「水を向ける」とは?
「水を向ける」という言葉が、「誘い」を意味することを知っていますか? 本記事でピックアップする「水を向ける」は、日常やビジネスシーンなどの会話で使える言葉。どのような意味を持つのか、どのように使うのかを一緒に見ていきましょう。後半では類語を紹介しますので、ぜひチェックしてくださいね。
まずは辞書で調べた意味を紹介します。
意味
水(みず)を向(む)・ける
読み方:みずをむける
1:霊前に水を手向ける。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
2:相手の関心が自分の思う方向に向くように誘いをかける。「それとなく—・ける」
「霊前」とは、死者の霊を祭った場所の前を意味します。「手向ける」とは、神仏や死者の霊に供物をささげること。「水を向ける」は、霊前に水を供えることです。
会話などで使うのは、2の意味。相手があることを話しはじめるよう上手く仕向けることや、関心をそちらに向けるよう持ちかけることを指します。「水を向ける」の具体的な使い方は、後述で紹介しますのでチェックしてください。
由来は?
「水を向ける」の由来について見ていきましょう。そもそもは「口寄せ」から生まれた言葉だとする説があります。
「口寄せ」とは、巫女が霊魂を呼び寄せ、自分の口を通して霊魂の思いを伝えること。口寄せをする際、水を入れた茶碗に樒(しきみ:仏前草のこと)を浮かべた呼び水を差し向けますが、これを「水向け」と言います。
霊魂を呼び出して話をさせることから、それが転じて「相手の関心が自分の思う方向に向くように誘いをかける」の意味で使われるようになったとされています。
「水を向ける」はどのように使う?
ここからは「水を向ける」の使い方を見ていきましょう。「誘い」に関連することで使いますので、「人物」「物」に対しては用いません。例文で具体的な使い方をチェックしてください。
《例文1》同僚が私の後輩に好意を持っているようだったので、共通の趣味のことを話すよう水を向けたが、上手く行かなかった
例文は、同僚と後輩の仲を取りもとうと考え、二人の共通の趣味の話ができるようにしたが失敗したことを表しています。これは相手を思ってのことですが、上手く行かないケースが多いですよね。
《例文2》春は大きな人事異動があると聞いたので、人事部にいる後輩から何か聞けないかと水を向けたが、上手くはぐらかされて終わった
人事異動が気になるのは誰もが同じでしょう。例文は、なんとか後輩から話を聞き出そうと話題をその方向にもっていったけれど、上手く交わされたという内容です。親しい人や、お世話になっている人であっても、情報を漏らすのはNG。社会人なら誰もが気をつけるべきことですね。
会話例も紹介
「水を向ける」をよく使うのは会話でしょう。会話例を紹介します。会社で、新人と主任が飲み会の話をしていると考えて読み進めてみてください。
新人「昨日の飲み会、課長の話が終わらなくてハラハラしました」
主任「課長はお酒が入ると話が長くなるからなぁ。終電には乗れたの?」
新人「はい。部長が帰り方の話に水を向けてくださったので、抜け出して帰れました」
主任「部長はいつも冷静で、周りをよく見ている人だからね。部長の存在は本当に大きいよ」
終電に間に合うよう帰りたいけれど、上司の話が長くて帰るタイミングをつかめないというのはよくあることですよね。会話例は、それに気づいた部長が話をその方向に持って行ってくれたので、終電に乗ることができたことを表しています。
「水を向ける」の類語と対義語
「水を向ける」を別の言葉に言い換えたい場合は、類語を使うのがいいですね。ここからは「水を向ける」の類語を紹介します。また、対義語も紹介しますので、チェックしてくださいね。
類語は「誘導」
「誘導」は、誘い導くことを表す言葉。人やものをある地点や状態に導くことを表す際に用いられています。「水を向ける」と近い意味を持ちますので、言い換えの表現として使うことができるでしょう。「話を誘導する」のように使います。
《例文》こちらが望むことを発言するよう誘導したが、ことごとく失敗に終わった
対義語は「話を逸らす」
「話を逸らす」とは、向かうべき方向や目標から他へ転じることを意味します。読み方は「はなしをそらす」。話題にしていることから、他の話題へ転じようとすることや、話をしたくないことや聞きたくない話題から脇へ逸らせようとすることを表すと考えてください。
《例文》親に知られたくないことに話が及びそうになったので、冷静を装いつつ話を逸らした
「水」を使った慣用句を紹介
「水を向ける」にもある「水」を使った慣用句は他にもあります。さまざまな表現がありますので、一緒に見ていきましょう。
「水と油」
水と油が互いに溶け合わないように、性質が合わずしっくり調和しないことを表すのが「水と油」です。人の相性に対して使われることが多いでしょう。「水と油の関係」「水と油のような状態」のように用いられています。
《例文》せっかちなAさんとマイペースなBさんは、顔を合わせると口喧嘩になる。まさに「水と油」の関係だ
「水が合わない」
「水が合わない」とは、その土地の環境になじめないことを表します。それが転じて、組織などに適応できないという意味でも使うようになりました。「職場の水が合わない」「チームと水が合わない」のように用います。
《例文》新しい部署に挨拶に行ったが、水が合わない気がして憂鬱だ
「水清ければ魚棲まず」
「水清ければ魚棲まず」とは、水が清冽すぎると、かえって魚はすまないものだという意味を表す言葉。「みずきよければうおすまず」と読みます。「清冽」とは、水などが清らかに澄み、冷たいことの意。心が清らかで私欲がないのは素晴らしいことだが、それが過ぎると、かえって他人から親しまれないことをたとえる際に使われています。
《例文》彼女は素晴らしい人格者だが、人間性が良すぎるからか人が近寄らない。まさに「水清ければ魚棲まず」の状態だ。
最後に
「水を向ける」という言葉について紹介しました。「水を向ける」は2つの意味を持つ言葉ですが、会話などで使うのは「相手の関心が自分の思う方向に向くように誘いをかける」の方でしょう。それほど頻繁に使う言葉ではないかもしれませんが、意味や適切な使い方を把握しておきたいですね。
TOP画像/(c)Adobe Stock