよ。もちろん、冠婚葬祭など、誰しも場面に応じてふさわしい態度を取るということもあるでしょう。
例えば、普段はにぎやかな性格の人でも、お葬式では静かにしますよね。ですが、このようなTPOをわきまえた態度に対して、「猫を被る」ということは、あまり聞きません。
「猫を被る」は、どちらかというと、「ぶりっ子」に近く、ネガティブな意味で使われることが多い表現です。
実際に、ある会社であった事例を見ていきましょう。ある会社に、Nさんという女性職員がいました。Nさんは入社して十年以上経つ人で、業務知識も経験も豊富。仕事のスキル面では頼れる人のですが、Nさんには困った一面がありました。それは、人によって態度を変えるということ。
特にNさんは、自分より年下の女性職員だけに、とてもきつい態度をとっていたといいます。何か後輩から質問されても、「は? あなた、ちゃんと頭使ってる?」などの攻撃的なコミュニケーションをとっていました。
さらには、気弱そうな後輩に対して、「うわ、よくそんな服装で職場に来たね」や「もう少しダイエットしたら?」など、容姿や服装をからかうこともあったと言います。
一方、上司に対しては、とてもおとなしく接していたNさん。また、上司が何か話すと、「すごい!知らなかったです!勉強になりました!」などと、おだてることもあったと言います。
また、Nさんは、上司や目上の人がいる場面では後輩にも優しく接していました。そのため、上司たちからは、「優しくて面倒見の良い先輩」という印象だったようです。
これを見た後輩たちからは、「Nさんは、上司に対しては猫を被っているから、上司はNさんの本性を知らないよね」と噂されていました。
そんなある日、ついにNさんの態度に耐えかねた後輩たちが、上司へ事情を相談することに。最初は上司も、「え? あのNさんがそんなことするわけがないでしょう」と言っていたようです。
ですが、同じような相談が複数の人からきたことや、後輩に対する暴言を目撃した人たちからの証言があり、結局Nさんは会社内での信頼を失ってしまいました。居心地が悪くなったのか、翌年、ひっそりとNさんは転職していったと言います。
人の噂というのは、あっという間に伝わるもの。上司の前でだけ猫を被っていたことが原因で、自分の居場所を無くしてしまうというのは、避けたいものですね。
「猫被ってる」と自分で言うケース
中には、「私、猫被ってるだけだから」などと自分で言う人もいるようですよ。例えば、「いつも優しくて本当にいい人だよね」と褒められた人が、謙遜する意味で「いえいえ、猫を被っているだけです」などと言うことも。
このように、「猫を被る」は、自分に対して使うこともありますが、人に対しては使わない方が無難でしょう。
「猫被ってる」と言われるケースも
時には、自分はそんな気がないのに、人から「猫を被ってる」と言われてしまうこともあるようです。実際の事例で見ていきましょう。
ある会社で人事を担当していたSさんは、誰に対しても礼儀正しく、にこやかに接していました。そんなSさんは、ある日職場でこんな噂話を偶然聞いてしまい、ショックを受けたといいます。
「人事のSさん、絶対猫を被っているよね」
Sさんは、「人事として、社内の雰囲気を良くしたくて、にこやかに接していただけなのに…」と語ってくれました。
このように、自分にそんな気がないのに、「猫を被っている」と言われるのは悲しいですよね。ですが、それに対して怒りで反応すれば、「やっぱり猫を被っていた!」と言われてしまうことも。そうなると、噂をしていた人の思うつぼですよね。「そう思う人もいるのね」とスルーするのも一つの手かもしれません。
「猫を被る」の英語表現は?
「猫を被る」を英語で言うと、どのような表現になるのでしょうか? 独特の言い回しですので、直訳は難しいですが、次のような英語表現がありますよ。
例文:I think she is hiding her claws.
意味:「私は、彼女が猫を被っていると思う」
「hide one’s claws」は、直訳すると、「爪を隠す」という意味ですが、本性を隠しているという意味で、「猫を被る」に近い意味で使われることがあります。実際は、鋭い爪を持っているのに、まるで爪がないように見せるというのは、うわべだけおとなしく見せる「猫を被る」に近い印象がありますよね。
最後に
この記事では、「猫を被る」の意味や例文、英語表現などを解説しました。日常的に耳にする機会が多い言葉ですので、おさえておきたいですね。
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塚原美彩(つかはらみさ) 塚原社会保険労務士事務所代表
行政機関にて健康保険や厚生年金、労働基準法に関する業務を経験。2016年社会保険労務士資格を取得後、企業の人事労務コンサルの傍ら、ポジティブ心理学をベースとした研修講師としても活動中。HP:塚原社会保険労務士事務所 ライター所属:京都メディアライン