「死人に口なし」とは、「死人は無実の罪を着せられても釈明することができない。また、死人を証人に立てようとしても不可能である」ということです。刑事ドラマなどで登場しそうなこのことわざは、日常生活ではどのように使うものなのでしょうか? 類語や英語表現もあわせて解説します。
「死人に口なし」の意味
「死人に口なし」の意味は、「死人は無実の罪を着せられても釈明することができない。また、死人を証人に立てようとしても不可能である」ということ。
死んだ人は反論することも抗議することもできないのをいいことに、主に、死人に罪や責任を負わせたり、虚偽の証人に仕立てるというような場面で用いられます。つまり、自分自身が罪や責任、失敗から逃れたいがために死人を利用する、ということですね。
また、死人から真実を聞いたり証言を得ることのできないことに対して悔しい、残念というケースでも用いられます。
ちなみに、もとは「死者に罪を着せたり責任を負わせたりするべきではない」という意味も含んでいたよう。しかし、現在では、そのような意味で使われることはまずないといっていいでしょう。
使い方を例文でチェック!
「死人に口なし」は、できれば日常生活で使いたくない言葉ではありますが、その意味をより理解する意味でも、例文は参考になるはず。故人への思いを込めて使われるケースについても紹介しましょう。
1:「死人に口なし。あいつに責任をなすりつけてやろう」
亡くなった人は当然ながら反論や釈明をすることができません。自分のしでかしたことの責任を、「何も言えないあいつになすりつける」という、何とも卑怯な、そしてわかりやすい使い方です。
2:「あの人が言ったことにしておこう。死人に口なしだから、ちょうどいい」
例文1と同じようなことですが、自分の言ったことで自分自身が窮地に陥りそうなとき、死んだ人のせいにして非難し、うまくすり抜けてやろうと考えているときの例文です。
3:「首謀者が亡くなった以上、真相は追求できない。まさに死人に口なしだ」
刑事ドラマなどでよく見る場面かもしれません。何かの事件を追っているとき、その首謀者が亡くなって自供をとれなくなることで、解決への道が閉ざされる、というような意味です。
4:「死人に口なしをいいことに、教授の研究成果が他人の成果のように発表されてしまった」
教授は死人ですから、「それは自分の成果である」という真実を語ることはできません。教授に関わる人が、本当のことを証明できない悔しさを込めた「死人に口なし」の状況です。
5:「母は、あのとき何を言いたかったのだろう。死人に口なしになってしまったのが、悔やまれる」
母親が言いかけたこと、言いたそうにしていたことがあったけれど、ついに聞けずに終わってしまったという、残れた人の後悔を感じる例文です。生きているうちに聞いておきたかったと悔やむことは、年を重ねると誰しもが経験する感情でしょう。
6:「私のアリバイを証明できるのは、あの人だけだったと言い通そう。どうせ死人に口なしなのだから」
死人からは証言を得ることはできません。それを利用して事実でないアリバイのために亡き人を利用しようとしている例文です。うまくいくかどうかは置いておいて、虚偽の証人に仕立てるというずる賢い行為です。
類語や言い換え表現は?
死んでしまった人を非難する、死んだ人に罪をなすりつけるという意味の言い換え表現を2つ紹介します。
1:死屍(しし)に鞭(むち)打つ
『史記』より、楚(そ)の平王(へいおう)の死体を鞭打って父兄の恨みを晴らしたという、伍子胥(ごししょ)の故事に由来しています。
この語源のとおり、意味は「死んだ人の生前の言動を非難すること」。恨みを持つ相手が死んでもなお、その行ないを非難し続けたり、死人を悪く言ったり傷つけるよう画策して恨みを晴らすことをいいます。
たとえば、「死屍に鞭打つような言い方はしないほうがいい」「死屍に鞭打つ行為は、君の印象を悪くするだけだよ」などと使います。
2:死人に妄語(もうご)
「死人に妄語」とは、「死人に罪を負わせること」「死人に無実の罪を着せること」。妄語はうそを言うことを意味します。
たとえば、「彼女に私の罪を着せてしまおう。死人に妄語で好都合だ」「警察は、彼を犯人と見なしている。死人に妄語ではないだろうか」などと用いられ、死人に罪をなすりつけるという点が「死人に口なし」と非常に似ています。但し、死んだ人からは証言を得られない、という意味は含みません。
英語表現は?
「死人に口なし」の英語表現でよく知られるのは、
Dead men tell no tales.(死人は物語を語れない)=(死人に口なし)
ディズニーランドの人気アトラクション「カリブの海賊」で海賊たちが繰り替えし言うセリフでもあり、耳に馴染んでいる人もいるのでは? また2017年に公開された『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』の原題は、『Pirates of the Caribbean:Dead Men Tell No Tales』でした。
もっと直接的に表現するなら、「Dead men don’t talk.(死人は話すことができない)」となります。
最後に
「死人に口なし」は、死んだ人は何も言うことができない、死んだ人から証言を得ることはできないということを利用する、人の卑怯な考え方やうしろめたさから生まれたことわざ。
歴史においても、負けた側が「死人に口なし」とばかり裏切り者にされるなど、勝者の証言だけで史実となされてしまうことが少なくないといいます。日常生活では使うことも聞くこともないように、気になることは後悔のないようきちんと話し合っておくように、そんな戒めの言葉としてとらえたいですね。
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