自己実現って何?
いろいろなことにチャレンジし「自己実現をしたい!」と望んでいる人もいれば、「自己実現なんて、そんな意識の高いこと、自分には関係ない」と思っている人もいるでしょう。
自己実現は「自分の理想を掲げ、その目標を達成するために努力を重ねること」、「成長をすること」について指すと思っている方は多いと思います。
しかしながら、この一般的な認識とはちょっと違うニュアンスがあるそうなのです。「自己実現」について、5万人以上のキャリアサポートを行ってきた、キャリアコーチの菊池啓子(きくち・ひろこ)さんにお話を伺いました。
「自己実現について、“理想の自分を設定し、そこに向かって成長していくこと”だと思っていませんか? 昨今『自己実現』という言葉が、本来の意味とは誤解されて広がっています。
自己実現とは一言でいうと、『ありのままの自分でいて、自分らしく生きていること』。無意識でも、誰もが目指している状態なのです。
“自己実現ができている状態”は、人それぞれ。『自分自身』をのびのびと表現できていて、心地よく、幸せでいられること。誰かと比べたり、優劣をつけたりするものではありません。多くの時間をそんな風に過ごせる人生は、きっと充実していると言えますよね」(キャリアコーチ・菊池さん)
自己実現とは、自分らしく幸せな人生をおくること。そうだとするなら、改めて目指してみる価値はありますよね!
自己実現欲求とは?
自己実現については、多くの心理学者や哲学者が伝えています。その中でも、アメリカの心理学者のアブラハム・マズローの提唱する「欲求5段階説」と呼ばれる自己実現理論は有名です。
マズローの「自己実現理論の欲求5段階説」では、人には5段階の欲求があると唱えられ、ピラミッドで表現されることが多くあります。
生理的欲求
生命活動を維持するために最低限必要なものを求める気持ち。寝ること・食べること・呼吸や排せつなど、身体機能を維持し、命を繋ぐために必要なことです。
安全欲求
心身ともに安全で、安心して生活ができることを求める気持ち。生活基盤が整っており、安心して日々が過ごせる状態です。
社会的欲求
他者との関わりを持ち、コミュニティに属するなどして安心感を得たいと思う気持ち。人との親密なつながりを通して心を満たしていくことを望む状態です。
承認欲求
つながりの中で、自分の存在を認めてほしい・自分の価値を高めたいという気持ち。承認欲求は、他人から注目されたい・褒められたいというものと、自分で自分を認めたい、という二方向があります。
自己実現の欲求
自分の能力や才能を充分に発揮し、ありのままの自分であろうとする気持ち。
人は、「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」が満たされることで、自己実現に向かっていきます。健康上の問題や生活に困ることなく、社会や人と関わって自分の存在を認めてもらうことで、自分らしさを発揮できるのです。
自己実現とキャリアの関係性は?
キャリアを考える時に、自分のやりたいことや適性を知り、業務内容や待遇、働く環境などと照らし合わせていきますよね。これは、自己実現の場を探している状態ともいえます。
どこか遠いところにある理想の自分を追い求めることが、自己実現ではありません。日々の中で自分の状態を健やかに整え、自分らしく過ごせているという実感を持つことが、自己実現なのです。
自分にあった仕事をすることで、先述のマズローが提唱した5段階の欲求はすべて満たしていくことができます。生活の基盤ができ、仲間と共に過ごし、役割を果たし認めてもらう。仕事は、自己実現に向かう手段のひとつです。
そこで、もしキャリアに不満を感じているならば、今の状況について、まず「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」の4つの視点でどれくらい満たされているか考えてみましょう。例えば10点満点で点数をつけるとしたら、それぞれ何点でしょうか? そして、その点数は納得がいくものでしたか? 点数をつけた理由も思索してみてください。
ここでのポイントは、「他人がどう見るか」ではなく「自分がどう感じているか」。名の通った企業で人気職に就き給与も高かったとしても、人間関係の悩みを抱え心身に不調を感じているならば、自分基準では4つの欲求が満たされていないことになります。ただ、どこかの点数が低かったとしても、自分の中で折り合いがついている場合はOK。なぜその点数になったかという理由は、自分の中で良い状態をつくっていくために必要な項目になります。
4つの欲求が満たされている状態は、心身が健康で生活に対しての不安が小さく、つながりを感じられる人たちの中で自分の居場所を実感できている時。そうなるために自分ができることをやっていくのが、自己実現につながるのです。
自己実現への3つのポイント
自己実現とは「目標」ではありません。自分らしくありのままで存在し、自分の力を発揮できている状態のこと。自己実現の為には、自分らしさや自分の持っている力を、自らが理解しておく必要があります。
では、自己実現に向けて「知っておくべきこと」とはいったい何でしょうか? 3つのポイントを見ていきましょう。
価値観
「自分は何を大切に思っているのか?」、「選択の基準はどのようなものか?」、「何が好きで何が嫌いか?」、「何をどこまでなら我慢ができるか?」。それらについて、自分はどう思うかを考えてみてください。
心地よさと不快なことへの理解
「どんなことに心地よさを感じるのか?」、「どんなことを不快だと感じるのか?」。不快に感じることの中には、自分の欠点だと思っている特徴なども入ります。
“ありのまま”というのは、あるものをそのまま、まるっと受け入れられること。「こんな自分もいてイヤだなと思うこともあるけれど、まぁいいか」。そんな風に思える心の柔軟性が大切です。
自分で選択して行動する
自分らしさとありのままを実現させるためには、自分で選び、自分で行動する必要があります。誰かのレールに乗せられているうちは、自己実現にはつながりません。何を選んでも、やってみて失敗したとしても、あなたの選択であるならば、必ずバランスがとれて、自分らしく落ち着いていきます。
自分を認めることが、すべての原点に
自己実現は、自分らしくありのままの状態をキープできること。理想を描き目標に掲げ、達成していくようなものではありません。今ここに在る自分を、自分で認めてあげることから始まるのです。
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キャリアコーチ 菊池啓子(きくち・ひろこ)さん
2003年から企業研修トレーナー・人材育成コンサルタントとして活動。国家資格キャリアコンサルタント。研修登壇回数は年間100回を超え、これまでに5つの大学でキャリアデザインを教える。現在「社外上司」として多くのビジネスパーソンの悩みに寄りそい成長をサポート。趣味は出張先での御朱印集め。家族は夫と猫2匹。
Twitter:@lotus_kikuhime
ライター所属:京都メディアライン