小説やドラマなどで登場人物が「まるで苦虫を噛み潰したような顔だ」などというセリフを聞いたことはありませんか? 一度聞くと耳にのこる独特な表現ですが、一体どのような意味なのでしょうか。本記事では、「苦虫を噛み潰したよう」の意味や使い方、類語などを解説します。
「苦虫を噛み潰したよう」の意味
「苦虫を噛み潰したよう」は、「にがむしをかみつぶしたよう」と読みます。意味を辞書で見ていくと、
ひどくにがにがしい顔をするようす。不愉快そうな顔つき。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
となります。何か嫌なことをされると思わず顔をしかめたり、眉を潜めたりしますよね。そのような苦々しい表情やいかにも不愉快そうな顔のことを「苦虫を噛み潰したよう」と表現します。
ちなみに、他の辞書の説明を見る限り「苦虫」は、何か特定の虫を指すのではなく、「もし噛んだら苦いだろう」と思うような虫のことを指すようです。
使い方を例文でチェック!
「苦虫を噛み潰したよう」は、作品の中で聞くことはあっても、実際の生活の中で使うことは滅多にありませんよね。どのような使い方をするのが適切なのか、一緒にチェックしていきましょう。
1:昨夜酔い潰れたことを友達にからかわれて、田中くんは苦虫を噛み潰したような顔になった。
恥ずかしい失敗や過去の失態は、本人にとっては早く忘れたい出来事ですよね。それをわざわざ話題に出してくる友人に対して、苦々しく思っている場面です。「早く忘れたいから、もう口にしないで!」と考えていることが、その表情を見ればすぐにわかるでしょう。
2:薬を飲んで、妹は苦虫を噛み潰したような顔になった。
「苦虫を噛み潰したよう」はほとんどの場合、「苦虫を噛み潰したような顔」と表現されます。「良薬は口に苦し」という言葉もありますが、薬を飲んだ時の苦い味があまり得意ではない… という人も多いでしょう。薬を飲んで、顔を歪めている様子がイメージできますね。
3:記者から疑惑を追及されて、政治家は苦虫を噛み潰したような顔をした。
相手からつっこまれた質問をされて、答えに窮している場面です。何かしら後ろめたいことがあり話したくないのに詰問されると、思わず不快な感情が表に出てしまうこともあるでしょう。ニュースやテレビ番組で、このような場面を目にすることもありますよね。
類語や言い換え表現は?
不快な感情を表す言葉には、「苦渋」「渋い顔」「虫唾が走る」などがあります。いずれも、不快な気持ちが表情や仕草に現れている時に使われる傾向がある言葉です。早速意味を確認していきましょう。
1:苦渋
「苦渋(くじゅう)」の意味は、以下のとおりです。
[名・形動]
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
1 にがくてしぶいこと。
2 苦しみ悩むこと。また、そのさま。「―を味わう」「―の色を浮かべる」
「彼は―な表情のままじっと煙草を吸っていたが」〈横光・上海〉
物事がうまくいかず、悩み苦しんでいることを「苦渋」と言います。「苦渋の決断」「苦渋の表情」「苦渋に満ちた」などと表現されることが多いですね。難しい課題などにぶち当たり、「うーん…」と深く悩んでいる時の苦しげな顔は、まさに「苦渋の表情」と言えるでしょう。
(例文)
・政治家は退任を迫られ、苦渋の表情を浮かべていた。
・大会に出れば怪我が悪化する可能性もあると医師に告げられ、選手は苦渋の決断を迫られていた。
2:渋い顔
不機嫌そうな人のことを、「あの人、渋い顔をしているよね」などと言ったことはありませんか? 「渋い」には複数の意味があるため、辞書で確認していきましょう。
[形][文]しぶ・し[ク]
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
1 渋柿を食べたときなどの、舌がしびれるような味である。「―・いお茶」
2 はででなく落ち着いた趣がある。じみであるが味わい深い。「―・い声」「―・い色のネクタイ」「目の付け所が―・い」
3 不愉快そうな、または、不満そうなようすである。「―・い顔をする」
4 金品を出すのを嫌がるようである。けちである。「―・い客」
5 動きが滑らかでない。「湿気でふすまが―・くなる」
[派生]しぶさ[名]
主に3番目の意味が、「苦虫を噛み潰したような」と似ていますね。嫌なことを聞いた時などに「渋い顔」をするのがよくある例です。物事に対して否定的な考えを持っていたり、相手の言っていることを受け入れられない時に、このような表情をしてしまった! という方もいるのではないでしょうか?
(例文)
・知り合いから今度の選挙では、〇〇議員に投票してほしいとお願いされ、父は渋い顔をしていた。
・同僚から、仕事を代わりにやってほしいと言われ、彼女は渋い顔をしていた。
3:虫唾が走る
同じ「虫」を使ったことわざに、「虫唾が走る(むしずがはしる)」があります。こちらはどのような意味でしょうか?
胸がむかむかするほど不快である。「顔を見ただけで―・る」
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
嫌すぎて体までゾワゾワとすることを「虫唾が走る」と言います。「虫唾」とは、胃の病気などで胃がむかむかした時に、胃から逆流してくる酸っぱい液のこと。「顔を見ただけで虫唾が走る」というように、相手へ強い嫌悪感を抱いている場合に使われることが多い言葉です。あまり良い意味ではないので、使う際は誤解を招かないよう注意してください。
(例文)
・部長に肩を触られて思わず虫唾が走ってしまった。
・虫唾が走るので、その人の名前を口に出さないでください。
最後に
「苦虫を噛み潰したよう」は、ひどく不愉快そうな顔つきのこと。嫌なことをされて思わず顔をしかめたり、眉間に皺を寄せてしまうような表情のことです。あまり使う機会はないかもしれませんが、作品を見ている時に聞く機会があるかもしれません。その時には、本記事で紹介した意味や例文を思い出してみてくださいね。
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