あなたの身の回りに、厳しい態度をとる人はいませんか? 普段は厳しく怒るのに、風邪を引いた時などに心配してくれる姿を見て、「あれ? こんなに優しい一面もあったんだ」と意外に思うことがあるかもしれません。「鬼の目にも涙」とは、こんな場面で使われる言葉です。
本記事では、「鬼の目にも涙」の意味や使い方、「鬼に金棒」など鬼を使ったことわざを解説します。
「鬼の目にも涙」の意味
「鬼の目にも涙」は、「おにのめにもなみだ」と読みます。どのような意味なのか辞書で確認してみましょう。
無慈悲な者も、時には慈悲心を起こし、涙を流すことがあるということ。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
どんなに冷酷な人でも、他人を憐れんだり、同情して涙を流すことがあることを「鬼の目にも涙」と言います。
ちなみに「鬼の目にも涙」と使われている鬼とは、人間に危害を加えるとされる想像上の妖怪のこと。一般的には、赤や青、黄色などの体をしており、筋骨たくましく、もじゃもじゃ頭の上に角を2本生やしています。
さらには、腰には虎柄のふんどしを巻いており、手には重そうな鉄棒、口には鋭い牙が生えている姿を想像する方も多いのでは? 鬼は人を襲ったり災いをもたらすものとして、神の対極の存在として描かれていますが、「鬼の目にも涙」では、冷酷な性格の人のことを鬼にたとえています。
使い方を例文でチェック!
「鬼の目にも涙」は、どんな相手にどのようなシーンで使うのでしょうか? 日常生活でよくあるパターンを見ていきましょう。
1:普段厳しい姑が、体調を崩した時に心配してくれて、鬼の目にも涙とはこのことだと思った。
いつも口うるさく言ってくる人が、珍しく優しくしてくれると驚いてしまうかもしれませんね。「鬼の目にも涙」は、人から恐れられている人にも優しさがあるという意味なので、悪い意味ではありませんが、「鬼」は良いイメージはないので直接相手に使うのは控えましょう。
2:仕事で失敗をした時、周囲から怖いと噂されていた先輩が励ましてくれた。鬼の目にも涙とはこのことかもしれない。
職場にいる怖い上司や先輩などが、自分を慰めてくれたり同情してくれる時にも「鬼の目にも涙」が使われます。周囲から恐れられている人の、人間らしい優しさに触れたことで、「こういう一面もあるのだ」と感じ、親近感が湧くかもしれませんね。
「鬼の目にも涙」の対義語は?
「鬼の目にも涙」の対義語には、「鬼の空念仏」「仏の顔も三度」が挙げられます。どのような意味か確認していきましょう。
1:鬼の空念仏
「鬼の空念仏」の読み方は、「おにのそらねんぶつ」。意味は以下のとおりです。
無慈悲な者が心にもなく殊勝なようすをすることのたとえ。鬼の念仏。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
冷酷で残忍な人が、うわべだけ慈悲深くよそおっていることを「鬼の空念仏」と言います。「空念仏」とは、信仰の心なしに念仏を唱えること。「鬼の目にも涙」は冷酷な性格ではあるものの、人としての情も心の中にあることを表しますが、「鬼の空念仏」はその反対。いい人そうなふりをして実は冷酷で残忍という意味なので、注意してみてください。
(例文)
・あの人は普段殊勝な振る舞いをしているが、実は冷酷な人間だ。鬼の空念仏とはこのことでしょう。
2:仏の顔も三度
《いかに温和な仏でも、顔を三度もなでられると腹を立てるの意から》どんなに慈悲深い人でも、無法なことをたびたびされると怒ること。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「仏の顔も三度撫ずれば腹立つ」の略で、会話では「仏の顔も三度まで」と言われることが多いですね。仏さまのように優しく穏やかな人でも、無礼なことを繰り返すと怒り出だすということです。普段優しい人にも鬼のような心があるということなので、対義語と呼べますね。
(例文)
・今まで大目に見てきたけれど、もう我慢の限界だ。仏の顔も三度までだから容赦しない。
鬼を使ったことわざ
鬼を使ったことわざは意外とたくさんあります。ここでは代表的なものを3つ紹介します。
1:鬼に金棒
「鬼に金棒(おににかなぼう)」は、鬼を使ったことわざの中でも有名なものではないでしょうか? 意味を見ていくと、
《強い鬼にさらに武器を持たせる意から》ただでさえ強いものに、一層の強さが加わること。鬼に鉄杖(てつじょう)。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
となります。強い人に何かが加わって、さらに無敵になることのたとえですね。たとえば、「英語以外に、中国語も話せたらアジア圏で仕事する際に、鬼に金棒ですよ」などと相手を持ち上げる際に使うこともできますね。
(例文)
・かっこいい上に年収まで上がったら鬼に金棒だね。
2:鬼が笑う
「鬼が笑う」の意味は以下のとおりです。
実現性の薄いことや予想のつかないことを、からかっていう言葉。「来年のことを言うと―・う」
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
相手が、どうなるかわからない未来の希望などを言った時に、「そんなことを言うと鬼が笑うよ」と言ったりします。気の早いことをいうなとからかいの意味を込めて言う場合が多いですね。似たようなことわざに「明日のことを言えば鬼が笑う」「3年先の事を言えば鬼が笑う」があります。
(例文)
・そんな先の事を心配しても仕方ない。来年先の事を言うと鬼が笑うよ。
3:鬼の首を取ったよう
「鬼の首を取ったよう」の意味は以下のとおりです。
大変な功名・手柄を立てたかのように得意になるさま。「―な喜びよう」
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
さほど大したことでもないのに、さも大手柄を立てたように得意げになることを「鬼の首を取ったよう」と表現します。大げさに喜んでいる人を揶揄する時に使う傾向があるでしょう。
(例文)
・子供がコンクールに入選し、両親はまるで鬼の首を取ったように喜んだ。
最後に
「鬼の目にも涙」とは、「無慈悲な者も、時には慈悲心を起こし、涙を流すことがあると言うこと」。悪い意味ではありませんが、相手のことを鬼にたとえたことわざなので、直接伝えるのは避けたほうが無難です。
同じ鬼を使っていても、ことわざによって様々な意味となるのが面白いですね。この機会に鬼にまつわることわざをいくつか覚えてみてはいかがでしょうか?
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